2020年07月14日

欧州保険会社が2019年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が4月から6月にかけて公表した単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)については、前回のレポートでその全体的な状況について報告した。

今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、長期保証措置と移行措置の適用による影響の説明について報告する。
 

2―長期保証措置と移行措置の適用による影響

2―長期保証措置と移行措置の適用による影響

1|長期保証措置と移行措置について
ソルベンシーIIにおいては、景気循環効果を制限して、ソルベンシーIIの新しい規制枠組みへの円滑な移行を促進し、特に困難なマクロ経済環境に適応するために必要な時間を会社に提供すること等を目的として、(1)リスクフリー金利の補外、(2)マッチング調整、(3)ボラティリティ調整、(4)リスクフリー金利の移行措置、 (5)技術的準備金に関する移行措置、(6)ソルベンシー資本要件に違反した場合の回復期間の延長、といった「長期保証(LTG)措置」や「移行措置」が導入されている。さらに、今回のレポートでは触れていないが、(7)株式リスクチャージの対称調整メカニズム、(8)デュレーションベースの株式リスクサブモジュール、といった「株式リスク措置」も導入されている1
 
1 これらの概要については、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書の概要報告-」(2020.1.24)等を参照していただきたい。EIOPAの報告書では、「長期保証(LTG)措置」と「移行措置」を合わせて、「長期保証(LTG)措置」と呼んでいる。
2|長期保証措置と移行措置の適用による影響
(1)適格自己資本やSCR(ソルベンシー資本要件)への影響
SFCRのQRTsのS.22.01.22においては、このうちの、(2)マッチング調整、(3)ボラティリティ調整、(4)リスクフリー金利の移行措置、 (5)技術的準備金に関する移行措置、の適用に伴う影響額が開示されている。

以下の図表が、欧州大手保険グループ5社(AXA、Allianz、Generali、Aviva、Aegon)の数値をまとめたものである。EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2019年12月17日に、「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2019(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2019)」2を公表しているが、ここでは、2018年における各国別のLTG措置や移行措置の適用状況についての報告が行われていた。今回のSFCRでのQRTs 等の公表では、2019年における個別会社・グループ毎の数値が明らかにされている。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用による影響(2019年末)
これによると、ボラティリティ調整については、各社が適用しており、それによるSCRへの影響額は7%~33%と幅のあるものとなっている。なお、上記の図表の数値は、例えば、ボラティリティ調整を0にした場合の影響額を示している。基本的には、これにより割引率が低下することから、技術的準備金が増加することで、SCRは増加し、適格自己資本は減少することになる。ただし、Allianzの場合、ドイツの生命保険会社において、SCRの増加に伴う利用不可能な控除の減少が適格自己資本にプラスに働く要素が大きくなっていることから、他の4グループとは異なり、適格自己資本への影響がプラスになっている。

一方で、Avivaはマッチング調整の影響が大きなものとなっており、さらに技術的準備金に対する移行措置を適用することで有意な効果を確保している。Aegonの場合、基本的にはボラティリティ調整のみを適用しているが、英国の子会社等でマッチング調整を適用している。
(2)SCR比率への影響
上記の影響額に基づいて、SCR比率(=適格自己資本/ソルベンシー資本要件)への影響を試算すると、以下の図表の通りとなる。

これによると、これらの措置を適用しなかった場合でも、Aviva以外は100%を超えるSCR比率を確保している。この状況は2018年末と同様である。また、長期保証措置や移行措置を適用したことによる影響度合いは、AXAとAvivaは 2018年末に比べて、2019年末の方が若干大きくなっているが、他の3グループは逆に影響度が低下している。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2019年末)/(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2018年末)
Avivaの長期保証措置や移行措置の適用による影響を分解してみると、以下の通りとなっており、マッチング調整適用による影響がかなり大きなものとなっていることがわかる。

(1) 技術的準備金に関する移行措置を非適用とした場合 : 154%(▲31%ポイント)
(2) ボラティリティ調整を非適用とした場合      : 170%(▲10%ポイント)
(3) マッチング調整を非適用とした場合        :  98%(▲87%ポイント)

同様に、Aegonの長期保証措置の適用による影響の分解は、以下の通りとなっている。

(1) ボラティリティ調整を非適用とした場合      : 179%(▲22%ポイント)
(2) マッチング調整を非適用とした場合        :  200%(▲1%ポイント)
3|長期保証措置と移行措置の適用対象
長期保証措置と移行措置の適用対象について、各社は以下の通り説明している(なお、ここでは、MA(マッチング調整)、VA(ボラティリティ調整)の略称を使用している)。

(1)AXA
一般勘定契約については、VAの100%、ユニットリンク契約には0%を適用

(2)Allianz
VAについて、生命保険契約については、変額年金を除く全ての契約に対して適用(技術的準備金への影響は937百万ユーロ(2018年末は2,105百万ユーロ)、損害保険契約については、監督当局が適用を承認した会社に対して適用(影響は285百万ユーロ(2018年末は771百万ユーロ)

(3)Generali
VAについて、生命保険ポートフォリオの98%に対して適用、損害保険ポートフォリオの93%に対して適用

なお、VAをゼロとした場合の影響について、技術的準備金が1,1757百万ユーロ(生命保険で1,107百万ユーロ、損害保険で68百万ユーロ(再保険控除ベース))増加する一方で、繰延税金で322百万ユーロ、規制上のフィルターで51百万ユーロの相殺効果があり、結果として自己資本は792百万ユーロ減少している。

(4)Aviva
MAは、Aviva Life & Pension UK Limited (UKLAP)、Aviva International Insurance Limited (AII)に適用

VAは、英国では、UKLAP、Aviva Insurance Limited(AIL)(損害保険業務)及びAII(生命保険及び損害保険業務)に適用、フランス及びイタリアでは承認申請の必要がない。適用可能な場合、UK Lifeにおけるユニットリンク契約を除いて、MAが適用されない全ての負債に対して、VAが適用される。トルコ、シンガポール、中国、香港及びインドでは、EIOPAによってVAが提供されておらず、VAが適用されていない。

技術的準備金に対する移行措置は、UKLAP、AIIに適用

各措置の適用対象や承認の状況等を附属資料に添付

(5)Aegon
MAは、Aegon UKに適用

VAは、Aegon the Netherlands、Aegon UK、Aegon Spainに適用

なお、Aegon Spainは2018年までは、MAと技術的準備金に対する移行措置を適用していたが、保険監督当局(DGSFP)の指示により、2019年は適用していない。これにより、Aegon SpainのSCR比率が100%を下回ったことから、資本注入を実施して100%の水準を回復している。
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中村 亮一

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