2019年09月17日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2018年Annual Reportより(統合監督)-

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1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2018年のAnnual Reportの「スポットライト(Spotlights)」の章に記載されている項目の中から、「1.英国のEU離脱(Brexit)」、「2.欧州レベルでの改革」、「4.ソルベンシーIIの3年間(Three years of SolvencyII)」、「5.デジタル化(Digitalisation)」の4つの項目について、主として生命保険に関係する内容を中心に、抜粋して報告した。

今回のレポートでは、Annual Reportの「統合監督(Integrated supervision)」の章に記載されている項目の中から、生命保険監督が関係してくる項目をいくつか抜粋して報告する。
 

2―統合監督

2―統合監督

ここでは、BaFinが「統合監督(Integrated supervision)」の章に掲げている項目のうち、「1.英国のEU離脱(Brexit)」、「6.デジタル化(Digitalisation)」、「8.国際監督(International supervision)」、「9.リスクモデリング(Risk modelling)」、「10.持続可能性(Sustainability)」及び「11.財務会計及び報告(Financial accounting and Reporting)」の6つの項目における生命保険監督が関係してくる記述内容について報告する。

なお、「統合監督(Integrated supervision)」について、BaFinのFelix Hufeld長官は、昨年の2017年のAnnual Reportの冒頭の意見表明において、「BaFinは、多くの方法で統合されている。BaFinは、金融市場の全てのセクターの監督を統一し、マイクロプルーデンスとマクロプルーデンスの監督を結び付け、(集団的消費者保護を含む)行動規範の遵守を監督し、既に述べたようにまた、国家破綻処理機関でもある。例えば、管理リソースとITリソースを統合し、コンピテンスセンターを共有した結果、明確なコスト削減のほかにも、この統合によって他の重要な利点がもたらされる。」と述べていた。より具体的には、例えば、セクター横断的監督については、「統合された監督当局は、リスクと相互依存性を認識し、セクター別監督当局よりも迅速に各セクターの影響を評価することができる。セクターが単一の機関で結合されると、情報を直接共有し、行動の過程に同意し、迅速に行動することができる。」、さらには「セクター横断的監督は、法律や規制の統一的解釈を確立し、裁量的スコープを同等の方法で適用できるという利点も有する。」と述べていた。
|英国のEU離脱(Brexit
Brexitについては、前回のレポートで報告したように「スポットライト(Spotlights)」の章の中でも触れられていたが、「統合監督」の章の中では、主としてノーディールBrexitへの対応及び内部モデルについて記述されている。なお、ここでの記述は、金融機関全体を対象にしたものであるが、実際には主として銀行等を念頭に置いたものとなっている。

このうち、ノーディールBrexitへの対応については、既にほぼ前回のレポートで報告しているので、ここでの概略の説明は割愛する。

内部モデルについては、BaFinは、ドイツ連邦銀行とともに、欧州中央銀行(ECB)が定めたフレームワークに従って、この目的のために以下の2段階の承認プロセスを提供している、と述べている。

・ステージ1:欧州の要件に基づいて(英国の)健全性規制機構(PRA)によって承認された内部モデルの一時的な許容
・ステージ2:引き続く詳細なオンサイト検査に基づく定期的なモデル承認

なお、2018年に、国際業務を行う9つの機関が、市場、カウンターパーティ及び信用リスクのために内部モデルを使用する許可を申請し、BaFinは、申請が関連する殆どのモデルに暫定的な容認を認めた。また、2つの金融機関のカウンターパーティリスクモデルの調査を開始したが、このプロセスは2019年にも継続される、と述べている。

1.英国のEU離脱(Brexit)
2019年3月31日までに、英国(UK)が欧州連合(EU)から離脱する日付や条件についてはまだ明確ではなかった。英国は当初、2019年3月29日から30日の夜にEUを離脱する予定だった。2019年3月29日、英国下院は、テレサ・メイ首相がEUと交渉した合意を再び拒否した。英国が直面している代替案は、2019年4月12日にノーディールでEUから離脱するか、5月末の欧州の選挙に参加することを国に要求するBrexitの長い遅延だった。

ぎりぎりまで不確実性が続いているため、政策立案者と監督当局にとってかなりの課題が生じており、ノーディールのシナリオに対しても準備が必要だった。英国によるEUからの無秩序な離脱は、重大なリスクを引き起こす可能性がある。金融セクターでは、これは、過去にBaFinに銀行業又は保険業の国境を越えた行為、又は欧州のパスポート規則に基づく金融サービスの提供を通知した英国の会社が市場アクセスの権利を失うことを意味する可能性がある。

