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EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(15)-マクロプルーデンス-
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1―はじめに
これまで12回のレポートで、今回のCPの具体的内容について報告してきており、前々回までのレポートでLTG(長期保証)措置及び株式リスク措置、さらに技術的準備金に関する内容を報告し、前回のレポートでは、「グループ監督」に関する項目について報告した。
今回のレポートで、「マクロプルーデンス」に関する項目について報告する。なお、今回のレポートにおいても、欧州委員会からの助言要請、問題の特定及びEIOPAの助言内容を中心に報告する。
1 https://eiopa.europa.eu/Publications/Requests%20for%20advice/RH_SRAnnex%20-%20CfA%202020%20SII%20review.pdf
2 EIOPAによる公表
https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-consults-on-technical-advice-for-the-2020-review-of-Solvency-II.aspx
協議ペーパー
https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/EIOPA-BoS-19-465_CP_Opinion_2020_review.pdf
2―「マクロプルーデンス」に関する全体像
1|欧州委員会からの助言要請
この項目に関する欧州委員会からの助言要請の内容は、以下の通りである。
3.1.マクロプルーデンス問題
EIOPAは、ソルベンシーIIの既存の規定が適切なマクロプルーデンス監督を許容しているかどうかを評価するよう求められている。EIOPAがそうでないと判断した場合、EIOPAは以下の非公開リストを改善する方法について助言を求められる。
・リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)
・システミック・リスク管理計画の策定
・流動性リスク管理計画と流動性報告
・プルーデント・パーソン原則
この評価は、強力な裏付け証拠に基づくべきであり、保険会社の行動に関するこのような追加的な仕様の影響の可能性や、他のソルベンシーIIの手法との相互作用の可能性も評価すべきである。
EIOPAの見解では、金融危機は、特定されたシステム全体のリスクに対処するための適切なツールが存在しないか、又は金融セクターでは成功していないか、又は十分でないマイクロプルーデンス措置が用いられていることを明らかにした。Limら(2011)は、複数の手段を組み合わせることによって1つの特定のリスクに取り組むことは、異なる角度からそれに対処し、回避の範囲を減らし、有効性を高めるという利点があると考えている。要約すると、業務目標の達成及びシステミック・リスクの軽減において効果的であるためには、十分なマクロプルーデンスツールが利用可能である必要がある。
EIOPAは、特にEIOPA規則の下での責任に関連して、保険におけるシステミック・リスク及びマクロプルーデンス政策について取り組む権限を有する。
・第1条第6項第3号は、EIOPAの権限の行使に関連して、金融機関によってもたらされる潜在的なシステミック・リスクに特に注意を払うことを要求しており、その失敗が金融システム又は実体経済の運営を損なう可能性がある。
・第8条第1項第1号「システミック・リスクの監視・評価・測定」
・第18条1項は、EIOPAに対し、金融市場の秩序ある機能及び健全性、又はEUにおける金融システムの全部又は一部の安定性を著しく害するおそれのある事態が生じた場合に、関係する国内の権限のある監督当局がとる措置を積極的に促進し、必要に応じて調整することを要求している。
・第22条第1項は、金融サービスの混乱のシステミック・リスク及びリスクの検討及び対処をEIOPAに求めるものである。
・第23条は、EIOPAがESRBと協議の上、システミック・リスクの特定と測定のための基準を策定しなければならないことを規定している。
2007年~2008年の金融危機では、システミック・リスクがどのようにして生み出され、増幅されるのかをさらに検討する必要があるとともに、こうしたリスクに対処するための適切な政策を整備する必要性が示された。これまでマクロプルーデンス政策に関する議論のほとんどは、最近の金融危機における銀行セクターの重要性から、銀行セクターに焦点が当てられてきた。
