2020年02月28日

ミャンマーの保険事情(その後)

小林 直人

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1――はじめに

ミャンマーの保険事情について、2019年7月16日の保険・年金フォーカス「ミャンマーの保険事情」において、学資保険導入、日本の生命保険会社や損害保険会社の参入(認可)状況、損害保険料率算出機構による自動車保険引受データの収集協力等について以前紹介した1

ここでは、その後の状況について紹介したい。
 
1 拙稿「ミャンマーの保険事情」2019年7月16日(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/62048_ext_18_0.pdf?site=nli)
 

2――日本からミャンマーへ保険セクター支援計画(COMPASS)進捗報告書を手交

2――日本からミャンマーへ保険セクター支援計画(COMPASS)進捗報告書を手交

2019年11月22日に、金融庁は、宮下内閣府副大臣が、マウン・マウン・ウィン・ミャンマー計画財務副大臣に対し、日本が官民一体となって策定した「ミャンマー保険セクター支援計画: COMPASS for the Future of Myanmar's Insurance Sector」の進捗報告書を手交したことを発表した1。COMPASS for the Future of Myanmar's Insurance Sectorの正式名称は、Comprehensive Map of Proactive Assistance (COMPASS) for the Future of Myanmar's Insurance Sectorで、会議参加者は、金融庁、国際協力機構、損害保険協会、損害保険料率算出機構、生命保険協会、国際保険振興会、損保ジャパン日本興亜、東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険、第一生命保険、太陽生命保険及び日本生命保険である。進捗報告書(概要)では主要な課題である、保険会社の財務健全性の確保、保険商品の適正化、法制度整備等、当局・業界の能力構築の4課題について、これまで官民が連携して取り組んできた実績を取りまとめるとともに、今後の予定が以下のように示されている。
 
1 金融庁「ミャンマー計画財務省に対する保険セクター支援計画(COMPASS)進捗報告書の手交について」2019年11月22日(https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20191122/compass.html)
1. 保険会社の財務健全性の確保
〔実績〕
  • 保険監督会計・ソルベンシー規制のモデル開発(2021年度施行を目標)に向け、全社向け第1次フィールドテスト(FT)を実施。
  • 保険会社の資産運用のための環境整備に向け、政府当局及び保険協会と協議。

〔今後の予定〕
  • 2020年4月までを目途に第2次FTを開始。その結果を踏まえ、政府当局における通達への落し込み・発出を支援(2021年6月完了目途)。
  • 資産運用環境改善に向けて、政府当局等と協議。
2. 保険商品の適正化
〔実績〕
  • 生損保における商品認可プロセスに係る通達の起草支援。
  • 生保の商品審査基準に係る通達の起草支援。
  • 保険協会による、こども保険及び信用保険の開発を支援。生命表整備の課題も関係者と共有。
  • 自動車保険料率の検証のため、データ収集作業や能力構築を支援。また、自動車保険の新約款の起草を支援。

〔今後の予定〕
  • 2019年11月中を目途に商品認可プロセスに係る通達の発出を支援。
  • 2020年前半を目途に、生保の商品審査基準に係る通達の発出を支援。2020年9月末までを目途に、損保の商品審査基準に係る通達の起草を支援。
  • 自動車保険新約款の認可に向けたプロセスを支援(短期的な改定は2020年3月末提出を目標)。
  • 保険協会による経験データ蓄積(自動車保険・生命表)を支援。
3. 法制度整備等
〔実績〕
  • ミャンマーの実情を踏まえた、保険業法の現代化を支援。
  • 募集(エージェント、バンカシュランス及びブローカー)、再保険、商品関連の各種基本通達の起草を支援。

〔今後の予定〕
  • 2020年前半を目途に、新保険業法案の国会提出を支援。
  • 2019年11月中を目途にエージェント通達及びバンカシュランス通達の発出を支援。
  • 2019年11月中を目途に再保険通達の発出を支援。
4. 当局・業界の能力構築
〔実績〕
  • 政府当局の体制強化を提言。
  • 保険協会による、保険に関する啓蒙・調査研究活動や組織強化を支援。
  • GLOPACを含む各種研修・セミナー・ワークショップに加え、当局内の業務の共同実施(OJT)、個社別協議の共同実施等を通じて実践型の能力構築を実施。

