2019年12月20日

2020年の消費について考える-オリンピックやデジタル化、暮らしの構造変化

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――今年の消費の振り返りと2020年の3つのポイント

図表1 ユーキャン 新語・流行語大賞(2019) 2019年もカウントダウンの時期に入った。今年の消費に関わる主な出来事を振り返ると、5月の改元に伴う大型連休、9月のラグビーW杯、10月の消費税率8%から10%への引き上げなどがあった。また、9月には観測史上最大級の大型台風が上陸し、甚大な被害をもたらし、消費行動にも多大な影響を及ぼした。

一方、今年の流行という観点では(図表1)、街にはタピオカミルクティーが入ったカップを持ち歩く若い女性があふれ、「○○ペイ」という決済サービスが乱立し、100億円規模の消費者還元施策や消費増税時の「キャッシュレス/ポイント還元」事業の実施されたことで、消費者はこれまでにも増して、何がお得なのかを考えた1年でもあっただろう。

さて、2020年は、どのような消費が盛り上がるのだろうか。(1)東京オリンピック・パラリンピック関連消費、(2)消費のデジタル化の更なる加速、(3)暮らしの構造変化の3つのポイントをあげて考えてみたい。
 

2――東京オリンピック・パラリンピック関連消費

2――東京オリンピック・パラリンピック関連消費~訪日客のコト消費、日本人のトキ消費とイエナカ消費

1訪日外国人需要~政府目標達成で約6兆円、訪日客もモノからコトへ
東京オリンピック・パラリンピック関連消費は、訪日外国人需要と日本人需要の2つに分けて考えてみたい。
図表2 訪日外国人旅行客の1人当たりの消費内訳 訪日外国人需要については、2020年の政府目標である4,000万人1を達成できれば、旅行客の消費総額は約6兆円となる見込みだ(2018年は3,120万人で4.5兆円)2。訪日客が増えれば、宿泊や飲食、交通、娯楽・サービス、買物などの旅行に関わる消費が、単純に底上げされることが期待される。

一方で近年の傾向として、訪日客の消費行動は、日本人と同様に「モノからコト(サービス)へ」と移っていることに注意すべきだ。

訪日外国人旅行客の1人当たりの消費内訳を見ると、「買い物代」の割合が低下し、「宿泊費」や「飲食費」等が高まっている(図表2)。代表的なモノ消費であった中国人旅行客の「爆買い」は、2015年をピークに沈静化している。訪日客にとって、浴衣や日本酒などの日本ならではのモノも魅力的だろうが、何より訪日客を魅了するようなサービスを用意することが、リピーターを増やす上では効果的であると考える。
 
1 政策会議「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(2016年3月30日)
2 日本政府観光局「訪日外客数」によると2018年の訪日外客数は31,191,856人、観光庁「訪日外国人消費動向調査」によると2018年の訪日外国人旅行消費額は4兆5,189億円であることから単純に推計すると、4,000万人で5兆7950億円。
2日本人需要~感動を共有するトキ消費、混雑を避けるイエナカ消費
日本人需要については、観戦需要と開催時の混雑に伴う需要に大別できるだろう。

観戦需要としては、家庭での観戦を充実させるためのテレビの買い替えなどもあるだろうが、今年10月の消費増税によって、既に消費が先食いされた部分がある。また、増税後の消費者の節約志向が根強く残るとすれば、オリンピック・パラリンピックという限定された期間だけのために高額なモノを買う消費者は多くないのかもしれない。

一方で、盛り上がりが期待されるのは「トキ消費」だ。トキ消費とは、ハロウィンや音楽フェス、アイドルの総選挙、W杯など、その時、その場でしか味わえない盛り上がりを共有することであり3、より限定されたコト消費とも言えるだろう。SNSが消費行動に浸透することで、SNS映えしやすいイベントが好まれる傾向もあるようだ。

