2020年04月27日

EIOPAのソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPに対する反応-欧州保険業界団体等からの意見-

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4|ソルベンシー資本要件(SCR
現在の市場リスクに係る自己資本規制は、保険会社がさらされている実際の経済リスクを適切に反映していない。標準式サブモジュールの較正に関するEIOPAのアドバイスに失望している。

EIOPAの金利リスクの再調整に関する提案は、低金利がどのように進むかについての過度に理論的かつ仮説的な見解に基づいている。また、EIOPAが金利期間構造の補外部分にファクター・ベースのストレスを使用することは、経済的に不正確であり、負債の計算と矛盾する。その提案は過剰な資本要件を作り出す。

マイナス金利は現実だが、EIOPAの方法論が示唆する極端な水準のマイナス金利が正当化される、あるいは可能であるという証拠はない。現在の金利SCRの方法論を変更する際には、将来を想定せずにマイナス金利の現実を反映したフロアを設けるとともに、ビジネスモデルへの影響を考慮する必要がある。同様に、ショックは最終流動性点まで適用することが重要である。

ソルベンシーIIにおける社債の取扱いの誤りを解決するため、動的VAを標準式に拡大することを支持する。欧州全域のデータに基づき、不動産リスクショックを低減し、基礎的なリスクをより良く反映することを支持する。

解約リスクサブモジュールは、高すぎるように設定され、実際には緩和効果を持つ契約を除外するため、改訂が必要である。金利低下リスクとスプレッドリスクの間の相関パラメータも、EIOPAによって提示された証拠を反映するように引き下げるべきである。

リスク軽減に関して、業界は、EIOPAが非比例再保険とベーシスリスクに関する現行の標準式の欠陥に対処するための潜在的な解決策を提案していないことに失望している。

カウンターパーティデフォルトリスクに関しては、EIOPA自身の分析で最も技術的に正しく負担が少ないとされている政策オプション3を支持している。したがって、EIOPAが誤った政策オプション2を支持することを選択したことは驚くべきことであり、保険会社にとってより大きな計算負担となる。
5|最低資本要件(MCR
MCRコリドーの計算を変更しないというEIOPAの提案を歓迎する。

MCR不遵守のリスクがある場合に介入段階に関する特定の要件を追加するというEIOPAの提案に反対する。NSAsの行動の柔軟性を維持することは、保険契約者の最大の利益となる可能性が高い。

ソルベンシーII報告の簡素化の一環として、EIOPAは生損保兼営会社の想定MCRの報告に関するテンプレートを削除すべきである。実際、EIOPA自身の分析によれば、これは限定的な価値しかなく、NSAsが適切に使用することはできず、また、これを削除することで、保険契約者の利益を損なうことなく負担を軽減できることが示されている。
6|報告及び開示
EIOPAが以前の報告協議において報告の負担を軽減する意図を表明したことを歓迎する。いくつかの肯定的な提案がある一方で、全体としてEIOPAの提案は全体的な負担を減らすというよりはむしろ増加させる。

(1)QRT(定量的報告テンプレート)
・EIOPAがまれにしか使用されない多くのQRTsの削除を提案していることを歓迎するが、他のQRTsもまた削減可能である。

・グループに属する全ての単独保険会社の免除の条件なしにグループ報告の免除を認める提案を支持する。

・内部モデル使用者に標準式報告要件を導入する提案は、煩わしく、不必要で、誤解を招く恐れがあることから、同意しない。

・多数の既存のQRTsに対して提案されている変更は、費用がかかり、監督上のベネフィットによって正当化されないことから同意しない。

・第4四半期のレポート作成機能を廃止する必要がある。

(2)SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)
・業界は、グループSFCRの翻訳要件が撤廃されたことを歓迎する。

・新しい監査要件に対する提案に強く反対する。

・この協議文書全体に広がっている様々な報告・開示提案の追加は支持しない(VA、LTG措置に関するリスク管理/開示規定、最良推計及び補外)。

・SFCRは、非常に短い単純な保険契約者区分とナラティブのための何らの要件がない公開QRTsデータの単純なデータ抽出のみで構成されるように簡素化すべきである。

(3)RSR(定期監督報告)
・RSRのデフォルトの頻度は3年で調和されるべきであり、グループは単一のグループRSRを作成するオプションを持つべきである。業界は、この分野における提案が意見書草案に含まれていないことに失望している。

・RSRの構造と内容を改訂する提案が負担を軽減するとは考えておらず、提案されたSFCRの削減の一部はRSRに単純に移されると指摘している。
7|比例性と臨界値
EIOPAの臨界値に関する提案を支持しており、例えば加盟国が保険料収入の臨界値を2500万ユーロまで引き上げるという選択肢を支持している。