〔今後の予定〕
  • 以上1~3の施策の実施を通じた当局・業界の知見の蓄積及び能力構築の継続的実施。
  • 保険協会の啓蒙活動支援。
 

3――100%子会社や合弁事業による参入(認可取得)状況

3――100%子会社や合弁事業による参入(認可取得)状況

日本の生命保険会社や損害保険会社の数社は、100%子会社や合弁事業によりミャンマーにおける保険事業に参入に向けた認可等準備を進めていたが、2019年11月28日にミャンマーの計画・財務省(Ministry of Finance & Planning)から認可等を取得したことを各社公表した。

100%子会社を通じて参入を予定していた第一生命保険は11月28日に同社の100%子会社であるDai-ichi Life Insurance Myanmar Ltd.(以下、「第一生命ミャンマー」)がミャンマー計画財務省より正式に生命保険事業認可を取得したことを公表し、第一生命ミャンマーは事業開始に向けた準備を進めていくことを発表した3

日本生命保険はミャンマーのシュエタングループ傘下のグランド・ガーディアン・ライフ・インシュアランス社(以下、「グランド・ガーディアン・ライフ」)の株式35%の取得について、所定の手続きを経て出資を完了するとともに、ミャンマー金融当局から生命保険合弁事業に係る認可を取得したことを発表した4。今回の出資に伴い、グランド・ガーディアン・ライフは社名を「グランド・ガーディアン・ニッポンライフ・インシュアランス」((以下、「グランド・ガーディアン・ニッポンライフ」)に社名を変更していることを合わせて発表している。日本生命保険は、ミャンマーの生命保険市場は今後、長期にわたって高い成長が期待できるマーケットであるとし、グランド・ガーディアン・ニッポンライフに取締役を派遣し、取締役会を通じた経営に関する助言等を行うとともに、駐在員等を通じ、実務レベルでの経営サポートを推し進める方針であり、ミャンマー国内におけるシュエタングループのブランド力や強固な事業基盤をベースに、日本生命保険の幅広い領域における経験やノウハウを提供することで、グランド・ガーディアン・ニッポンライフの安定的かつ持続的な成長に貢献し、同社の収益向上、ひいてはご契約者利益の拡大を図っていくとしている。

太陽生命保険は、同社の関連会社であるミャンマーのCapital Life Insurance Limited(以下、キャピタル・ライフ社)でのジョイントベンチャー(合弁事業)について、11 月28 日、ミャンマー政府から最終承認を取得したこと、また、キャピタル・ライフ社の社名をCapital Taiyo Life Insurance Limited(以下、キャピタル・タイヨウ・ライフ社)に変更したことを発表した5。太陽生命保険は、2019年8 月22 日にキャピタル・ライフ社に出資し、同社の海外関連会社としていた。キャピタル・タイヨウ・ライフ社は、ミャンマーにおいて100 拠点、5,000 名の営業体制の構築を目指し、また、最新のITサービスを導入し、2020 年から、ペーパーレス手続き、キャッシュレス手続きをスタートさせ、ミャンマーで最も先進的なサービスの提供を目指すとし、タブレット端末による保険加入申込み、スマートフォンによる保険料収納・契約内容変更・保険金支払などを予定しているとしている。太陽生命保険は、今後も日本で培った生命保険事業のノウハウを最大限活用し、ミャンマーにおいてキャピタル・タイヨウ・ライフ社を通じた事業を展開するとともに、国営企業であるミャンマー保険公社及び保険協会への協力を継続することにより、ミャンマー保険業界の一層の発展に貢献してくとしている。

東京海上ホールディングスは、2019 年11 月28 日付けで、ミャンマー当局から、同社の子会社である東京海上日動火災保険が、同国で損害保険合弁会社を設立することに関する承認が出され、Grand Guardian Tokio Marine General Insurance Company Limited(以下「GGITM 社」)の営業を開始することになったことを発表した6。東京海上ホールディングスは、GGITM 社へ取締役及び専門人材を派遣し、急速に成長するミャンマー保険市場での事業拡大に努めていくとしている。

