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新型コロナ緊急事態宣言で何が変わったかー「ロックダウン」とはどういうものか
基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.279]
保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登
当時、「ロックダウン」「都市封鎖」といった用語が使われ、海外における道路封鎖や、外を出歩く人を取り締まる警官の姿の報道等があいまって強い統制を加えるかのような印象を与えていた。現時点では、日本の緊急事態宣言が、海外のような強制的な外出制限や移動制限を行うものではない、すなわち、いわゆる「ロックダウン」ではないことが共通認識となっている。しかし、当時は情報が少なかったため、法令に定める緊急事態宣言の内容を紐解くこととしたものである。
緊急事態宣言は、「新型コロナウイルス感染症が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼしているとき、または、そのおそれがあるものとして感染経路が特定できない、あるいは感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由があるとき」(新型インフルエンザ特別措置法(以下、単に法という)第32条、施行令第6条)に、期間、区域、概要を定めて発出される。緊急事態宣言が出されたときに、各種の要請・指示を行うのは、当該区域が属する都道府県の知事である。
各種の要請・指示に関連して法が定めているのは、以下の二つである。一つは、「生活の維持に必要な場合を除きみだりに居宅等から外出しないこと」の要請である(第45条第1項)。もう一つは、「学校、福祉施設(通所または短期間の入所により利用されるものに限る)、興行場、政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者、または当該施設を使用して催し物を開催する者(施設管理者等)」に対して、利用停止要請を行うこと、および要請に従わない場合に停止指示を行うことである(法第45条第2項、3項)。そして、これらの要請・指示違反に対する罰則等は存在しない。
つまり可能になるのは、外出自粛要請と、施設・催し物の閉鎖要請・指示だけであり、海外でみられるような、道路の封鎖や鉄道・バスの運行中止、強制的な自宅待機命令などを出すことはできない。
施設の閉鎖要請・指示対象となるのは、上記で出てきた施設に加え、「劇場・映画館、百貨店等の物販店舗、ホテル・旅館(集会の用に供される部分に限る)、キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール」等(施行令第11条)を対象としている。
他方、「食品、医薬品、医療機器その他の衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売り場」は明文で閉鎖要請・指示の対象から外れている(施行令第11条第7号かっこ書き)ので、生活必需品を取り扱う店舗が行政の要請・指示によって閉まるということはない。
むしろ、電気・ガス・水道等のインフラの維持(法52条)、医療提供体制の維持(法47条)、運送・通信等の維持(法第53条)に加え、食品や生活必需品の供給、あるいは金融機能といったような生活維持に必要な業務が途絶えることのないような対応が求められる。したがって、業種ごとに異なるが、緊急事態宣言に基づく外出自粛要請が行われる場合においても、一律に会社への出勤停止ということにはならず、各社において、輪番制出社など出勤者の削減が求められる。また、学校や保育所、ショートステイの高齢者施設等が閉鎖されることとなるため、家族の世話の必要から、出勤に支障が生ずる社員への配慮も求められる。
ところで、緊急事態宣言の眼目は医療提供体制の維持である。この観点から、行政は臨時の医療施設開設のための土地・家屋等の使用ができる(法第49条)。まずは所有者等の同意を得る必要がある(第1項)が、所有者等が正当な理由がないのに同意をしないときは、同意がなくとも土地・家屋等を使用することができる(第2項)。
なお、営業自粛や催し物の中止による損失補償については、法は何も定めていない。補償されるのは、検疫法による停留を受け入れた病院、医療施設のために使用する土地・家屋の所有者、医療品・食品等を売り渡すように要請を受けた所有者等、あるいは治療にあたっている間に感染してしまった医師等に限定されている(法第62条、第63条)。失業した人や収入が激減した中小事業者などへの支援は別途の支援政策として行われる。
戦後でみても、トップクラスの非常事態が発生した。政府・自治体には試行錯誤の部分もあったと思われるが、現時点(5月14日)で感染者数・死亡者数とも欧米に比して少なく済んでいる。これは各種の自粛に協力した方々、関係各所・医療従事者の方々の努力によるものであろう。
コロナ前に戻るためには、確立した治療薬とワクチンの開発が欠かせない。それまでは新しい生活様式にのっとって過ごしていくことが重要である。
(2020年06月05日「基礎研マンスリー」)
03-3512-1866
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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