ソルベンシーIIにおける比例性の適用を改善するという欧州委員会の野心を歓迎する。保険会社が、その活動の規模、性質及び複雑さに基づいて、最終的に保険契約者が負担しなければならない不必要なコストを回避できることを確保するために、変更が必要である。

EIOPAの比例性改善の努力を支持しているが、その提案は比例性の効果的かつ効率的な適用を確保するには不十分である。比例関係が実際に機能し、全ての会社にとって潜在的なツールとして利用できるようにするためには、次のような追加の変更が必要である。

・この指令は、NSAsが、近似値、簡素化されたアプローチを用いることにより、又は必要に応じて要件を適用しないことにより、会社が比例性の考慮により特定の要件から逸脱することを許容すべき場所を常に検討する義務があることを明確にしなければならない。

・「ツールボックス」は、事前に定義されたリスクベースの基準を満たしたときに会社が自動的に適用できる、網羅的ではない事前定義の簡略化(代替計算方法及び/又は特定のレポート・テンプレートからの除外)で作成する必要がある。

・EIOPAは、ESAs(欧州監督機構)のレビューによって構築された比例性に関する委員会との関連で、比例性に関する年次報告を公表すべきである。報告書は、加盟国ごとの比例原則の適用を評価し、その有効性と一貫性を改善する方法について提案する(報告の制限と免除の使用に関するEIOPA報告書と同様)。

さらに、比例性の適用が金メッキにならずに、比例性を誤用して一部の保険会社の負担を増大させてはならないことに留意すべきである。
8|グループ監督
EIOPAが提案している、グループ監督の分野における変更に関する多数(合計30以上)の提案に幅広く反対している。

これらの措置の殆どは、監督実務のコンバージェンスを改善することを目的としている。改善の必要性はあるかもしれないが、これは法律の改正によってではなく、監督ハンドブック、ワークショップ、監督カレッジなどを通してより適切に達成されるべきである。これらのツールはまた、NSA間、及びEIOPAとNSAs間の対話を促進し、特定のグループの特異性によって発散的実践が正当化される理由と方法に関する理解を深めるのに役立つ。これにより、NSAsがグループの様々な構造とリスクプロファイルに適応できるようにするために必要な規制の既存の柔軟性が失われることも回避される。いずれの場合も、EIOPAが任意のツールを介して裁定することを選択する場合、一部の提案はグループのソルベンシー・ポジションに重大な影響をもたらすか、他の意図しない結果をもたらす可能性があるため、全ての措置は事前に詳細な影響評価の対象となる必要がある。さらに、グループの自己資本及びグループのソルベンシーに関して提案された修正案を考慮すると、これらの修正案の潜在的な影響を、単体レベルでの修正案の影響と一緒に検討することが重要である。

特に、保険持株会社及び混合金融持株会社を含む連結最小グループSCRの範囲が拡大していることが懸念される。EIOPAは最小連結グループSCRの計算を変更せずに残すことを提案しているため、これはグループSCR以前に違反されるリスク(トリガー反転)を増加させ、それによって最小連結グループSCRの設計の既存の弱点を悪化させることになる。第2の方法(D&A)で集計された会社への通貨・集中費用の追加も同様に懸念される。いくつかの慎重なバッファーがすでに存在する場合には、慎重さを増すことになると思われるからである。これは、EIOPAが回避しようとしている追加的なリスクの二重計上を容易に引き起こす可能性があり、グループに多大な資本的影響を与える。

また、EPIFPや、技術的準備金や利率に関する移行措置のベネフィットをグループレベルでデフォルトでは利用できないとする提案は、経済実態を反映しておらず、不適切である。これらの措置は、ソルベンシーIIのリスク感応度を低下させる一方で、グループのソルベンシー及びSCRに重大な悪影響を及ぼす可能性がある。

さらに、NSAsがグループを再構築したり、水平的グループの責任者として指定される会社を選択したりするために提案されている追加権限は、(理論上の)ベネフィットに比べて過度に侵食的であまりにも広範囲に及んでいる。

さらに、特定の問題が報告されておらず、唯一の正当性が純粋に理論的かつ仮説的なものである場合には、定義や追加要件について新たに説明する必要はない。いかなる変更もコストと負担をもたらす可能性があるため、変更はそれが必要であり、コスト/ベネフィトベースで正当化される強力な証拠がある場合にのみ行うべきである。特定の問題が発生した場合には、NSAsと監督カレッジがアドホックベースで解決することができる。

