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緊急事態宣言と経済対策-想定を超えるスピードに政策は追いつけるか
基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.279]
総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
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1―緊急事態宣言の発令と延長
日本で発令された緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づくものであり、多くの措置は国民に対して協力を求める「要請」と法的な履行義務を持つが罰則を伴わない「指示」である。強制力が伴うものは、臨時に医療施設を開設する場合や必要物資(医薬品や食品など)を確保する場合など一部に限られている。従って、欧米のように大幅な私権制限を伴う「ロックダウン(都市封鎖)」を実施することは日本では難しく、海外に比べて強制力の点では弱い措置だと言える。しかし、規律を順守し、集団行動を得意とする国民性を踏まえれば、多くの市民や企業は、要請に沿って日常生活や営業活動の自粛を進めると見られ、実際に渋谷駅周辺で顕著な減少が見られるなど、人々の行動には明らかな変化が表れている。
一方で、今回の緊急事態宣言による経済的な影響は甚大だ。全国を対象に1ヵ月間の自粛が継続するとした場合、家計最終消費支出の約5割を占める不要不急の支出研究員の眼(「外食・宿泊」「娯楽・レジャー・文化」「交通」など)が抑制されることで、日本全体では▲12.5兆円( 国民経済計算2018年度ベース)の消費が減少し、名目GDPは▲2.3%低下すると計算される。これは、東京五輪延期に伴って先送りされる経済効果(約2兆円)を大きく上回る。さらに外出自粛が長期化すれば、消費が落ち込むだけに留まらず、生産調整も様々な業種で進むことになり、影響はより甚大になると考えられる。
2―求められる政策の「スピード感」「躊躇なく第二、第三の矢を打つ姿勢」
1つ目の懸念は政策の「スピード感」である。3月27日の2020年度予算成立から経済対策の閣議決定、そして4月中の補正予算の成立まで、予算の組み換えで遅れが生じたとは言え、過去の事例と比べても極めて早い対応であった。しかし、事態の悪化はそれを凌駕する。3月分の経済指標や企業の月次実績が公表されるにつれて、大幅な悪化や落ち込みが明らかになりつつある。国家財政が厳しい中で、ピンポイントの支援を実施すべきだという考え方もあるが、制度設計に拘り過ぎてしまえばスピード感が失われる。今は、少しでも早く困っている人や企業に支援を届けるべきときだ。支援の手が行き届くように、分かりやすい広報や相談窓口の充実などにも期待したい。
2つ目の懸念は「これで十分なのか」という点である。海外の事例を見ても事態の長期化は避けられないと見られる。収入が大きく減少して生活に苦しむ世帯や、事業継続の瀬戸際にある中小企業などでは、今回の緊急支援措置だけで乗り切れるのか、不安は消えない。本稿執筆時点(2020年5月11日時点)では、追加の経済対策として、家賃の支払いが困難なテナントや困窮する学生への支援、従業員に休業手当を支払う企業に助成する雇用調整助成金の拡充などが、検討されている。事態の長期化が明確になった今、短期的な支援からコロナの戦いが続く限りにおいて、家計や企業の支援を継続するという強い姿勢と、それを実現するための支援が不可欠だ。危機対応には「先手を打つ迅速さ」と「十分な規模感」をもって当たることが鉄則である。後に振り返って、余分な対策だったと言われる可能性もあるが、後手に回って社会経済に壊滅的な影響が出てからでは取り返しがつかない。まさに、今が正念場だ。
(2020年06月05日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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