コラム
2019年05月14日

電気・磁気の単位-科学者の名前に由来することがほとんど

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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5月1日から元号が改まったが、まもなくもうひとつ変わることがある。それは前回ここでも紹介した1「重さの単位」キログラムの決め方である。これはもちろん日本だけではなく、全世界共通の改定であり、5月20日が世界計量記念日2となっていることから、ここに時期をあわせた改定となる。とはいえ、日常生活や、相当精度の高い科学実験においてさえ、直接何かが変わるわけではなく、むしろそうした混乱を起こさないように、注意深く連続性を保ちながら定義が変更されるようである。
 
さて、それは当然うまく移行されるものとして、次は電気と磁気の単位をみていこう。

電気の単位といえば、その辺の電球には「60W(ワット)」などと記載がある。また、ある月の自宅の「電気使用量のお知らせ」なる紙片を見ると、「ご契約30A(アンペア)」、電気使用量は「300kWh(キロワットアワー)」と書いてあり、電気代は約8,000円であった3

日常的には、特段その内容がわからなくとも、使用量の金額だけみて、普段よりも電気代が高くついた、とか、経験的にどれくらい電気機器を同時に使用したらブレーカーが落ちる(あがる?とも)とか分かれば、単位など知らなくても十分ではある。とはいえ、時には気になることもあるだろうから、この機会に何でも見ておこう。
 
「アンペア(A)」は電流の単位である。家庭の電気の契約では「同時に使用できる電気の量」のことになるようだ。「ワット(W)」とは、仕事率(=単位時間の仕事=単位時間のエネルギー4)の単位であって、電気に限ったものではないが、日常生活でよくお目にかかるのは電気の分野で、このとき仕事率は電力と呼ばれ、「消費電力60ワット」と電球に表示があれば、「光や熱のエネルギーに変わる電気的エネルギーが、1秒間に60ジュール」のものという意味になる。

そうした電気製品を、なん時間か使ったというわけで、電力に時間を掛けたものが電気使用量という「エネルギー」になり、単位は「キロワットアワー」などと表示される。
 
電圧というのは「電気を押し出す力」とか「電位差」とかいうが、その単位は「ボルト(V)」である。電流を水の流れにたとえて想像すると、水は両端の高さに差があるときに流れ、急勾配だと勢いよく流れる。そして水の量が多いほど多くの仕事ができる。電圧は高低差であり、電流は水流である。

電力、電流、電圧の間には、 電力=電流×電圧 の関係がある。

日本では、家庭用電源では交流100Vが使用されている。そして、電力会社とは一度に使う電気の量を決めて契約している。例えば30Aとかで、これが契約アンペアである。全ての電気機器について、「消費電力÷100V」で電流(アンペア)を算出し、合計したものが契約アンペアを超えるようなら、いわゆる「アンペアブレーカーが落ちた!」という事態になり、どれかのスイッチを切らねばならない。例えば、夏の夕方、エアコン660W 冷蔵庫250W 照明合計200W 炊飯器1,300W テレビ360W 合計2,770W を同時に使うとなると、100Vで割って27.7Aが必要である。5

というように、日常に電気の単位が現れるわけだが、さらに、実際にパソコンを組み立てたりする人は、その部品に関連して、電気抵抗「オーム(Ω)」とか電気容量「ファラド(F)」などに注意を払うだろうし、電気専門の技術者の方は、もっといろいろな単位を扱うだろうが、ここではもうやめておく。
 
電流と電気量について、少々厳密にあるいは形式的な定義は以下のようになっている。

【電流】
電流とは電子(マイナスの電気)の流れであるが、歴史的にはそれはあとでわかったことで、素朴には、電気に2種類あって正体不明だが、プラスのものが流れているとして考えられてきた。電流の間には(電流による磁場が発生することによって)力が働く。電流が平行だとすると、同方向に流れていれば引き合い、逆方向だと反発しあう6

