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- モンテカルロ・シミュレーションをどう用いるか
では、モンテカルロ・シミュレーションがなぜ使われるのだろうか。標準的な資産運用理論であるモダンポートフォリオ理論(MPT: Modern Portfolio Theory)では、投資家の満足度を表す効用という概念を用い、期待リターン(収益率の期待値)がプラスの効用、リターンの分散であるリスクがマイナスの効用をもたらすと考える。いわゆる「平均分散法」である。
しかし、平均分散法だけで年金の資産配分(ポートフォリオ)を決めるのは適切ではない。年金基金運営で重要であるのは、運用資産の単一期間(1年)のリターンやリスク(分散)ではないからだ。積立資産と退職給付債務や責任準備金で示される年金負債、両者の差額である積立余剰や積立比率(負債に対する資産の割合)などの年金財政上の指標が5年、10年など複数期間にわたり、どう推移するかを検証して初めてポートフォリオの比較ができる。
そこでモンテカルロ・シミュレーションの登場である。一般にモンテカルロ・シミュレーションとは将来の不確実な事象の起こり方(確率分布)が分かっている時に、乱数を用いてその確率分布に従う多数(1,000、1万、10万など)のできごとを発生させて、その結果がどのような分布になるかを検証する方法である。例えば、厳密な正六面体ではないサイコロがある時1、その形状をコンピューター上に再現し、何千・何万回も試行して(振ってみて)1~6の目の出る確率を予測する。なお、ここで多数回の試行の内の1回ずつを「パス」と呼ぶ。
1 サイコロの着想は湯前祥二・鈴木輝好(2000)『モンテカルロ法の金融工学への応用』(朝倉書店)p.2によっている。
一例として以下の仮定の下、ポートフォリオ・リターンのパスを5,000回発生させて、モンテカルロ・シミュレーションによる5年後の積立比率の分布を示す。すなわち、当初の資産・負債ともに100億円とし、1年目の掛け金・給付支払いはそれぞれ10億円、負債とともに年率2%で成長する。また、ポートフォリオは債券70%、株式30%で構成され、2資産のリターンは正規分布に従う。期待リターンをそれぞれ0%、5%、リスク(リターンの標準偏差)を3%、20%とし、両者の相関係数を-0.1とする(ケースA)。この時、資産・負債の額は以下のように推移する。
t+1年度末の資産額=t年度末の資産×(1+ポートフォリオのリターン)+t年度の掛け金額-t年度の給付支払額
t+1年度末の負債額=t年度末の負債×(1+2%)-t年度の給付支払額
図表1に積立比率の分布(ヒストグラム)を示した。積立比率の平均・中位数102.2%、101.5%、また95・99パーセンタイル値(最悪5%、1%の値)は、76.1%、67.3%である。年金ALMでは通常、リスク資産の配分を高めるほど平均の積立比率が高くなる一方で、95パーセンタイル値など最悪の場合の数値は低下する。債券70%、株式30%の配分比をさまざまに変化させ、このような年金財政指標の分布を確かめることで年金基金の資産配分を決める際の参考にできる。
第2にポートフォリオ選択の際、財政上のどの指標を重視するかは年金基金により異なる。積立比率、積立余剰や掛け金水準などどれでも構わない。また、年金財政上の指標の平均値及び最悪の場合の数値をみて最適と判断されるポートフォリオは、平均分散法(期待リターン・リスク(分散))からみた最適なポートフォリオとは一致しない。従って、できるだけ幅広くさまざまなポートフォリオをモンテカルロ・シミュレーションによる検討対象とすべきである。
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(2020年04月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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