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女性の生活満足度を高める要因は何か? ー経済的な豊かさより時間のゆとり
基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.277]
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
1―はじめに~指標化が進む満足度
日本でも、現在、内閣府は「満足度・生活の質に関する指標群」を検討しており、所得や平均寿命、労働時間、大学進学率、保育所待機児童数等の活用を検討している。
これらのマクロ指標の活用は政策立案には確かに有意義だ。一方で、個人の生活へ目を向けると、所得はもちろんのこと、結婚しているかどうか、子がいるのかどうかといった家族形態やライフステージ、時間のゆとり、体力の程度、性格による感じ方の違いなど、個人の生活や特徴による影響が大きいことが予想される。
特に女性は男性と比べてライフコースが多様であるため、よりミクロの個人的要因の影響が大きいだろう。
そこで本稿では、女性の生活満足度にはどのような個人的要因が影響を与えるのかを分析する。
2―分析概要
女性の生活満足度は、年齢による大きな違いはないが、高学歴や高年収ほど高く、未婚より既婚で、子がいないよりいる方が、体力や時間のゆとりはある方が高いといった傾向がみられた*2。
3―不安への対応
分析の結果、重決定係数は0.282であり、1%水準で有意な値であった。図表1に、それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を示す。ピンク色に網掛け部分は、女性の生活満足度に対して正の影響、青色は負の影響を与える変数であり、標準化係数βの絶対値の大きさは影響の大きさを示す。
つまり、女性の生活満足度を何よりも高めるのは「時間のゆとり」であり、経済的な豊かさの影響を上回る。
経済的な豊かさがあることで、時間のゆとりが生まれるという考え方もあるかもしれないが、時間のゆとりと世帯金融資産の相関は弱い(0.161)。また、経済的な豊かさも生活満足度を高める影響はあるが、この結果を見ると、経済的に必ずしも恵まれていなくても、時間のゆとりを感じる生活を心がけることで、生活満足度を上げることはできると言える。
なお、就業形態の代わりに本人年収を用いて分析すると、年収の高さは生活満足度に正の影響を与える。また、未既婚の代わりに子の有無を用いて分析すると、子がいることは生活満足度に正の影響を与える。
なお、「結婚」の影響は年齢とともに小さくなる。30歳代で「時間」が、40歳代で「お金(世帯金融資産)」が、50歳代で「安定した心(情緒不安定性の逆転項目)」や「体力」の影響が上回るようになっていく。
この年齢に伴う変化は、若い年代ほど未婚者が多いことに加えて、年齢とともに生活で重きを置く事柄が変わっていくためだろう。未婚者が日常生活における悩みやストレスの内容で「結婚」を選択する割合は、40歳代以降では大きく低下する[図表3]。
ところで、「安定した心」は30歳代以上では上位5位に入っているが、20歳代では入っていない。また、20歳代では「安定した心」よりも「協調性が高いこと」の方が大きな影響を与えている。なお、「協調性」の影響は年齢とともに小さくなる一方、「安定した心」の影響は大きくなる傾向がある。
つまり、若い女性ほど周囲とのコミュニケーション能力の高さが、年齢とともに精神的に安定していることが生活満足度を高めるようになると言える。
この背景には、コミュニケーション能力は、ある程度、年齢による経験で高められることに加えて、年齢とともに決まった人間関係の中で生活するようになることで、そもそも新たなコミュニケーションが必要な場が減ることもあげられる。
5―心身の健康を土台に時間のゆとりを持った生活を
一方で、特に若い未婚女性は既婚女性と比べて生活満足度が低い傾向がある。しかし、年齢とともに、結婚より時間のゆとりなどの影響が大きくなっていく。よって、20~30歳代では結婚をしていないことが生活満足度を大きく低下させていたとしても(ただし、時間のゆとりの影響も同様に大きいのだが)、年齢とともに、時間やお金、安定した心、体力といった別の要因で生活満足度を上げやすくなると言える。
年齢とともにライフコースを変えることは難しくなる。しかし、その時、その時で、何が生活満足度の決定要因となりやすいのかを意識するだけでも、日々の生活に対して折り合いをつけて、前向きな姿勢を持つことにつながるのではないだろうか。
また、体力や安定した心の影響は、年齢とともに相対的に大きくなるが、年齢によらず一定の影響を与え続ける要因でもある。考えてみれば当然のことかもしれないが、心身の健康を土台に、時間のゆとりを心がけた生活をすることで、確実に生活満足度は高められる。
*1 ニッセイ基礎研究所「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176。
*2 久我尚子「女性の生活満足度を高める要因は何か?」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/02/10)

03-3512-1878
(2020年04月07日「基礎研マンスリー」)
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