トキ消費の肝は、同じ趣味嗜好を持つ他者と感動を共有することにもある。今回のような自国開催の五輪では、「共に日本人選手を応援したい!」という熱い気持ちが特に高まることが予想される。一方で、希望通りの観戦チケットを得られた消費者はわずかだろう。その受け皿として、例えば、スポーツカフェやイベントスペースなどにおけるパブリックビューイングといったトキ消費が期待できるのではないだろうか。

また、混雑に伴う需要によっては、「イエナカ消費」が期待できるだろう。猛暑の中で、会場付近は交通機関の大混雑が予想される。混雑を避けて家の中にこもりたいという消費者も少なくないだろう。自宅での食事や娯楽を楽しむためのイエナカ消費もじわりと盛り上がる可能性がある。

なお、開催時は通勤も課題だ。既に今年の夏、2020年の交通混乱を前に、「テレワーク・デイズ2019」として、政府の旗振りでテレワークの推進が進められた。個人というよりも企業需要となるのだろうが、ノートパソコンやタブレットなどのモバイル端末需要が高まる可能性もある。
 
3 参考:博報堂生活総合研究所酒井崇匡「【キーワード解説】「トキ消費」」(2018/1/30)
 

3――消費のデジタル化の更なる加速

3――消費のデジタル化の更なる加速~シニアのスマホ利用が加速、サブスクも?

また、2020年は、キャッシュレス決済サービスやサブスクリプションサービスといった消費のデジタル化が更に加速すると見ている。特にシニアのスマートフォン利用が拡大するだろう。
図表3 60歳代の保有するモバイル端末の推移 今年10月の消費増税時、消費者の負担軽減策として「キャッシュレス・ポイント還元事業」が実施された。キャッシュレス決済を利用すれば、5%ないしは2%のポイントが還元されるため、増税直後から、キャッシュレス決済各社において、利用者が増えているようだ4

最近のキャッシュレス決済では、QRコードを読み取るなどスマホを使ったサービスが増えている。総務省「通信利用動向調査」によると、60歳代のスマホ保有率は、2018年にガラケー保有率を上回るようになったが、「キャッシュレス・ポイント還元事業」がこの流れをさらに後押しするのではないだろうか。

シニアのスマホ利用が広がれば、幅広い年代で、消費そのもののデジタル化が進む可能性がある。月額定額料金で使い放題になるサブスクリプションサービスは、自動車や家具、家電製品、ファッション、本・雑誌・漫画、ゲーム、音楽、映画・ドラマ・TV番組、おもちゃなど幅広い領域で展開されている。サブスクを利用することで、無駄な消費を減らし、消費の合理化を図ることができる。現在のところ、スマホ利用に長けた若い世代の利用が主だが、実は、年金や貯蓄に頼るシニアの消費生活とも相性が良いのではないだろうか。
 
4 日本経済新聞「消費増税でキャッシュレス急拡大 ポイント還元追い風」(2019/10/7)等
 

4――暮らしの構造変化

4――暮らしの構造変化~消費のコンパクト化、時短化や代行需要の高まり、子どもの教育熱の高まり

最後に暮らしの構造変化について考えたい。日本人の世帯構造が変わることで、暮らし方も変容している。これは2020年に限らず、今後も続く大きな流れだ。

これまで政府の税金のシミュレーション等では、標準家族として、働く父親と専業主婦の母親、2人の子どもの4人家族が用いられてきた。しかし、少子高齢化や核家族化が進むことで、現在では、標準家族は全体の5%未満だ5。一方で、増えているのは単身世帯と共働き世帯であり(図表4・5)、今後もこの流れは続く見込みだ。

単身世帯が増えることで、商品やサービスが小型化している。例えば、箱入りのカレールーの売上高を1人用のレトルトパックが上回るようになり、カット野菜が売れている5。また、高齢単身世帯をはじめシニアのコンビニエンスストア利用も増えている6。2040年には単身世帯は全体の4割となる中で、今後も様々な領域で「消費のコンパクト化」は進むだろう。

