コラム
2019年09月25日

放射能の単位-ベクレル、シーベルト

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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放射線とか放射能、あるいはその発生源である原子核というだけで、何か忌むべきことのように思う人も多いと思う。確かに浴びてよいことは限られた場面しかないかもしれない。(いいのは、放射線治療とラドン温泉か。)

最近は全然聞かなくなったが、東日本大震災の後の一時期、ベクレルとかシーベルトとかという単位を耳にしない日はなかった時期があった。この場合、単位は理解していなくとも、とにかくその数値が高ければ、危険であるからどうにかしようと。それで充分なこともあろうが、今回は少し落ち着いてそれらの単位と使われ方をみてみる。
 
まず放射線とは何か。広い意味では、空間を飛び回っている素粒子やその集まりのことであり、その場合には普通の電波や可視光線も放射線である。しかし通常はもう少し狭く「物質を構成する原子に衝突すると、いくつかの電子をたたき出して、原子や分子を次々にイオン化する作用(電離作用という)をもつ、粒子の流れ」のことを指す。つまり電離放射線のことだけを指すことが多い。代表的なものにはアルファ線(正体はヘリウム原子核=陽子2個+中性子2個)、ベータ線(電子)、エックス線(原子核の外で発生する光子)、ガンマ線(原子核内で発生する光子、エックス線よりも高いエネルギー)などがある。他にも陽子線、その他の陽イオンの流れ(重粒子線)、宇宙線のなかのミュー粒子線などがある。
 
原子核が放射線を放出して別の原子核に変わったり、異なる状態に移行したりすることを、「崩壊」という。放射線を放出する原子核を含んだ物質を「放射性物質」と呼び、放射線を放出する性質のことを「放射能」という。「放射能を浴びた」とか新聞等でも使われるかもしれないし意味は通じるが、本来はおかしな表現である。放射能の大きさは単位時間に崩壊する原子核の個数(個/時間)であり、既に知っている単位、秒(s)で言えば、1/s(時間の逆数)になるが、それでは音の周波数と区別できないので、特別に名前をつけて「ベクレル(Bq)」と呼ぶ(ちなみに音の周波数の方は「ヘルツ(Hz)」)。
 
歴史的には「キュリー(Ci)」という単位が先に生まれた。これはラジウム1gあたりの放射能のことだが、その後放射線に関わる仕組みが解明されてきた。そこでラジウムに限らない現象と解明されたので、逆に1Ci = 3.7×1010 Bqと決めることで、主役はベクレルに変わった。

グレイ(Gy)という単位もある。これは正確には「吸収線量比エネルギー分与」といい、放射線が通過したときその物質1㎏に与えるエネルギーのこと。似たような単位として「レントゲン」「ラド」などもあるが、ここは先を急いで省略。
 
そして、放射線の話題になるとよく耳にするのは「シーベルト(Sv)」だろう。ベクレル、キュリー、グレイなどは、純粋に物理的な量であるが、シーベルトは、放射線を被ばくすることによる「人体への影響」(通常はダメージといってもいい。ラドン温泉1ではむしろ効能?)を示すものであり、生物・医学的要素が入っている。人体の各部分によって、電離作用の影響も異なる(骨髄とか生殖器は放射線に弱いといって、レントゲン撮影前に重い鉛のカバーを着けさせられることがある、あれである。)ので、それぞれその影響を表す「係数」をかけて、足し合わせてできたものである。となると今後の統計の整備や医学の進歩によって変わっていく可能性がある。また単位としてはグレイと同じと言えなくもないが、区別している。

ところでシーベルトについては、瞬時に放射線を浴びた場合なのか、(例えば)1時間あたりの話をしているのか、はたまた人生累計の話をしているのか、理科年表のようなきちんとしたデータをみていても分かりにくい場合や、暗にどれかが仮定されているケースがあって分かりにくい気がする。ましてや今後報道などで耳にする場合は、充分に注意する必要がある。
 
さて、少しシーベルトの実例をあげてみる。なお人体への影響という意味ではこの単位は大きすぎるので、その1000分の1のミリシーベルト(mSv)、100万分の1のマイクロシーベルト(μSv)がよく使われる。

世界平均で人間は年間2.4mSvの自然の放射線(空気、大地、食品、宇宙線など)を浴びている2。これに加えて、レントゲン検査、CT検査など医療関係の人工の放射線を平均約0.6 mSv浴びている。例えば胸部レントゲン検査では一回に0.06 mSv。CT検査では1回2.4~12.9 mSvだという。日本だけの平均だと自然放射線が2.1mSv。医療関係で年3.9mSvあって合計約6 mSv。世界平均との比較では人工的な放射線の割合が圧倒的に多いために被ばく量は極めて多い。(国連科学委員会2008年報告)

高さによっても違う。高いところ、例えば飛行機で東京ニューヨーク間を飛ぶと0.11~0.16 mSvの放射線を余分に浴びる。

土壌や岩石の影響などで、場所によっても違う。例えば1時間あたりでは、東京0.037μSv、福島0.11μSv、ニューヨーク0.046μSv、ソウル0.117μSvなど。(都市によるが2018年頃の数値)

なお、ICRP(国際放射線防護委員会)の最新の2007年勧告では、一般公衆の放射線被ばくは年1 mSv以下にすべきとされている。(上記各都市の場合、年に換算するとどこもほぼクリアしている。)

また放射線関連に従事する職業人については、やむをえず、「5年で100mSvかつ毎年50mSv」とされており、その他に緊急救助活動時は一時的に引き上げられること、医療被ばくには適用しないなど努力目標的な基準が公表されている。しかし、そもそもこうした基準値は、安全と危険の境界を定めるものでもなく、基準値を超えなければなんでもいいのではなく、最適な防護を行うことによってできるだけ被ばくは避けたほうがよいとされる。

そういった防護対応や人体への影響といった放射線の話は、この稿では、まだまだ入り口にすらたどり着かないレベルだが、今回は単位の話中心ということで、単位「シーベルト」とその使い道の一端に触れただけでおわりにしよう。

また、「基準値」という話はいろいろな場面にでてくる。一般に基準値とか消費期限とかというものが、どの程度厳しく(ゆるく)決められているのかということを知っておく必要があるのだろう。すなわち「危険ギリギリなので少しでも増えたらアウト」なのか、「基準自体が厳しいので1000倍くらい増えても大丈夫」なのかという問題であり、機会があれば様々なケースを勉強することにしよう。
 
1 ラドン温泉がしつこく2回でてきた。これは、少量の放射線を浴びるのは、いくつかの点で健康によい(効能がある)とする説に基づいたものであり、日本では、環境省の鉱泉分析法指針において放射能泉と呼び、1㎏あたりラドン111ベクレル以上含有と決められている。
2 以下の数値や基準値勧告については、「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 平成30年度版」(環境省HP)によった。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年09月25日「研究員の眼」)

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