2020年04月21日

欧州大手保険グループの2019年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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(3)トピック
Avivaは、2017年11月に、2019年末までに30億ポンドの現金を投入するという計画を述べていた。このうち、2018年においては、(1)6億ポンドの株式買戻し、(2)約9億ポンドの債務のレバレッジ解消、(3)アイルランドにおけるFriends Firstの買収、等で17億ポンドが実施された。残りの13億ポンドについては2019年以降に持ち越された。

なお、Avivaは、2019年から2022年の間に、約30億ポンドの満期債務を抱えており、そのうち15億ポンドを再融資(リファイナンス)することなく返済する予定である、としている。2018年の決算報告時に、プロフォーマベースでは、これにより、未払債務残高は約20%減少し、ソルベンシーII自己資本に対する債務の比率は29%に4%ポイント減少し、SCR比率は194%に10%ポイント減少する、と述べていた。

2019年11月に2.1億ポンドのステップアップTier1保険資本証券の償還を行っている。

なお、3月に新しくAvivaのグループCEOに就任したMaurice Tulloch氏は、複雑な事業体構成を見直し、より強い説明責任と経営の焦点化を図る観点から、英国の生命保険と損害保険事業を分割すると述べている。また、アジア事業の戦略的選択肢を検討していると述べている。

なお、2019年11月には、Aviva Investorsと英国の貯蓄事業で、Investments Savings&Retirement(IS&R)と呼ばれる複合事業セグメントを形成する計画を発表している。また、2020年3月には、インドネシアのジョイントベンチャーPT Astra Aviva Lifeの持分をPT Astra International Tbkに売却することでインドネシア市場から撤退することを公表している。
5|Aegon     
(1)SCR比率の推移
2019年上期末におけるSCR比率は、強い事業成績を反映した資本形成で+10%ポイント、チェコやスロバキアでの事業売却や米国における一時的な要因による+3%ポイントというプラス効果があったものの、不利な信用スプレッドの動きがオランダにおける資産と保険負債の双方に与えた影響等の市場の影響が▲15%ポイントと大きなマイナスになったことに加えて、モデルと前提の変更(UFRの低下及びアジアにおける前提の更新等)による▲9%ポイントの影響があり、2018年末の211%から14%ポイントと大きく低下して、197%となった。

一方で、2019年下半期におけるSCR比率は、外部配当の支払い、モデル及び前提変更によるマイナスの影響及び市場の動きとヘッジプログラムの変更に起因するグループレベルでの分散効果の低下の影響により一部相殺されたものの、主に標準化された強力な資本生成と、グループのリスクプロファイルを低下させる経営行動のプラス効果により、197%から201%に増加した。
AegonのSCR比率推移の要因
(参考)地域別のソルベンシー比率
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。

オランダでは、カナダ生命再保険との長寿再保険取引により、必要資本が大幅に減少したものの、モデルの改善と費用の前提の変更によるマイナスの影響もあり、SCR比率は低下した。英国でも、主に費用の前提及び持株会社への送金によるマイナスの影響により、SCR比率は低下した。
Aegonの地域別ソルベンシー比率
 (2)感応度の推移
以下の図表においては、感応度の基準が年度毎にいくつか変更されているので、注意が必要である。感応度は、基本的には2018年末と大きくは変わっていない。2016年末から2017年末にかけて、米国事業の転換手法の改正等の影響もあり、金利上昇による感応度が大きく上昇したが、2018年末及び2019年末ではこの水準は低下している。

なお、Aegonは、これらの感応度をグループ全体だけでなく、地域別にも開示しており、さらにはそれらの要因等について、Annual Reportで詳しく説明している。
Aegonの感応度の推移
(3)トピック
Aegonは、2019年から2021年までの3年間で41億ユーロの通常の資本形成(市場の影響や一時的な要素によるものを除く)を行う目標を立てているが、2019年においては、対前年12%増加の15.69億ユーロを創出した。

Aegonもポートフォリオの最適化を推進している。

2010年から2017年までに、コアでない事業で50億ユーロを売却している。最近4年間で4カ国の保険事業から撤退している。さらに、ランオフポートフォリオの規模を大きく縮小してきている。一方で手数料ビジネスの規模を拡大してきている。

Aegonが主導的なポジションを得ることができる市場に焦点を当てるという観点から、Aegon Irelandの売却、米国の生命保険再保険事業の最後のブロックの売却、チェコとスロバキアの事業売却(2019年1月8日に完了)を行う一方で、オランダのRobidusを取得(2018年9月10日に完了)している。また、スペインとポルトガルの収益性の改善を目指して、経営行動を起こしている。

