2019年09月27日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(4)-BaFinの2018年Annual Reportより(保険会社の監督及び生命保険会社の状況)-

文字サイズ

1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2018年のAnnual Reportの「保険会社及び年金基金の監督」の章のうちの「1.監督の基盤(Bases of supervision)」の中から、保険会社の資本規制等の財務監督に関係する項目を中心に報告した。

今回のレポートでは、Annual Reportの「保険会社及び年金基金の監督」の章のうちの「2.実際の監督(Supervision in practice)」に基づいて、ドイツの保険会社の監督及び生命保険会社の状況について報告する。
 

2―保険会社のリスク分類

2―保険会社のリスク分類

1|保険会社のリスク分類
BaFinは、保険会社をいかに緊密に監督するかを定義するために使用するリスククラスに、監督する保険会社を分類して割り当てている。保険会社は、市場への影響と品質を反映する2次元マトリックスを使用してクラスに割り当てられる。生命保険会社や年金基金の市場への影響は、それらの総投資に基づいて測定され、健康保険会社、損害保険会社、再保険会社に関連するパラメータは、保険会社の総保険料収入となっている。

市場への影響は、「非常に高い」、「高い」、「中間」、「低い」の4段階のスケールで測定される。保険会社の質は、純資産、財政状態及び経営成績、成長と管理の質という要因の評価に基づいている。

BaFinは、保険固有の(主に定量的な)指標を使用して最初の2つの要因を評価し、定性的基準を使用して管理の質を評価している。評価システムは、個々の要因の評価を加算して、「A」(高品質)から「D」(低品質)までの4段階のスケールで全体的な評価を形成している。

2|リスク分類の結果
2018年12月31日時点のデータに基づく評価は、以下の通りとなっている。

BaFinは、リスク分類の目的で、保険会社の74.5%を高品質の範囲である「A」又は「B」に分類した。「B」と評価された会社の数がわずかに増加すると同時に、「C」と評価された会社の数は減少した。過去数年と同様に、BaFinは、市場関連性が高い又は非常に高い保険会社を低品質の会社としては評価しなかった。

保険事業の種類毎にみると、前年と比較して、健康保険会社又は損害保険会社においては大きな変化はなく、2018年の報告年度における高品質ブラケットの会社の割合は、損害保険会社では80%を、健康保険会社では70%を超えた。

一方、生命保険会社はわずかな改善を達成し、「B」と評価された生命保険会社の割合は、前年比で約5%増加し、同時に「C」と評価された割合は約5%減少し、殆どの会社は中品質の範囲に分類され続けた。

年金基金でも、品質評価の「C」から「B」へのシフトが観察された。

再保険会社も軽微な変化があったが、会社の約79%は引き続き高品質の範囲に分類された。

3|保険グループの分類
BaFinは、個々の保険会社に関連するリスクを分類するだけでなく、2018年のグループレベルでのグループ監督に責任があるソルベンシーIIの対象となる全ての保険グループも分類している。

個々の会社の分類結果の純粋な数学的な集計とは対照的に、この品質評価では、利益移転や管理契約などの追加の定性的及び定量的なグループ固有の入力を使用する。 年間のグループレベルのリスク分類は、保険グループの監督の重要性の高まりを反映しており、ソルベンシーIIの導入により更新及び拡張された。したがって、BaFinのグループレベルのリスク分類から得られるデータは、重要な付加価値を生成し、グループの全体的なポジションに関する集約された情報を提供している。
 

3―保険監督の優先分野

3―保険監督の優先分野

BaFinは、リソースを効率的に使用するために、毎年優先分野を定義している。それらを選択する目的で、運用上の監督から生じる全ての関連する監督上のトピックを識別、評価、優先順位付けしている。その計画には、規制の観点からも戦略的な観点からも、セクター全体にとって特に重要な問題も含まれる。業界に影響を与える一般的な条件に変更がある場合、必要に応じてこれを考慮することができる。

