2020年05月26日

目の不自由な方など印刷物を読むのが困難な方向けの保険会社の対応

小林 直人

文字サイズ

3――保険会社以外の対応事例

保険会社以外の目の不自由な方への対応事例を紹介しておく。
1国立国会図書館等における事例
国立国会図書館は学術文献録音図書の提供等を行っている14

専門性が高く、各機関で製作が難しい学術文献を録音図書の製作対象としている。

2002年からはそれまでのアナログ録音に代わり、すべてデイジー仕様によるデジタル録音で製作し、CD-ROMに記録している。

収集した公共図書館のデータと国立国会図書館が製作した学術文献の音声デイジー・点字データは国立国会図書館サーチの障害者向け資料検索から利用することができる15

国立国会図書館製作の学術文献録音図書(テープ及びデージー)は、国立国会図書館における来館利用のほか、貸出承認館として登録されている全国の公共図書館、大学図書館、点字図書館等を通して借り受け、その図書館内において、または自宅等に持ち帰って利用可能である16

音声デイジーについては、2014年1月からは視覚障害者等用データの送信サービスによって、データをインターネット経由で送信している。

点字データはダウンロードしてピンが上下に動いて物理的に点字を表示する機器である点字ディスプレイ等での利用が可能である。

視覚障害者等の利用に供するための学術文献を原本としたデイジー録音図書を製作するための要件をまとめた「学術文献録音図書(DAISY形式)製作に関する仕様書」において、作業概要等を公開している17
 
14 国立国会図書館「学術文献録音図書の製作と提供」(https://www.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/geppo201501/article01.html, 2020年5月19日最終閲覧)。
15 国立国会図書館「視覚障害者等用データの収集および送信サービス」(https://www.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/geppo201501/article04.html, 2020年5月19日最終閲覧)。
16 国立国会図書館「学術文献録音図書の製作と提供」(https://www.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/geppo201501/article01.html, 2020年5月19日最終閲覧)。
17 国立国会図書館「学術文献録音図書の製作」(https://www.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/supportvisual-02.html, 2020年5月19日最終閲覧)、国立国会図書館「学術文献録音図書(DAISY 形式)製作に関する仕様書ver.2019.1」2019年4月(https://www.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/docs/ac_audiodaisy_spec.pdf, 2020年5月19日最終閲覧)。
2水道使用量のお知らせや請求書等における音声コードの導入事例
水道使用量等のお知らせや請求書、「ねんきん定期便」や年金受給者に対する通知書、地図などにユニボイスが導入されている18

導入事例は特定非営利活動法人日本視覚障がい情報普及支援協会のホームページで紹介されている。
 
18 日本視覚障がい情報普及支援協会「音声コード Uni-Voice は、「読めない」ハンディを解決する“高アクセシビリティ情報発信”を提供します!!」(https://www.javis.jp/index.php, 2020年5月18日最終閲覧)、「音声コードUni-Voiceのご案内」(https://www.javis.jp/pdf/JAVIS_201909.pdf, 2020年5月15日最終閲覧)、日本年金機構「『ねんきん定期便』に印刷されている音声コードとはなんですか。」(https://www.nenkin.go.jp/faq/nteikibin/teikibinkisainaiyo/sonota/1003.html, 2020年5月18日最終閲覧)、日本年金機構「視覚障害のある年金受給者に対する通知書の改善について」(https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2018/201806/2018060102.html, 2020年5月18日最終閲覧)。
3東日本旅客鉄道株式会社の事例
東日本旅客鉄道株式会社は、一部のホームページについて、一部漢字をひらがなで表記することで、音声読み上げソフトへの対応に配慮して制作している19
 
19 東日本旅客鉄道株式会社「目の不自由なお客さまへ」(https://www.jreast.co.jp/equipment/equipment_2/, 2020年5月25日最終閲覧)。
 

4――その他の支援機器・ソフト

4――その他の支援機器・ソフト

デイジーやユニボイスの導入事例を紹介したが、それ以外の支援機器・ソフトをいくつか紹介しておく20
 
20 電⼦出版制作・流通協議会「電⼦書籍等の情報アクセシビリティの現状等に関する調査研究報告書」2019年3月29日52頁 (https://www.soumu.go.jp/main_content/000637255.pdf, 2020年5月19日最終閲覧)以下に多くの例が紹介されている。
1触覚を利用した機器・ソフト~点字文書作成ソフト・点字プリンター等
原文テキストを仮名と点字に変換するソフト21、点字を紙に印字する装置がある22