ただし、欧州のパスポートの権利に基づいてBrexit以前に締結された国境を越えた取り決めの多くは、その義務と効果が場合によっては離脱日をはるかに超えて続くものである。例えば、デリバティブの場合、これは非常に大量の取引を伴う多数の契約に適用される。さらに、特に長期契約には、Brexitに関する特別な規定は含まれていない。

会社、監督当局、政策立案者にとって非常に重要な問題は、Brexitが英国とEUの残りの27加盟国との取引における将来の相互市場アクセスにどのような影響を与えるのかである。英国の総輸出の半分を若干下回る程度がEUに向けられており、英国最大の輸出市場となっている。輸入を見ると同様の写真が表示される。金融セクターの状況はさらに複雑である。ロンドンはEUへの資本の流れの中心的なハブであるだけでなく、例えば全てのユーロ建て金利スワップの約90%を決済するために使用される重要な決済機関でもある。

BaFinは、2018年も関心のある企業との活発な対話を続け、昨年と同様にBrexitワークショップを再び開催した。BaFinは、これまでに200社以上の会社と、彼らに明快さ、支援、そして何よりも、彼らが新しい政治的条件下で金融サービスを提供し続けることを可能にする信頼できる枠組みを与えるために、順番に議論を重ねてきた。このプロセスでは、もちろん、全ての会社が同じ基準に従って監視及び規制されるという保証が必要である。

英国に拠点を置く多数の銀行と金融サービス機関は、Brexitが欧州経済圏(EEA)の加盟国でビジネスを行うことを許可する欧州のパスポートの権利を失うことになるため、オフィスをドイツ及びその他の国に移転する予定である。BaFinと連邦政府は、これらの機関にドイツでのプロジェクトのガイダンスを提供し、法的確実性を提供すると同時に、ドイツの金融市場の安定性を確保することを目指している。これに関連して、欧州レベルでのソリューションは望ましいだけでなく、クリアリングなどの一部のサブセットの緊急の必要性もある。ソリューションが実施されていない場合、英国で清算サービスを提供し続ける銀行は、資本要件が大幅に増加するリスクがある。さらに、デリバティブのポジションを再割り当てする必要がある。つまり、修正し、場合によっては再構成する。これを防ぐために、12月に欧州委員会は、ノーディールのシナリオの場合に、英国の一時的なEMIR1の同等性を決定する実施決定を採択した。具体的には、これは、英国の規制がEUの規制と同等と見なされ、1年という限られた期間、以前と同様に、欧州証券市場局(ESMA)の承認を得て、中央カウンターパーティ(CCP)がEUでの活動を継続できることを意味している。

Brexitに関連するドイツの税法(Brexit-Steuerbegleitgesetz)により、BaFinは法的確実性を持って即効性のあるツールを利用できる。これは、BaFinが移行期間中に英国企業に支店の欧州パスポートルールの使用を継続又はドイツにおける国境を越えたサービスの提供を認めることを承認するためである。

内部モデル
多くの企業は、ドイツでも自社の資本要件を決定するために社内モデルを使用することについてBaFinに許可を求めた。BaFinは、ドイツ連邦銀行とともに、欧州中央銀行(ECB)が定めたフレームワークに従って、この目的のために2段階の承認プロセスを提供している。

・ステージ1:欧州の要件に基づいて健全性規制機構(PRA)によって承認された内部モデルの一時的な許容
・ステージ2:引き続く詳細なオンサイト検査に基づく定期的なモデル承認

2018年に、国際業務を行う9つの機関が、市場、カウンターパーティ及び信用リスクのために内部モデルを使用する許可を申請した。BaFinは、申請が関連する殆どのモデルに暫定的な容認を認めた。また、2つの金融機関のカウンターパーティリスクモデルの調査を開始した。このプロセスは2019年にも継続されている。レビューは、定期的なモデル承認に関する決定の基礎となる。

 
1 EMIR(European Market Infrastructure Regulation:欧州市場インフラ規則)は、EUにおける、店頭(OTC)デリバティブ、中央清算機関(CCP)及び取引情報集約機関(TR)に関する規則である。
|デジタル化(Digitalisation
デジタル化については、前回のレポートで報告したように、冒頭の「Felix Hufeld長官による意見表明」や「スポットライト(Spotlights)」の中で詳しく触れられていた。

ここでは、前回のレポートで取り上げていなかった「フィンテック企業」と「暗号トークン」についての記述を報告する。

2-1.フィンテック(Fintech
「フィンテック」については、金融安定理事会(FSB)が、「新しいビジネスモデル、アプリケーション、プロセス又は商品をもたらし、金融市場や金融機関及び金融サービスの提供方法に影響を与える可能性のある、金融サービスのテクノロジー対応イノベーション」と定義しており、これが標準として広く確立されているが、「フィンテック」という用語の法的定義はまだない、と述べている。

