2020年05月12日

新型コロナウイルスの感染拡大を受けての保険監督当局等の対応(2)-米国のNAIC、豪州のAPRA、カナダのOSFI-

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1―はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、保険会社も大きな影響を受けることになっているが、これに対して、各国・地域の監督当局も迅速に必要な対応を行ってきている。

5月1日の保険年金F「新型コロナウイルスの感染拡大を受けての保険監督当局等の対応-欧州のEIOPA等のケース-」では、欧州のEIOPA(欧州保険年金監督当局)のこれまでの対応及びそのうちの配当及び自社株買い停止要請を受けてのEU加盟各国の保険監督当局や保険会社の対応について報告した。

今回のレポートでは、米国のNAIC(全米保険監督官協会)や各州保険監督当局、オーストラリアのAPRA(オーストラリア健全性規制機構)、カナダのOSFI(金融機関監督官局)の対応及び米国の保険会社の配当支払いに関する対応状況について、焦点を絞って報告する。
 

2―米国のNAICの対応

2―米国のNAICの対応

1|コロナウイルスリソースWebページの開設
NAICは、3月4日には、コロナウイルスのリソースセクション1をWebサイトに追加し、公共、企業、保険の専門家をサポートしている。

このWebページには、COVID-19の流行に関する最新情報と、エクスポジャーのリスクを軽減するための情報が記載されている。これは、WHO(世界保健機関)、CDC(疾病予防管理センター)、ジョンズ・ホプキンス大学のインタラクティブなWebダッシュボードへのリンクによって行われ、COVID-19の報告された症例をリアルタイムで視覚化し追跡している。

保険会社が事業運営に病気が及ぼす可能性のある影響を理解し、対応計画を支援するために、有名な国際的な出版物及び格付け機関へのリンクもある。

具体的には、以下の5つの大きなカテゴリに分かれている。

(1) 州の速報とアラート
保険に影響を与えるCOVID-19のパンデミックに対応して取られた州の行動を見つけることができる。生命保険、健康保険、損害保険等の区分に応じて、州毎の行動を確認できる。

(2) NAICリソース
COVID-19に関するNAICのプレスリリースや声明、さらにはレポート等が確認できる。

(3) その他のリソース
WHO、CDC、ジョンズ・ホプキンス大学等へのリンクが確認できる。

(4) 保険の補償範囲
保険セクターはCOVID-19の流行の影響を受けているが、個々の会社及びセクター全体として、米国の保険セクターは依然として強力であり、パンデミックの影響を受ける消費者及び企業に保護を提供する上で果たすべき独特の役割を担っていると述べている。さらに、いくつかの保険種類には、COVID-19の結果としてトリガーされる可能性のある規定と除外があるとしている。

そして、最も一般的な保険種類の商品として、健康保険、旅行保険、生命保険、事業中断保険/イベントキャンセル保険、労働者災害補償保険、責任保険、ペット保険についての具体的な補償内容を説明している。

この中で、事業中断保険/イベントキャンセル保険と労働者災害補償保険については、その補償範囲が世の中一般において大きくクローズアップされてきているが、以下のような説明がなされている。

事業中断保険/イベントキャンセル保険
事業中断保険は、中断された運用期間に起因する損失から保護します。事業の中断がなかった場合に得られるはずだった収益の損失を支払います。それは通常、財産への物理的な損失を必要とし、COVID-19のようなウイルス感染に対して特定の除外があるかもしれません。偶発的な事業中断保険は、サプライチェーンの混乱による損失から保護しますが、物的損害を必要とする場合があります。通常、契約はCOVID-19などの伝染病の対象範囲を除外します。 

全ての企業がスタンドアローンの事業中断契約を有しているわけではありません。ただし、責任範囲と資産範囲を1つの契約にパッケージ化した契約は、通常、事業の中断にある程度の範囲を提供します。殆どの事業財産保険は、特定の列挙付き危険、特定された原因による損失に保険をかけるか、特定の列挙付き危険を除外して補償を提供します。これらの契約では、カバーされた危険に加えて、事業の中断が直接的な物理的損失の結果であることが要求されます。