前節で述べたように、比例性を高める措置は、グループ監督の分野においても歓迎される。NSAsは、規制に記載されている詳細な要件からの逸脱につながる場合を含め、グループのリスクに適切な場合には、比例性を許容し、奨励し、要求しなければならない。
9|サービス提供の自由と設立の自由
サービス提供の自由(FOS)と設立の自由(FOE)を通じて国境を越えて営業する保険会社の監督を強化し、その破綻を防止し、フィット&プロパー要件を適切に評価するというEIOPAの勧告を歓迎する。

特に、双方の義務を強化し、自国の保険会社の国境を越えた活動に関する自国のNCAs(各国管轄当局)の責任を増大させることにより、自国と受入国のNCAs間の協力を強化する努力は歓迎される。提案された手段は、NCAs間の協力が十分でない場合(又は失敗した場合)にEIOPAが介入するために必要な手段を与えるものであり、これもまた歓迎される。国内市場でも、FOS/FOEを通じた他の市場でも、加盟国間で管理レベルが同じであることが不可欠である。
10|マクロプルーデンス政策
保険セクターがもたらすシステミック・リスクが限定的であること、ソルベンシーIIによって既に包括的な保護が提供されていることを考慮すると、多額の初期費用及び/又は継続的費用をもたらす新たな措置を正当化する理由はない。システミック・リスクに対処するための国際的な枠組みが存在し、欧州委員会のCfAがこの枠組みを大きく反映していることを認識している。

したがって、欧州委員会のCfA(強化されたORSA及びPPP、LRMP、SRMP、プリエンプティブな再建及び破綻処理計画)で具体的に言及された措置のみが検討されるべきであり、導入された場合には、それらの措置は、既存のソルベンシーIIの枠組みが特定された重大なシステミック・リスクに対処するには不十分であることが示され、かつ、これらの新たな措置を適用することのベネフィットがコストを上回ることが明確に示される場合にのみ、強い比例性の規定を用いて実施されるべきである。

ソルベンシーIIでは、上述した全ての理由から、欧州委員会のCfAや全体的枠組みを超える措置を検討することは正当化されないが、それは欧州が他の国・地域と比較して競争上不利な立場に置かれるからである。残念ながら、EIOPAは欧州委員会のCfAや全体的な枠組みを超えた提案を数多く行っており、業界はこれに強く反対している。特に、業界は、システミック・リスクに対して新たな資本サーチャージを適用する監督権限や、SCRが不遵守となる前に新たな介入権限を付与することに強く反対する。
11|再建及び破綻処理計画
EIOPAのプリエンプティブな再建計画に関する提案に関しては、全体的な枠組みに概ね沿っているように思われるが、リスクベースのアプローチと比例性が不可欠である。ソルベンシーIIでは、SCRが達成された場合には、既に全ての会社が再建計画を策定することが求められているため、この要件は、EUレベルでの重大なシステミック・リスクの軽減という点で、計画が明確なメリットをもたらす会社にのみ適用されることが重要である。したがって、国内市場の市場シェアのカバレッジに基づく再建及び破綻処理計画については、要求すべきではない。

破綻処理措置に関しては、グローバルな包括的枠組みを超える正当性はない。保険業界はまた、破綻の大部分を処理するにはランオフとポートフォリオの移転で十分であることを強調している。したがって、EIOPAによって提案された破綻処理ツールキット内のより抜本的な措置は、慎重に検討されるべきである。

健全な会社の日常業務、特に再建及び破綻処理のための障害の除去と早期介入の権利に監督上の介入は必要ない。そうでなければ、ソルベンシーIIは、再建及び破綻処理要件と言う名目の下で、損なわれることになるだろう。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAによるソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPに対する保険業界団体Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の欧州委員会への提出意見及び、CFO Forum及びCRO Forumとの共同意見について報告した。

こうした意見に対して、EIOPAあるいは欧州委員会がどの程度耳を傾けるのかは不透明だが、いずれにしても、EIOPAは、今回のCPに対する意見等も踏まえて、再検討を行い、6月30日までに欧州委員会に助言を行う予定6 となっている。

欧州委員会宛の2020年レビューに関する助言内容がどのようなものになるのか、それを踏まえて欧州委員会や保険業界が今後どのように対応していくことになるのか等については、それが今後のIAISにおけるICSへの議論に影響を与える可能性もある。従って、日本の保険業界関係者にとっても大変関心が高く興味深い事項であることから、これらの動きについて引き続き注視していくこととしたい。
 
6 このスケジュールについては、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、見直されることが想定されている。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年04月27日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

【EIOPAのソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPに対する反応-欧州保険業界団体等からの意見-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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