こうした状況下で、1メートル離れて平行に置かれた無限に長い2本の電流に働く力が、1メートルあたり2×10-7 N(ニュートン7)であるとき、この電流の強さを1A(アンペア)とする。
 
【電気量】
電気量とは、電流がある時間、ある場所を流れた総量であり、その単位はC(クーロン)である。

1アンペアの電流が1秒間流れると流れた電気量は1クーロンであるという。逆にいうと、電流とは1秒間に通過した電気量である、とも言える。
電気量 = 電流 × 時間 ( 1C = 1A ×1s )
 
というわけで、従来は、「電流」が先に決まって、(別のところで決めた時間と組み合わせて)電気量があとで決められている。

ところで、電気量にはプラスとマイナスがあり、最小単位があることがわかっている。その「一粒」のことを素電荷といい、eという記号で表すのだが、電流を先に決める今の方式では、その値は、測定されるものであって、
e = 1.6021766341(±0.0000000083) × 10-19 C
という誤差のある、非常に小さな値である。
 
実はこれも、重さの単位とあわせて、この5月に改定される予定となっている。

すなわち、逆にeの値を
e = 1.602176634 × 10-19 C (誤差なし)
と「定義」して、逆に電流を決めていくことになることが予定されている。端数が長いのは、現在の測定値となるべく連続させて、実用上混乱がおきないようにするためである。

このことは、かつては「長さ」を決めてから「速さ」(光速)を測定していたのを、現在では、逆に光速を決めてから、長さを定義するようになったことと似ている。

これにより、全ての計量単位において、人間が勝手に決めた原器から離れて、理論的に自然な定義になることで、特にナノテクノロジーの発展に寄与するものと考えられている。
 
さて、磁気のほうだが、日常、磁気だけとりだして使う場面にはあまりお目にかからないので、省略する。肩こりの「磁気治療器」とやらもあるが、その効能を巡って諸説あるようなので近寄らないことにする8が、このとき磁気の強さを表す単位として昔は「ガウス」、今は「テスラ」などが使われていることだけ触れておく。
 
ここまで、電磁気の単位は、アンペア、ボルト、クーロン、ファラド、オーム、ガウス、テスラと取り上げてきたが、これらはすべて、電磁気学の発展の過程で活躍した科学者の名前にちなむものである。長さ、時間、重さなどある意味素朴な単位に比べて、歴史上多くの科学者の努力が積み重なってできた分野であるということだろう9
 
1重さの単位~まもなく130年ぶりに改定される予定」(研究員の眼 2018.10.31)
2 1875年のこの日、長さの単位を決めたメートル条約が締結されたことにちなむ。日本は1885年に加入。
3 こうした料金体系も気になるところではあるが、今回は電気そのものの単位に注目しよう。
4 1W = 1 J/s
5 と単純な例を挙げたが、ブレーカーには、他に安全ブレーカーというのもあり、そこではエアコン専用などのように、いくつかの回路に分かれていたりする。また、漏電ブレーカーというのもあり、ブレーカーが落ちるケースにはいろいろある。一度家のブレーカーを見てみるといいかも知れない。実は、筆者もこの文章を書くために、初めて見てみた。ついでに先に挙げた電気使用量の明細も。
6 こうした向きを決めるのが、フレミングの法則というやつだが、物理の試験中、右手あるいは左手の親指、人差し指、中指で直行した形を作りながら、あれこれ考えた人は理科系には多いはずだ。
7 「ニュートン」とはなにかを、もう忘れたとは思うが、力の単位の一種とだけ理解して、気にせずいこう。
8 いや、誤解のないようにいっておくと、磁気が実際に存在することはわかっているが、効能のほうに諸説ある、ということだ。
9 また紹介する機会があると思うが、逆に言うと、基本的な単位以外は、その研究分野の科学者の名前に由来するものが多い。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年05月14日「研究員の眼」)

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