保険契約者は、保険契約を注意深く読んで、保険契約が事業の中断及び関連する追加費用に提供する補償範囲の初期範囲、及び補償範囲を制限する除外又は条件を決定することが重要です。保険代理店/ブローカーと保険会社の両方に相談して、提供される正確な補償範囲を決定してください。

労働者災害補償保険
労働者災害補償保険は、事業所で接続又は事業活動に起因する仕事関連の怪我や病気をカバーします。通常、労働者の補償は、従業員の医療費、リハビリ費用、及び少なくとも失われた賃金の一部をカバーします。労働者災害補償契約は通常、職業性疾患のみを対象とします。これは、自分の仕事に固有又は特有の疾患です。通常の生活の病気は対象外です。COVID-19は、個人がどのように契約したか、職業、特定の契約に応じて、特定の限られた状況でカバーされる場合があります。

ただし、全ての保険契約と同様に、消費者は保険書類を確認し、保険代理店又はブローカーに連絡して支援を求め、質問がある場合は州の保険部門に連絡する必要があると述べている。

また、これに関連して、NAICは、3月16日に、消費者、立法者及びビジネス関係者が影響を理解するのに役立つことを期待して、影響を受ける可能性のある一般的な契約種類についてのブリーフ「NAIC Insurance Brief:COVID-19 and Insurance」2を作成して公表している。

(5) 消費者
COVID-19に関連しての詐欺に関する警戒を呼びかける等のリンクが確認できる。

これに関連して、NAICは「COVID-19詐欺から身を守るためのヒント」3として、詐欺師を寄せ付けないようにするための手順を実行することを求めている。
2|コロナウイルスに関する特別セッションの開催
NAICは、3月20日に、WebExを介してCOVID-19に関する特別セッションを開催している。この特別セッションでは、パンデミックモデリング、保険適用範囲に関する情報、保険業界への財政的影響、保険会社の準備状況など、様々なプレゼンテーションが行われた。

これに関する情報は、上記のNAICリソースに含まれている。
3|配当支払いに関して
5月1日の保険年金フォーカスで報告したように、EIOPAは配当支払いや自社株買いを停止するように要請する声明を発出しているが、これまでのところNAICは同様の声明を発出していない。

これについては、米国の保険会社が連邦政府ではなくて、各州によって規制されていることから、規制環境が欧州とは異なっていることが関係している。

監督当局は保険会社の配当政策を以前よりも慎重に精査しており、ソルベンシーが脅かされている場合は行動を起こすことになる。会社が引き受けるリスクや投資エクスポジャーなど、考慮すべき多くの要素があり、主に監督当局がケースバイケースで比較検討する必要があるとされている。
4|法定会計原則(SAP)の解釈について
NAICの法定会計原則(E)ワーキンググループは、4月16日に、法定財務諸表への影響に関する保険報告主体の懸念を軽減しながら、保険料支払い延期に対する保険契約者のニーズに対応し、住宅ローンの変更や支払猶予の要求に対応することができるように、COVID-19に関連する3つの解釈を採択4した。

これにより、COVID-19に対応して修正された住宅ローン又は銀行ローンを問題のある債務再編として分類する際に、保険会社にアロウワンスが提供され、またCOVID-19に対応して、銀行ローン、抵当貸付及び投資が、変更又は支払猶予により主に抵当貸付を保有する場合の、繰延保険会社の減損評価が可能になる。  

3―米国の各州保険監督当局の対応

3―米国の各州保険監督当局の対応

ここでは、代表的な州保険監督当局として、NY(ニューヨーク)州とCA(カリフォルニア)州のケースを報告する。
1|NY
NYDFS(NY州金融サービス部門)は、COVID-19パンデミックを管理するために、健康保険会社が取るべき以下のような一連の措置を発行している。