BaFinは、ウェブサイトで、典型的なフィンテックのビジネスモデルとトピック及び連絡先フォームについて、特に新興企業やフィンテック企業向けにカスタマイズされた情報を提供している。

さらに、BaFinは、その「BaFin-Tech」イベント形式を使用して、革新的な金融技術に関する意見や情報を、金融業界における新しい及び確立された会社や協会や科学界と交換している。2018年に注目され、今後も引き続き焦点となることが期待される革新的な金融テクノロジーは、BDAI(ビッグデータ&AI)と分散型台帳テクノロジー/ブロックチェーンの問題である、としている。

2-2.暗号トークン(Crypto tokens
BaFinは、暗号トークンの分野での進展を密接に追跡しており、法的な義務と比例性及び技術中立性の原則に従って行動している、としている。

2018年初頭の好況期に続いて、世界中のビットコインなどの暗号トークンの時価総額において、冷却が経験され、2018年1月に史上最高を記録した後、世界中の全ての暗号トークンの時価総額は急激に減少した。

2017年のICO(initial coin offering)のリスクに関する消費者への警告に続いて、BaFinは2018年2月20日にICOの基礎となる暗号トークンと暗号通貨の金融商品としての監督上の分類を扱うアドバイザリーレターを発行した。2018年に、市場参加者は特定の監督上の問題を明確にするためにBaFinに連絡するオプションを幅広く使用した。

BaFinは、またESMA、EBA、ECB、ISO(国際標準化機構)などにおいて、暗号トークンに関する欧州及び国際的な作業にも貢献した、と述べている。

6.デジタル化
6.1ビッグデータと人工知能に関するBaFinレポート
2018年6月、BaFinは、「ビッグデータと人工知能の出会い--金融サービスの監督と規制の課題と意味合い」というタイトルのレポートを公開した。これは、Partnerschaft Deutschland、the Boston Consulting Group (BCG)及びthe Fraunhofer Institute for Intelligent Analysis Information Systems (IAIS)からの専門家との協働によって準備された。

この研究の目的は、BaFinに包括的な図を提供し、早期に戦略的傾向、市場動向、新たに発生するリスクを特定し、適切な対応を策定することだった。このレポートは、多くの規制及び監督の観点から、技術主導の市場進展の影響を調査している。

協議
このレポートは、ビッグデータと人工知能(BDAI)に関する問題のグループに関する集中的な対話の基礎を形成した。2018年7月、BaFinは、レポートと提起する主要な質問に関する協議を開始した。BaFin のFelix Hufeld長官による要約と初期評価は、BaFinPerspectives出版シリーズの1/2019号にある。

6.2フィンテック企業
金融安定理事会(FSB)による「フィンテック(fintech)」の定義は、標準として広く確立されている。FSBは、フィンテックを、新しいビジネスモデル、アプリケーション、プロセス又は商品をもたらし、金融市場や金融機関及び金融サービスの提供方法に影響を与える可能性のある、金融サービスのテクノロジー対応イノベーションと定義している。

この定義と並んで、この用語は、サービスを作成する際、及び/又は顧客とのインターフェースでテクノロジーを活用したイノベーションを使用する金融サービス部門の殆どの若い会社にも使用される。しかし、金融サービス部門で確立された会社でさえ、サービスを作成するためと顧客とのインターフェースの両方で、テクノロジーを活用した革新を利用している。

法的定義はまだない
ただし、「フィンテック」という用語の法的定義はまだない。BaFinの技術の中立性により、いずれにしても、その監督下の会社が革新的な金融技術を使用するかどうか、及びどの技術を使用するかは当局にとって重要ではない。

BaFinは、ウェブサイトで、典型的なフィンテックのビジネスモデルとトピック及び連絡先フォームについて、特に新興企業やフィンテック企業向けにカスタマイズされた情報を提供している。2018年には、問い合わせフォームは、合計約150件の質問を提出するために使用された。

さらに、BaFinは、その「BaFin-Tech」イベント形式を使用して、革新的な金融技術に関する意見や情報を、金融業界における新しい及び確立された会社や協会や科学界と交換している。次のBaFin-Techは、ボンで2019年9月11日に開催される。

2018年に注目され、今後も引き続き焦点となることが期待される革新的な金融テクノロジーは、BDAIと分散型台帳テクノロジー/ブロックチェーンの問題である。

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中村 亮一

研究・専門分野

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【ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2018年Annual Reportより(統合監督)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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