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「会社の芯から地球環境問題に対峙する」-迫りくる異常気象にビッグ・ピボットせよ-

立教大学ビジネススクール 大学院ビジネスデザイン研究科 教授 田中 道昭
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1――迫りくる異常気象にビッグ・ピボットせよ
アンドリュー・S・ウィンストンは、著書『ビッグ・ピボット-なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか』の中で、「迫りくる異常気象、逼迫する資源、否応なく求められる透明性・・・・・・もしあなたがこれらを現実の脅威であると信じるなら、これまでエコビジネスとかサステナビリティーと呼ばれていた分野を、脇役の部署や、商売上のニッチな会話にとどめつづけることはできない。そのかわりに、我々はピボットしなければならないのだ。」と述べている。「ビッグ・ピボット」とは根源的な「大転換」を意味するキーワードである。地球環境問題は、企業においても、もはや社会貢献活動やCSRの一環といった言わば脇役から、ビジネスの中核から対峙すべき課題になっていると据えられるべきということなのである。
2――アップルの環境対策は「気候変動」「資源」「よりスマートな化学」
アップルは1製品当たりのCO2排出量が史上最高を記録したこと、iCloudデータセンターが石炭火力で運営されていたことなどで批判を受けてきたが、ティム・クック自らCEO就任後すぐに行動を起こしている(リーアンダー・ケイニー『ティム・クック アップルをさらなる高みへと押し上げた天才』SBクリエイティブ)。
アップルでは経営の核となる6つの価値観が設定され、それぞれ独自サイトも公開されているが、そのうちの2つとして「環境」と「サプライヤー責任」が掲げられている。
「環境」に関しては、サイトによれば、「真に革新的な製品は、地球に影響を与えることなく、世界を変える」というミッションのもと、「気候変動」「資源」「よりスマートな化学」という3つの重点領域が設定されている。「気候変動」では事業活動や製品ライフサイクルすべてでCO2排出に責任を持つこと、「資源」では工場オペレーションや製造で地球資源を保護すること、「よりスマートな化学」では製品は従業員やユーザーなど誰にとっても安全であることが謳われている。再生可能エネルギー比率を100%にする、材料や製造プロセスを低炭素デザインにする、再生可能材料にする、ウォーター・スチュワードシップ、イノベーションを通してより安全な化学物質へ切り替えるなどの項目が具体的に設けられ、報告書には実際に取組んだ内容やその進捗が細かく記されている。
一方、「サプライヤー責任」に関しては、サイトに「アップルは、アップル製品を作る人たち、および私たちみんなが共有する地球のことを深く考えています」「より環境に優しい工場、より環境に優しいコミュニティ」と謳われている。コミュニティとは、製造やサプライチェーンを支えるコミュニティのこと。報告書は「人々」「地球」及び取組みの進捗の3部構成となっているが、アップルがサプライチェーンで働く人々を教育し、成長を支援し、サプライヤーと一緒に地球環境保護に取り組む状況が示されている。
アップルは、製品のデザイン・製造、サプライチェーンにおいて、社内外のコミュニティ全体で環境に対する責任を果たしているのである。
3――EVトラック10万台導入を発表、アマゾンの「The Climate Pledge」
アマゾンのCEOジェフ・ベゾスは、9月19日朝一番、ツイッターで「Super excited about The Climate Pledge.」と自ら呟いた。「Climate Pledge」とは、同日アマゾンが発表した、パリ協定の目標を10年前倒しで達成する取組みである気候変動対策に関する誓約である。アマゾンは、その発表を通して地球環境保護への強固な姿勢を示したのである。この誓約への署名企業は、パリ協定の目標の2050年よりも10年早い2040年までにCO2排出量実質ゼロを求められる。アマゾンは最初の署名企業であるが、2024年までに再生可能エネルギーの電力比率を80%、2030年までには100%にすること、EVトラック10万台の導入、森林再生プロジェクトへの1億ドル投資も発表している。
筆者は、アマゾンがEVトラック10万台導入の発表を行ったことは、これから多くの企業の行動に大きな影響を与えるものであると予想している。日本で言えば、例えば「NTTが社用車をすべてEV車に切り替える」と発表したようなもの。クリーンエネルギーのエコシステム構築に企業も貢献する動きが加速することであろう。
また、アマゾンは、コーポレートサイト「Committed to a sustainable future(サステナブルな未来へコミットする)」をこれを契機に開設した。ここでは、2030年までに全出荷の50%でCO2排出量をゼロにする「シップメント・ゼロ」をはじめ、AWSでの再生可能エネルギー利用、事業全体をいかにサステナブルにするかなどのイニシアティブが示されている。
アマゾン本社の公式ブログ『dayone』では、ジェフ・ベゾスは次のように述べている。「多くの企業が気候変動問題に取り組んでいますが、アマゾンはその中心的な役割を果たすべく、当社の規模を活用し、現状に変革をもたらす決断をしました。年間100億以上の商品を販売する当社と同規模のインフラをもつ企業がパリ協定の目標を10年前倒しで達成できたら、他の企業もその目標を達成できるはずです。」
4――気候変動や異常気象は経営リスクそのもの
一つは、低炭素推進機関投資家イニシアティブ「Investor Agenda」が出した、各国政府に対して気候変動への対応を加速させるよう要請する共同声明「Global Investor Statement to Governments on Climate Change」である。同声明で、「Investor Agenda」は、①パリ協定の目標を達成すること、②低炭素排出への移行に対する民間投資を加速させること、③気候変動に関係する財務報告の改善にコミットすることを各国政府を含むグローバル・リーダーへ求め、「Investor Agenda」自身も各国政府と一緒になって行動するとしている。「Investor Agenda」のサイトによれば、機関投資家515機関、運用資産35兆ドルが同声明に賛同している(2019年10月現在)。
もう一つは、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の国連責任銀行原則「Principle for Responsible Banking」の発足である。ここでは、戦略や業務を持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定に整合させること、業務や商品・サービスに起因する人や環境へのリスクを管理すること、サステナブルな業務慣行や将来世代にも繁栄が共有されるような経済活動を推進するために顧客と協業していくことなど、銀行・保険などの金融機関が遵守すべき6つの原則が掲げられている。UNEPFIのサイトによれば、49ヶ国から132の金融機関が同原則へ署名し、その資産総額は47兆ドルとされている(2019年10月現在)。
つまり、機関投資家も金融機関も気候変動や異常気象を経営リスクとして捉えているということであり、投資・融資のプロセスで環境対策を考慮することはもはや避けて通れなくなっているのである。資金調達サイドとしても、必然的に、環境対策をビジネスの中核に置かざるを得なくなってくるはずである。
(2019年11月06日「基礎研レポート」)
立教大学ビジネススクール 大学院ビジネスデザイン研究科 教授
田中 道昭
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