2020年01月23日

【フィリピンGDP】10-12月期は前年同期比6.4%増~政府支出拡大で景気持ち直しも、19年の成長率は8年ぶりの6%割れで政府目標未達に

経済研究部 准主任研究員   斉藤 誠

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2019年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比6.4%増1と、前期の同6.0%増から上昇し、市場予想2(同6.4%増)通りの結果となった(図表1)。

なお、2019年通年の成長率は前年比5.9%増(2018年:同6.2%増)と低下し、昨年12月に引き下げた政府の成長率目標(6.0-6.5%)を下回る結果となった。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に政府消費の加速が成長率上昇に繋がった。

民間消費は前年同期比5.6%増(前期:同5.9%増)と低下した。民間消費の内訳を見ると、食料・飲料(同4.7%増)とレストラン・ホテル(同8.0%増)が上向いたものの、前期に持ち直した交通(同4.9%増)と通信(同6.0%増)、住宅・水道光熱(同5.3%増)がそれぞれ鈍化した。

政府消費は同18.7%増となり、前期の同9.6%増から上昇した。

総固定資本形成は同2.4%増と、前期の同1.9%増から上昇した。まず建設投資は同11.8%増(前期:同16.6%増)と好調を維持した。民間建設投資(同5.5%増)が鈍化したものの、公共建設投資(同33.8%増)が一段と加速した(図表2)。また設備投資は同5.9%減(前期:同9.2%減)と低迷した。設備投資の内訳を見ると、オフィス機器(同30.6%増)が大幅増となったものの、全体の4割を占める道路運送車両(同14.8%減)と鉱業・建設機械(同47.7%減)、電気通信機器(同12.8%減)が大きく減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.8%ポイントとなり、前期の+0.7%ポイントと同水準となった。まず輸出は同2.0%増(前期:同0.7%増)と4期ぶりに上昇した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出が同4.5%増(前期:同8.2%増)が鈍化したものの、財輸出が同1.4%増(前期:同0.7%減)と主力の電子部品を中心に上昇した。また輸入も同0.3%増(前期:同0.2%減)と小幅のプラスに転じた。
(図表1)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表2)建設部門の粗付加価値額(GVA)
供給項目別に見ると、主にサービス業の回復が成長率上昇に繋がった(図表3)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同7.9%増(前期: 同6.7%増)と上昇した。運輸・通信(同5.6%増)と不動産(同3.3%増)は伸び悩んだが、商業(同8.6%増)と金融(同10.9%増)、行政・国防(同17.1%増)は好調だった。

前期に景気回復の牽引役となった第二次産業は同5.4%増(前期: 同5.6%増)と若干低下した。建設業(同10.7%増)が2期連続の二桁成長、電気・ガス・水供給業(同7.3%増)が堅調に推移した。一方、製造業(同3.7%増)はオフィス機器やラジオ、テレビ・通信機器、家具・備品が落ち込んで伸び悩み、鉱業・採石業(同2.1%増)も小幅増加に止まった。

また第一次産業は前年同期比1.5%増(前期:同3.1%増)と低下した。エルニーニョ現象の影響などで低迷していたコメの生産(同4.8%増)が7期ぶりのプラスに転じたものの、アフリカ豚コレラの発生を受けて畜産業が同8.3%減と大幅に減少した。
 
1 2020年1月23日、国家統計調整委員会(NSCB)が2019年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表。
2 Bloomberg調査

10-12月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は18年が+6.2%の高い成長を維持していたが、19年の成長率は政府の成長目標の下限である+6.0%を達成できず、8年ぶりの低成長となった。19年は政府予算の成立が4月までずれ込んだ上、5月の中間選挙前には新規の公共工事が禁止された結果、政府支出が落ち込み、年前半の成長率が+5.5%まで低下していた。しかしながら、年後半は遅れていた予算執行が加速して景気が底打ち、成長率は2期連続で上昇している。