カット野菜などが売れる背景には、共働き世帯が増え、「時短化需要」や「代行需要」が高まっている影響もあるだろう。今、様々な領域で時短化や代行を図れる商品・サービスが増えている。食洗機や洗濯乾燥機、ロボット掃除機、用途に合わせた使い捨ての掃除シートなどの家事の時短化商品のほか、シェアリングエコノミーによって家事代行などの人手を得やすい環境が広がっている。また、パワーカップルに向けた都心のマンションは通勤時間の短縮が図れる。

さらに、共働き世帯に向けた子どもの教育関連の代行サービスも増えている。例えば、習い事を送迎するキッズタクシーや、習い事教室が併設された小学生の放課後学童クラブなどがあり、予約を受けきれないほど人気の高いものもあるようだ。女性の社会進出が進む若い世代の母親ほど、大学進学率が高く経済力も高まっている。少子化の中でも、子ども1人当たりの教育費は膨らむことが予想される。むしろ、少子化だからこそ、限られた子に向けて多くの教育費を費やすのかもしれない。特に、今後は増え行く共働き世帯に向けた「子どもの教育」関連市場の盛り上がりが期待できるだろう。
図表4 家族類型別世帯割合の推移/図表5 専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移
 
5 久我尚子「平成における消費者の変容」、ニッセイ基礎研究所、基礎研所報(2019/7)
6 久我尚子「コンビニ24時間営業の是非」、ニッセイ基礎研究所、基礎研REPORT(冊子版)11月号 等
 

5――おわりに~サスティナブル、持続可能性への配慮という流れも

5――おわりに~サスティナブル、持続可能性への配慮という流れも

今年9月、ニューヨークで開催された「国連気候アクション・サミット2019」にて、スウェーデン人の16歳の少女グレタ・トゥーンベリさんの演説が世界に衝撃を与えた。環境問題への対応に消極的な政治家達を厳しく批判する姿は、日本のマスメディアでも取り上げられ、多くの日本人の話題にものぼったのではないだろうか。

近年、マーケティングにおいても、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標))」「サスティナブル」といったキーワードが目に付くようになった。SNSを通じて欧州の若者を中心に、大量生産による大量廃棄をもたらすファストファッションをボイコットするような動きもある。

これまで環境問題への対応は、企業活動においても、消費者個人の生活においても、経済的に余裕のある層が選択する傾向があっただろう。一方で、近年、日本では深刻な自然災害が相次いだことで、国民全体で環境問題に対する意識が高まっているのではないだろうか。

本稿では2020年の消費について、(1)東京オリンピック・パラリンピック関連消費、(2)消費のデジタル化の更なる加速、(3)暮らしの構造変化という3つの観点をあげて考えてきた。実は、これらのベースにも共通して「サスティナブル」という考え方があるのではないだろうか。

オリンピック・パラリンピックは、言うまでもなく世界最大規模のイベントであり、その影響力は世界に広く及ぶ。環境や経済、社会面など幅広い領域において、持続可能性に配慮した大会運営が求められる。

また、消費のデジタル化として見られるサブスクリプションサービスは、消費者の間で商品を循環させることで、無駄な廃棄を減らすことができ、持続可能な社会づくりにつながっている。

さらに、単身世帯の増加による消費のコンパクト化は、無駄な消費を減らす合理化とも言える。そして、より若い世代の共働き世帯、あるいは子育て世帯では、環境問題に対する意識の高い層が増加しているのではないだろうか。

消費行動を捉えるには、目の前に起きていること、すぐ先の未来に控えていることだけではなく、その背景にある暮らし方や価値観の変化という大きな流れもあわせて捉える必要があるだろう。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2019年12月20日「基礎研レポート」)

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【2020年の消費について考える-オリンピックやデジタル化、暮らしの構造変化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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