EIOPAは、保険業界におけるシステミック・リスクとマクロプルーデンス政策に関する一連のペーパーの公表を開始した。その目的は、議論に貢献し、この議論の保険業界への拡大が保険業界の特殊性を反映することを確保することにある。
EIOPAの見解では、保険におけるシステミック・リスクとマクロプルーデンス政策に関するトピックが銀行セクターに比べて発展していないという事実は、来るべき危機において明らかになる欠陥である。実際、包括的なマクロプルーデンスの枠組みがないために、保険におけるシステミック・リスクの様々な原因に適切に対処することができない。
マクロプルーデンス政策の直接的・間接的なプラスの影響が十分に実施されない場合、この欠陥は相当なコストをもたらす可能性がある。これらの政策がその目的を達成する限り、これらの政策は、生産高の減少、失業の増加及び生活条件の低下という観点から金融危機の社会的コストを最小化するための決定的な貢献を提供するであろう。
本意見書に含まれているEIOPAの提案の目的は、保険セクターから生じる、又は保険セクターによって増幅されるシステミック・リスクの潜在的なエピソードに対処するためのマクロプルーデンスの枠組みが現在欠如していることを克服することである。そのためには、まず、a) 保険のシステミック・リスクの発生源を適切に理解すること、b) それらに対処するためのマクロプルーデンスの枠組みの開発、c) 現在のソルベンシーⅡの枠組みがマクロプルーデンスの目的にどのように貢献しているか、またどのようなギャップが存在しているかについての考察、が必要になる。
EIOPAはまずはこれらの問題について、EIOPAがこれまでに行った作業に基づいて簡単に紹介している。
これらについてのEIOPAの助言は以下の通りである。
EIOPAは、マクロプルーデンスの視点を現行のプルーデンスの枠組みに組み込むべきであるとの見解を示している。これは、整合的で一貫性のある方法で現在のマイクロプルーデンスアプローチを補完することになる。
EIOPAは、マクロプルーデンスの目的、政策及びサーベイランスを網羅する一般的な文書をこの指令に含めることを提案している。本稿では、マクロプルーデンスの目的を明確化し、監督当局がシステミック・リスクを特定・計測する必要性に言及すべきである。また、本意見書に示されている、資本、流動性、エクスポジャー、及び優先適用ツールや手段を含む追加的なツールや手段によって、当局のツールキットを拡大すべきである。
新たに提案された条項は、既にマクロプルーデンスに一定の影響を与えている条項、特に長期保証措置や株式リスク措置に関する条項を補完するものである。
3―「マクロプルーデンス」に関する助言内容
1|システミック・リスクに関する資本追加チャージ
EIOPAは、マクロプルーデンス分析に基づき、本意見書で定義されているシステミック・リスクの実体・活動・行動に基づく原因の1つ以上に対処するために、監督当局が資本追加チャージを設定する権限を有するべきであるとの見解を示している。
NSAs(各国監督当局)は、特定されたシステミック・リスクを軽減する必要があると判断した場合にはいつでも、このツールを利用する裁量権を持つべきである。彼らは、追加チャージの根拠を明確に文書化し、それを比例した方法で適用すべきであり、追加チャージの適用につながる条件が有効である限りにおいてのみ適用すべきである。
ただし、適用の均一な条件を確保し、EU全体で整合的でない使用を避けるために、EIOPAは、システミック・リスクに対する資本追加チャージをトリガー、設定、計算、及び削除する決定手順に関する技術基準又はガイドラインを実装するドラフトを開発する必要がある。
EIOPAでは、システミック・リスクに対する資本追加チャージは、別個のツールとして設定されるべきであるが、標準的手法が会社の極めて具体的なリスク・プロファイルを十分に反映していない場合(ソルベンシーII指令第37条)に適用される、現行のマイクロプルーデンスの資本アドオンに対する有用な補完策であると考えている。
整合性を確保するために、EIOPAはシステミック・リスクに対する資本追加チャージを第2の柱のツールと考えるべきであると考える。このツールは、マクロプルーデンスのサーベイランスと監督に関する新たな条項の一部として、あるいは資本アドオンに関する現行の条項(ソルベンシーII指令第37条)とは別の専用の条項として含めることができる。
しかし、このようなツールは、レベル・プレイング・フィールドを確保するためにIAIS(保険監督者国際機構)レベルでの開発を考慮することが基本である。
(2020年03月25日「保険・年金フォーカス」)
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