10-12月期の景気回復の主因は政府支出の拡大だ。まず政府の予算執行が年後半から加速しており、10-11月の政府支出は前年比11.7%増と大幅に増加した。その結果、政府消費が前年比18.7%増と急激に増加したほか、政府主導のインフラプロジェクトの進展により公共建設投資が3割増となった。

一方、GDPの約7割を占める民間消費は+5%台半ばまで鈍化した。18年の高インフレが沈静化、雇用環境も改善傾向にあるが、GDPの1割に相当する海外出稼ぎ労働者から送金額がペソ高を背景に鈍化し(10-11月平均は前年比0.6%増)、家計の実質購買力が伸び悩んだことが消費下押しの一因となった可能性がある。フィリピンペソ(対ドルレート)は昨年、米国の金融緩和や年後半の米中貿易摩擦の緩和期待、インフレ圧力鈍化に伴う実質金利上昇などからペソ高傾向で推移した。

また財輸出は前年比1.4%増とプラスに転じ、底打ちの動きがみられるものの、2四半期前の伸び率(同4.9%増)を下回っており、依然として世界経済の減速と米中貿易摩擦の影響が押下げ要因となっているものとみられる。

設備投資に至っては3期連続で減退した。輸出停滞と消費回復の遅れに加え、18年にフィリピン中央銀行(BSP)が積極化した金融引締め策が企業の設備投資意欲に悪影響を及ぼしたとみられる。BSPは18年にインフレ抑制に向けて政策金利を計+1.75%引き上げたため、貸出金利が上昇、19年5月から段階的に3回の利下げ(計▲0.75%)、預金準備率を計4%引き下げているが、貸出金利はまだ高めの水準にあり、銀行貸出の増勢は緩やかな鈍化傾向にある(図表4)。
(図表3)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)/(図表4)フィリピンの金利、貸出残高
フィリピン経済の先行きは政府支出の増加と金融緩和策に支えられる格好となり、年前半まで6%台半ばの高めの成長が続くと予想する。政府支出は昨年前半の落ち込みからの反動増が見込まれ、引き続き景気の追い風となりそうだ。2020年度国家予算は今年1月初旬に成立しており、昨年のように予算執行に支障をきたすことはないだろう。今年度予算では経済サービス予算が前年度比23.7%増と拡充された。ドゥテルテ大統領の看板政策であるインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」は遅れが目立っていたが、優先事業を見直すことで今年半ばまでに全体の約7割が着工できると、政府は見通している。このほか、昨年中に使い切れなかった19年度国家予算の執行期限が1年延長されたことも政府支出を押し上げるだろう。

また今年前半には追加的な金融緩和の実施が予想される。依然として、民間部門の回復は遅れていること、また1月12日のタール火山噴火による経済被害と景況感の悪化もBSPの利下げ姿勢を強める材料となりそうだ。しかし、消費者物価上昇率は10月を底に上昇し、12月には前年比2.5%増に達している。BSPはインフレ警戒感を示しつつ、年前半に1-2回の利下げを実施すると予想する。今年は追加緩和による借入コストの低下が経済成長をサポートするだろう。

財政・金融政策による景気下支えが続くなか、民間部門が回復に向かうだろう。フィリピンの雇用・所得環境は安定しており、底堅い消費の伸びが見込まれる。また主要輸出品である電子機器(輸出全体の約5割を占める)は今後の半導体サイクルの回復が追い風になるだろう。もっとも観光業はボラカイ島の閉鎖解除から1年が経過したことを踏まえると、昨年ほどの高成長が期待できない上、米国経済の減速によりIT-BPO産業の成長ペースが伸び悩む展開も予想される。政府は20年の成長率目標を+6.5-7.5%と設定しているが、世界経済の回復なくして目標達成は容易ではないだろう。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
アジア・新興国経済

(2020年01月23日「経済・金融フラッシュ」)

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