1|2018年の優先分野
2018年の保険監督の優先分野は次の通りであった。

・サイバーセキュリティ
・新たな投資を行う際の保険会社及び年金基金に対する利回り追求アプローチの分析
・保険会社及び年金基金による投資の持続可能性
・損害保険の保険料、保険金、収益の進展
・損害賠償条項(特定の損害保険会社向け)

2|経済シナリオジェネレーター
特定の会社については、BaFinは経済シナリオジェネレーター(Economic Scenario Generator:ESG)プログラムの使用方法についても綿密な調査を実施した。これらのESGにより、企業は利子保証と裁量的ボーナスを備えた商品の技術的準備金を確率的に測定できる。通常、1,000~5,000の将来の経済シナリオをシミュレートすることにより、会社は様々な経済状況に対する保険契約者と経営者の反応に関する仮定を活用してポートフォリオをモデル化できる。

ソルベンシーII指令及び関連する委任規制には、2016年11月10日付のBaFinの解釈上の決定を含め、下位の法的レベルで詳細に規定されているこのテーマに関する非常に一般的な規定が含まれている。これらの要件は、特定の場合に重要になる場合がある。

そのため、BaFinは、ESGに関してこれまでに取得した知識を、業界全体でより詳細な定量分析を実施する機会として使用している。この目的のために、会社ですでに利用可能なデータと文書を使用している。

3|再建・破綻処理計画
保険会社の再建・破綻処理計画に関する問題は、さらに優先度の高い分野だった。

出発点は、2014年に金融安定理事会(FSB)が発行した金融機関の効果的な破綻処理制度の主要属性に応じたG-SIIsの監督の拡大だった。この拡大された監督の構成要素には、特定のG –SIIに対する将来の再建計画と破綻処理計画が含まれている。

BaFinはすでに、保険会社に将来の一般的な再建計画の提出を要求するオプションを利用している。個々の会社に対する保険監督法第26条(1)及びグループ会社に対する保険監督法の第275条(1)に関連する第26条(1)の規定によって、これを行うことが許可されている。2018年、BaFinは、国際的な事業を展開しているドイツの大規模な保険グループを対象に、保険監督法の法的根拠に基づいて、一般的な再建計画の初期評価を行うことができた。
 

4―2018年の保険グループのEIOPAストレステスト

4―2018年の保険グループのEIOPAストレステスト

1|2018年の保険グループのEIOPAストレステスト
EIOPAは、2018年にEU全域の保険会社に対して再度ストレステストを実施した。ストレステストはソルベンシーII評価基準に基づいており、欧州の大規模な保険グループを対象としている。テストには、ドイツの5つの保険グループ、Allianz、Munich Re、HDI、R + V Versicherung、及びHUK-COBURG保険グループ、が参加した。

2|ストレステストの目的とシナリオ
2018年のEIOPAストレステストの目的は、不利な進展に直面した場合の欧州の保険セクターの耐性力を評価し、脆弱性を特定することだった。この目的のために、保険グループは、2017年12月31日の基準日の時点で、ベースラインシナリオと以下の3つのストレスシナリオを計算する必要があった。また、サイバーリスクなどの定性的な質問にも答えなければならなかった。

(1) イールドカーブ上昇シナリオ
生命保険契約の高い解約率と損害保険のコスト増加を伴う、大幅な資本市場の混乱を伴う金利の急激な上昇を想定

(2) イールドカーブ下落シナリオ
長期的な低金利環境での金利の低下と同時に起こる平均寿命の増加を想定

(3) 欧州の様々な地域での暴風雨、洪水、地震などの自然災害をシミュレート
ストレスシナリオの影響を評価できるようにするために、まず参加する保険グループもソルベンシー資本要件を再計算する必要があった。

3|ストレステストの結果
結果は、欧州の保険セクターがストレスシナリオにおいて根本的に堅実であることが証明されたことを示している。ドイツの参加者の結果は、欧州全体の印象を裏付けている。予想通り、長期的な低金利環境は、ドイツの保険業界にとって引き続き課題となっている。
 