1.利用可能なメリットを消費者に通知し、消費者の問い合わせに迅速に対応し、消費者の応答とメリットを合理化するために必要な修正を検討するためのリソースを投入する。

2.COVID-19検査のコスト共有を放棄するなど、COVID-19検査の障壁を取り除く。

3.プロバイダーネットワークの妥当性を検証し、ネットワーク外サービスへのアクセスを提供するための例外を作成する。

NYDFSはまた、保険会社に、ネットワーク内の遠隔医療訪問のための控除額、自己負担金又は共同保険を含む費用分担を放棄することを要求する新しい緊急規制を採用している。

さらに、NYDFSは、NYで事業の中断及び関連する補償を提供する全ての損害保険会社に、商業保険契約者に「給付の明確かつ簡潔な説明」を送信するよう指示した。

具体的には、以下のような形で、各種の対応が順次行われてきている。

3月2日に、クオモNY州知事がNY州の保険会社に対して、コロナウイルス検査の費用負担を免除することを要求する新しい指令を公表5 し、3月13日には、NYDFSが健康保険会社に新しいコロナウイルス検査の費用負担を免除するように指示する緊急規制を採択した6

3月17日には、保険会社にネットワーク内の遠隔医療訪問の費用負担を免除することを要求する緊急規制を採択した。

3月20日には、保険会社に対して、COVID-19の間、NY州の病院における事前承認と管理要件を一時停止するように勧告した7

3月30日には、COVID-19が原因で経済的困難に直面している消費者は、生命保険料の支払いを90日間延期でき、COVID-19が原因で経済的困難に直面している消費者及び中小企業は、損害保険料の支払いを60日間延期できるとすることを義務付ける緊急規制を発行した8。4月2日には、健康保険会社に対して、COVID-19に起因する財政上の困難を経験している消費者及び企業に対して、6月1日まで保険料の支払いを延期することを要求し9。4月8日に緊急規制を発行した10

5月2日には、NYDFSは、COVID-19の間、最前線のスタッフのネットワーク内メンタルヘルスサービスの自己負担費用を免除するように保険会社に要求する緊急規制を発行した11
2|CA
CA州保険部は、3月5日に、健康保険会社に対して、次の措置をとるように指示した12

1.企業健康保険を提供する場合、COVID-19検査の費用分担を放棄する。

2.登録者がケアにタイムリーにアクセスできることを確認する。

3.消費者がCOVID-19の医学的に必要な全てのスクリーニングと検査にアクセスできるように、積極的に行動する。

CA州のコミッショナーはまた、3月18日に全ての健康保険会社に、COVID-19緊急事態の期間中、医学的に必要な医療サービスへの継続的なアクセスを保証する方法を詳述した緊急計画の提出を求めた13。さらに、同じく3月18日には、60日間の保険料猶予期間を要求した14

4月3日には、COVID-19の緊急事態後まで、保険契約者の請求期限を延長するよう要求した。

4月13日には、その告示により、州内の保険会社に少なくとも6つの異なる保険事業(個人の乗用車、商用車、労働者補償、企業総合保険、企業賠償責任、医療過誤)及びパンデミックの結果として損失のリスクが大幅に低下したその他のあらゆるラインに対して、「保険料クレジット、減額、保険料の払戻し又はその他の適切な保険料の調整」を提供するよう要求15した。この措置は、継続的なCOVID-19によるロックダウンが発生した場合に、3月、4月、場合によっては5月に実施され、「運転距離が短くなり、多くの企業がCOVID-19の緊急事態により閉鎖されたため、消費者は現在の事故や損失のリスクを反映しない保険料からの救済を必要としている。」との理由に基づいている。

4月14日には、保険会社にCOVID-19によって引き起こされた全ての事業中断請求を公正に調査することを要求した16
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中村 亮一

研究・専門分野

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