SOMPOホールディングスは、同社の100%子会社である損害保険ジャパン日本興亜とミャンマーの損害保険会社であるAYA Myanmar General Insurance社(以下「AMGI社」)が、2019年11月28日に合弁会社設立の正式認可を現地当局から取得したこと、正式認可取得に際し、AMGI社はAYA SOMPO Insurance Company Limited (以下「AYA SOMPO社」)へ社名変更したことを発表した7。SOMPOホールディングスは、現地当局の規制緩和の進展を踏まえつつ、ティラワ経済特区における元受保険サービス、同特区外での国営保険会社を介した保険サービスを、順次AYA SOMPO社による元受保険サービスに一本化し、お客様の利便性とサービスの一層の向上を図っていくとし、また、AYA SOMPO社に資本のみならず当社グループの優れた技術・人材を投入することで、同社業績の持続的な拡大、ガバナンスの向上を図り、延いては同国における「保険」の浸透と、市場の発展に寄与していくとしている。

三井住友海上火災保険は、ミャンマーの大手民間損害保険会社であるKBZ MS General Insurance社(IKBZ Insurance社から社名変更)への10%出資 について現地当局からの最終認可に必要な条件を充足し、2019年11月28 日付けで認可を取得したことを発表した8。同社は、出資に加え、取締役及び駐在員を派遣しミャンマーへ進出する日系企業に安定的かつ高品質な商品・サービスを提供するとともに、アジア地域の基盤を一層強化し海外事業の持続的発展を目指すとし、出資比率については、今後の現地局承認を前提に、外資規制の上限である35%までの引き上げを目指すことを、KBZ MS General Insurance社と合意しているとしている。

また、日本生命保険が出資するグランド・ガーディアン・ニッポンライフと東京海上日動火災保険が出資するGGITM 社を傘下に持つグランド・ガーディアン・インシュアランス・ホールディングは日本の保険会社2社との合弁事業により、国際標準の生命保険と損害保険をワンストップサービスとして提供できるとしている9

これらの日本の保険会社の参入のほか、英国のPrudential、香港のAIA、米国のChubb、カナダのManulifeが100%子会社を通じた参入について認可され、Citizen Business Insuranceとバンコクに拠点を置くタイライフとの合弁事業も認可されたことが報じられている10
 
3 第一生命保険「ミャンマーにおける生命保険事業認可の取得」2019年11月28日(https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2019_060.pdf)
4 日本生命保険「グランド・ガーディアン・ライフ・インシュアランス社への出資完了およびミャンマー生命保険合弁事業に係る認可取得について」2019年11月28日(https://www.nissay.co.jp/news/2019/pdf/20191128.pdf)
5 太陽生命保険「太陽生命、ミャンマーにおける生命保険関連会社の社名変更および合弁事業の最終承認を取得」2019年11月28日(https://www.taiyo-seimei.co.jp/company/notice/download/press_article/2019/20191128.pdf)
6 東京海上ホールディングス「ミャンマーでの損害保険合弁会社の営業開始について」2019年11月28日(https://www.tokiomarinehd.com/release_topics/release/dhgn2a000000lynb-att/20191128_j.pdf)
7 SOMPOホールディングス株式会社「ミャンマーにおける合弁会社設立正式認可の取得」2019年11月28日(https://www.sompo-hd.com/~/media/hd/files/news/2019/20191128_1.pdf)
8 三井住友海上火災保険「ミャンマーの民間損害保険会社KBZ MS General MS General Insurance社の最終認可について」2019年11月28日(https://www.ms-ins.com/news/fy2019/pdf/1128_1.pdf)
9 Grand Guardian lnsurance Holding Public Co., Ltd.“Grand Guardian lnsurance Partners with Japan's Top lnsurance Providers to provide lnternational Standard General and Life lnsurance in Myanmar”29 November 2019 (https://www.shwetaunggroup.com/wp-content/uploads/2019/11/GGI-Press-Release-28Nov19-English.pdf)
10 John Liu“Myanmar awards insurance licences to five foreign providers, six joint ventures”The Myanmar Times, 28 NOV 2019(https://www.mmtimes.com/news/myanmar-awards-insurance-licences-five-foreign-providers-six-joint-ventures.html)
 

4――最後に

4――最後に

ミャンマーは経済発展が期待される中で、まだまだ保険の普及率は低い。保険市場では2013年に民間保険会社が営業を開始し、日本も含めて多くの外資系保険会社も参入している。今後もミャンマーの保険事情について、引き続き注視していきたい。
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小林 直人

研究・専門分野

(2020年02月28日「保険・年金フォーカス」)

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【ミャンマーの保険事情(その後)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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