また、画面に表示される文字情報を点字ピン・ディスプレイに出力する装置もある23
ケージーエス:ブレイルメモスマート Air16 BMSAIR16
 
21 電⼦出版制作・流通協議会「電⼦書籍等の情報アクセシビリティの現状等に関する調査研究報告書」2019年3月29日74頁 (https://www.soumu.go.jp/main_content/000637255.pdf, 2020年5月19日最終閲覧)、エクストラ「EXTRA for Windows Version 7」(http://www.extra.co.jp/extra/index.html, 2020年5月19日最終閲覧)。
22 日本テレソフト「点字プリンター」(https://www.nippontelesoft.com/menu/pri.html, 2020年5月25日最終閲覧)。
23 電⼦出版制作・流通協議会「電⼦書籍等の情報アクセシビリティの現状等に関する調査研究報告書」2019年3月29日75頁 (https://www.soumu.go.jp/main_content/000637255.pdf, 2020年5月19日最終閲覧)、ケージーエス「点字ディスプレイブレイルメモスマート Air16 BMSAIR16」(https://www.kgs-jpn.co.jp/index.php?%E8%A3%BD%E5%93%81%E8%A9%B3%E7%B4%B0, 2020年5月19日最終閲覧)。
2聴覚を利用した機器・ソフト~パソコンの画面読み上げソフト・音声読書機
パソコンの画面情報を音声で読み上げるソフト24や目の前の文書を読み上げる超小型のウェアラブル音声読書機がある。

超小型のウェアラブル音声読書機としては、メガネのフレームに装着して、目の前の文書を読み上げる音声読書機があり、本体のタッチバーに触れるだけの簡単操作で、カメラの視野に入った目の前の文書を明瞭な男性音で読み上げる装置である25
オーカム:OrCam My Eye2》〔アメディアホームページより
 
24 日本理学療法士協会「障害者自立支援機器の活用のための支援体制構築の活性化に向けた調査研究事業報告書」2018年3月10頁 (http://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/chosa/h29_03.pdf, 2020年5月20日最終閲覧)、日本理学療法士協会「障害者支援機器の活用ガイドブック」2018年3月12頁 (http://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/chosa/h29_05.pdf, 2020年5月20日最終閲覧)。
25 電⼦出版制作・流通協議会「電⼦書籍等の情報アクセシビリティの現状等に関する調査研究報告書」2019年3月29日56頁 (https://www.soumu.go.jp/main_content/000637255.pdf, 2020年5月20日最終閲覧)、オーカム「OrCam MyEye 2.」(https://www.orcam.com/ja/myeye2/, 2020年5月20日最終閲覧)、アメディア「ウェアラブルデバイス OrCam My Eye2」(http://www.amedia.co.jp/product/visual/videomagnifier/OrCam.html, 2020年5月20日最終閲覧)。
 

5――おわりに

5――おわりに

多くの保険会社では近年、ご契約のしおり・約款をホームページで公開したり、CD-ROMに収めて配付したりしているので、従来の印刷物とは異なり、パソコンの音声読み上げ機能が使える場合も多いであろう。複数の保険会社の保険商品の約款について、筆者のパソコンのMicrosoft Edgeの「音声で読み上げる」という機能を使って試してみたところ、音声で提供された。しかし、一般に指摘されているように、日本語の場合、漢字の読みという課題があるようである26。今回試してみた約款の読み上げでは、文字間にスペース(空白)がない漢字語句の場合、例えば、「支払事由」、「免責事由」はそれぞれ「シハライジユウ」、「メンセキジユウ」と正しく読み上げられた。しかしながら、(明治安田生命保険の既述の「米ドル建・一時払養老保険」以外の保険商品の約款やデイジーではなくパソコンの音声読み上げソフト等を使用するために提供されている既述の「米ドル建・一時払養老保険」約款のテキストデータをwindowsの「ナレーター」機能で音声読み上げした場合も含めて)「保険金」、「給付金」は正しくはそれぞれ「ホケンキン」、「キュウフキン」と読むべきところを、「ホケンカネ」、「キュウフカネ」と読み上げられた。これに対して、先に紹介した明治安田生命保険の「米ドル建・一時払養老保険」の音声約款(デイジー)では、「保険金」は正しく「ホケンキン」と読み上げられた。今後、こうした点の改善がさらに進められて、精度の向上が図られることを期待したい。
 
26 電⼦出版制作・流通協議会「電⼦書籍等の情報アクセシビリティの現状等に関する調査研究報告書」2019年3月29日33頁、35頁 (https://www.soumu.go.jp/main_content/000637255.pdf, 2020年5月20日最終閲覧)。
Xでシェアする Facebookでシェアする

小林 直人

研究・専門分野

(2020年05月26日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【目の不自由な方など印刷物を読むのが困難な方向けの保険会社の対応】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

目の不自由な方など印刷物を読むのが困難な方向けの保険会社の対応のレポート Topへ