2020年04月07日

女性の生活満足度を高める要因は何か? ー経済的な豊かさより時間のゆとり

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.277]

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1―はじめに~指標化が進む満足度

近年、GDPなどの経済指標だけでなく「幸福感」や「満足度」を指標に国の発展を図ろうとする動きが広がっている。「世界一幸せな国」で知られるブータンでは、「国民総幸福量(GNH)は国民総生産(GNP)よりも重要」であるとし、経済成長だけでなく伝統的な社会・文化や民意、環境にも配慮した国づくりを進めている。
 
日本でも、現在、内閣府は「満足度・生活の質に関する指標群」を検討しており、所得や平均寿命、労働時間、大学進学率、保育所待機児童数等の活用を検討している。
 
これらのマクロ指標の活用は政策立案には確かに有意義だ。一方で、個人の生活へ目を向けると、所得はもちろんのこと、結婚しているかどうか、子がいるのかどうかといった家族形態やライフステージ、時間のゆとり、体力の程度、性格による感じ方の違いなど、個人の生活や特徴による影響が大きいことが予想される。
 
特に女性は男性と比べてライフコースが多様であるため、よりミクロの個人的要因の影響が大きいだろう。
 
そこで本稿では、女性の生活満足度にはどのような個人的要因が影響を与えるのかを分析する。

2―分析概要

データは25~59歳の女性5千名を対象とした調査*1を用いる。調査では、「現在の生活に対して、どの程度満足しているか」について、「不満」「やや不満」「どちらともいえない」「まあ満足」「満足」の5段階で尋ねており、このうち「まあ満足」「満足」の2つの選択割合の合計値を「生活満足度」とする。その結果、25~59歳の女性の生活満足度は34.2%であった。
 
女性の生活満足度は、年齢による大きな違いはないが、高学歴や高年収ほど高く、未婚より既婚で、子がいないよりいる方が、体力や時間のゆとりはある方が高いといった傾向がみられた*2

3―不安への対応

様々な個人的要因が女性の生活満足度へ影響を与えているようだが、どのような要因の影響が大きいのかについて、重回帰分析を実施した。その際、生活満足度を目的変数、年齢や最終学歴、就業しているかどうか、世帯金融資産、未既婚、同居あるいは近居の病気がち・療養中の家族の有無、実家との距離、時間のゆとり、体力の程度、5つの性格因子(ビッグファイブ理論という性格を5つの特性で説明しようとする指標から得たデータ)を説明変数とした(詳細は脚注2参照)。
 
分析の結果、重決定係数は0.282であり、1%水準で有意な値であった。図表1に、それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を示す。ピンク色に網掛け部分は、女性の生活満足度に対して正の影響、青色は負の影響を与える変数であり、標準化係数βの絶対値の大きさは影響の大きさを示す。
女性の生活満足度
女性の生活満足度に対して影響の大きな順に、(1)時間のゆとりがあること、(2)世帯金融資産が多いこと、(3)既婚であること、(4)心が安定していること(情緒不安定性の逆転項目)、(5)体力があること、(6)年齢が若いこと、(7)開放性の高い性格(前向き)であること、(8)協調性が高いこと(非調和性の逆転項目)、(9)病気・療養中の家族がいないこと、(10)高学歴であること、(11)就業していないこと、となっている。
 
つまり、女性の生活満足度を何よりも高めるのは「時間のゆとり」であり、経済的な豊かさの影響を上回る。
 
経済的な豊かさがあることで、時間のゆとりが生まれるという考え方もあるかもしれないが、時間のゆとりと世帯金融資産の相関は弱い(0.161)。また、経済的な豊かさも生活満足度を高める影響はあるが、この結果を見ると、経済的に必ずしも恵まれていなくても、時間のゆとりを感じる生活を心がけることで、生活満足度を上げることはできると言える。
 
なお、就業形態の代わりに本人年収を用いて分析すると、年収の高さは生活満足度に正の影響を与える。また、未既婚の代わりに子の有無を用いて分析すると、子がいることは生活満足度に正の影響を与える。

4―若い年代ほど結婚、年齢とともに時間や経済的豊かさが重要に

年代別に重回帰分析を実施し、結果の要点をまとめたものを図表2に示す。
生活満足度決定要因
全体では生活満足度を最も高めるのは「時間(のゆとり)」であったが、25~29歳では「結婚(既婚であること)」が「時間」をわずかに上回り、「結婚」と「時間」が二大決定要因となっている。
 
なお、「結婚」の影響は年齢とともに小さくなる。30歳代で「時間」が、40歳代で「お金(世帯金融資産)」が、50歳代で「安定した心(情緒不安定性の逆転項目)」や「体力」の影響が上回るようになっていく。
 
この年齢に伴う変化は、若い年代ほど未婚者が多いことに加えて、年齢とともに生活で重きを置く事柄が変わっていくためだろう。未婚者が日常生活における悩みやストレスの内容で「結婚」を選択する割合は、40歳代以降では大きく低下する[図表3]。
 
悩みの内容で「結婚」を選択した女性の割合
なお、40歳代で特に「お金」の影響が大きい理由(50歳代よりβの値が大)は、住居の購入や子どもの教育等の出費がかさむ時期であるためだろう。
 
ところで、「安定した心」は30歳代以上では上位5位に入っているが、20歳代では入っていない。また、20歳代では「安定した心」よりも「協調性が高いこと」の方が大きな影響を与えている。なお、「協調性」の影響は年齢とともに小さくなる一方、「安定した心」の影響は大きくなる傾向がある。
 
つまり、若い女性ほど周囲とのコミュニケーション能力の高さが、年齢とともに精神的に安定していることが生活満足度を高めるようになると言える。
 
この背景には、コミュニケーション能力は、ある程度、年齢による経験で高められることに加えて、年齢とともに決まった人間関係の中で生活するようになることで、そもそも新たなコミュニケーションが必要な場が減ることもあげられる。

5―心身の健康を土台に時間のゆとりを持った生活を

女性の生活満足度には、経済的な豊かさよりも時間のゆとりの影響が大きいことは、多くの女性にとって救いとなるのではないだろうか。
 
一方で、特に若い未婚女性は既婚女性と比べて生活満足度が低い傾向がある。しかし、年齢とともに、結婚より時間のゆとりなどの影響が大きくなっていく。よって、20~30歳代では結婚をしていないことが生活満足度を大きく低下させていたとしても(ただし、時間のゆとりの影響も同様に大きいのだが)、年齢とともに、時間やお金、安定した心、体力といった別の要因で生活満足度を上げやすくなると言える。
 
年齢とともにライフコースを変えることは難しくなる。しかし、その時、その時で、何が生活満足度の決定要因となりやすいのかを意識するだけでも、日々の生活に対して折り合いをつけて、前向きな姿勢を持つことにつながるのではないだろうか。
 
また、体力や安定した心の影響は、年齢とともに相対的に大きくなるが、年齢によらず一定の影響を与え続ける要因でもある。考えてみれば当然のことかもしれないが、心身の健康を土台に、時間のゆとりを心がけた生活をすることで、確実に生活満足度は高められる。
 
 
*1 ニッセイ基礎研究所「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176。
*2 久我尚子「女性の生活満足度を高める要因は何か?」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/02/10)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2020年04月07日「基礎研マンスリー」)

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