5―2018年の生命保険会社の事業結果

5―2018年の生命保険会社の事業結果

2018年の生命保険会社の事業結果の概要は、以下の通りである。

1|契約動向
2018年の元受生命保険新契約は、約510万件で前年の490万件を若干上回った。同時に、新契約価値の総額は、前年の2,658億ユーロに対して、4.8%増加して約2,785億ユーロとなった。

定期保険が新契約総数に占める割合は、35.4%から37.5%に増加した。

同期間に、年金及びその他の保険契約のシェアは、55.5%から53.8%に低下した。養老生命保険契約の割合も0.5%ポイント低下して8.6%となった。

生命保険契約の早期解約(払戻し、払済契約への転換及び早期終了の他の形態)は、2017年のレベルの220万件で変わらなかった。しかし、早期に終了した保険契約の保険金総額は、前年の985億ユーロに対し、1,052億ユーロに増加した。

2018年末には、前年の8,370万件と比較して、若干減少して、合計約8,300万件の元受生命保険契約があった。対照的に、保険金額は1.0%増加の3兆1,340億ユーロだった。定期保険契約は、契約件数が1,290万件から1,280万件へとわずかに減少し、保険金総額も8,279億ユーロから8,157億ユーロに減少した。年金及びその他の保険契約は、近年の好調な傾向を続けており、契約数のシェアは54.4%から55.8%に増加し、保険金総額のシェアは55.6%から57.4%に上昇した。

ドイツの生命保険会社の元受保険契約に係る総保険料は、874億ユーロ(前年:856億ユーロ)に増加した。

2|投資動向
総投資額は、9,061億ユーロから9,492億ユーロへと4.8%増加した。一方で、2018年末の正味含み益は、前年の1,326億ユーロに対し、1,055億ユーロに減少した。これは、総投資の11.1%(前年は14.6%)に相当している。

暫定的な数値では、2018年の平均純投資収益率は前年の4.4%から大きく低下して3.6%となった。純収益率が減少した理由の1つは、追加責任準備金(Zinszusatzreserve:ZZR)の再調整と、結果として生じる投資評価準備金の実現益化による。
3|将来予測
BaFinは、2018年に生命保険会社の将来予測を行った。BaFinは、この予測を使用して、2つの異なる資本市場シナリオが、現在の会計年度の保険会社の業績にどのように影響するかを分析した。

予測の分析は、生命保険会社が契約上の義務を満たすことができるとのBaFinの評価を確認した。ただし、低金利環境が持続し、さらに悪化する場合は、会社の経済的ポジションがさらに悪化すると予想される。したがって、BaFinは、早期の段階で、継続的な低金利環境で、将来を見据えた重要な方法で、将来の金融進展を分析することを確実にするために、保険会社を引き続き注意深く監視し続ける。生命保険会社が適切な措置を適切な時期に導入し、関連する準備を行うことが不可欠である。

注釈
生命保険予測
2018年9月30日の参照日時点での予測は、生命保険会社に対する低水準の金利の中長期的な影響の調査に焦点を当てていた。この目的のために、BaFinは2018会計年度及びその後の14会計年度のドイツ商法(Handelsgesetzbuch)に基づく予測財務パフォーマンスに関するデータを収集した。BaFinは、新規投資及び再投資は、資本市場の金利が1.2%又はその他の条件が変わらない固定金利投資のみで行われたと仮定した。2番目のシナリオでは、生命保険会社は、個々の会社計画に従って、新規投資と再投資及び資本市場のパフォーマンスをシミュレートできた。

Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ドイツの生命保険監督を巡る動向(4)-BaFinの2018年Annual Reportより(保険会社の監督及び生命保険会社の状況)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ドイツの生命保険監督を巡る動向(4)-BaFinの2018年Annual Reportより(保険会社の監督及び生命保険会社の状況)-のレポート Topへ