2019年5月には、日本における変額年金ジョイントベンチャーの50%持分の売却を公表していたが、2020年1月29日に完了している。

Aegonは、2025年末までに、グランドファザー証券をソルベンシーII対応証券に置き換えることを計画しており、2019年以降も計画に従って着実に借り換えを進めていくことになっている。2019年上半期においては、5億ドルの永久資本証券を償還(6月)した一方で、新たに5億ユーロの制限付きTier1永久偶発転換証券を発行(4月)している。2019年12月には10億ドルの永久資本証券の償還を行っている。また、2019年10月には9.25億ドルのTier2劣後ノートを発行している。

なお、Aegonは、RBCのソルベンシーへの換算について、監督当局であるオランダ国立銀行(DNB)との間で換算方式を毎年見直すことになっている。
6|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、ソルベンシーIIに同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表している。Z-ECMはソルベンシーIIやSSTとは異なり、UFRを使用していないことから、EU諸国を親会社としている保険グループと比べて、金利低下の影響をより受けることになる。
(1)Z-ECM比率の推移
2019年末のソルベンシー比率(Z-ECM比率)は、着実な営業利益の計上により、+14%ポイント、保険リスクや市場リスク及び市場変化により、それぞれ▲2%ポイント、配当支払いで▲9%ポイントの影響があったが、リスクフリーレートの低下の影響がヘッジ及び資産売却の増加により一部相殺されたこともあり、結果として、2018年末の124%から、5%ポイント上昇して、129%(ただし、+/-5%ポイントの変動の可能性有り)となった。

ZurichのZ-ECMの目標範囲は、AA格付けに相当する100%~120%となっており、2019年末の129%という水準はこの範囲を超えている。Z-ECMがこの範囲に収まっている場合には、リスクテイクや資本調達等の面で何らのアクションも要求されないが、この水準を超える場合には、リスクテイクの増加等の手段を検討するとしている。
Zurichのソルベンシー比率(Z-ECM)推移の要因
なお、SST比率については、FINMAの規制変更に伴い、2016年末の比率が従前の227%から新たなベースによる204%に低下していたが、2017年末には12%ポイント上昇して216%となり、2018年末も5%ポイント上昇して221%となっていた。なお、ZurichのSST比率は、FINMAと合意した内部モデルで算出している。
(2)感応度の推移
感応度については、他社とは異なり、業績表示が米ドル建で行われていることから、米ドルの為替レートの影響を含めている。金利や信用スプレッドによる感応度がかなり高いものになっている。
Z-ECM比率の感応度の推移
SST比率の感応度の推移
(3)トピック
Zurichは、事業ポートフォリオの見直しを適宜行っており、非中核事業の撤退を通じて資本を解放する一方で、成長が見込める市場において、買収等に再投資してきている。2019年において、例えば、以下の取得と売却を行っている。

・11月に、Bank Danamon Indonesiaから Adira Insuranceの80%の株式取得を完了
・5月31日に、Australia and New Zealand Banking Group Limited (ANZ).の オーストラリアでの生命保険及び消費者信用事業であるOnePath(OnePath Life とOnePath General Insurance) を取得(さらに、この取引で、Zurichは、ANZと20年間の販売契約を締結し、銀行チャネルを通じて生命保険商品を販売)
・5月24日に、Zurich Seguros S.A.の69%の株式の売却を完了
・4月2日に、Bonnfinanz AGの売却を完了
・1月1日に、ADAC Autoversicherung AGの51%の株式の売却を完了

また、Zurichは、2017年から2019年の3年間で95億ドルのキャッシュの生成を目標としていたが、2019年に34億ドルの実績で、3年間合計で109億ドルとなり、計画を超過達成したと報告している。
(参考)SST(スイス・ソルベンシー・テスト)について
SSTの報告は年1回であるが、例えば2019年のFCR(Financial Condition Report:財務状況報告書)については、2020年4月30日までに公表されることになっている。
 

3―まとめ

3―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2019年末におけるSCR比率の水準等について報告してきた。

2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして、4 年が経過した。この間も、各社は自社の考え方をベースとしつつも、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の方策で資本管理への対応を行ってきている。

これらの内容については、これまでの四半期毎の報告書や、SFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)において開示や説明がなされてきている。ただし、これまでのレポートで触れてきたように、一般の投資家が理解を深めるにはまだまだ十分とはいえない面があるように思われる。今後5月下旬以降に公表されてくる2019年のSFCR等の開示資料や説明資料において、さらなる工夫・充実が図られていくことを期待したい。

いずれにしても、欧州の大手保険グループのソルベンシーIIを巡る状況やそれへの各種対応については、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあることから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年04月21日「保険・年金フォーカス」)

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【欧州大手保険グループの2019年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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