2019年08月26日

EIOPAが監督上の報告と公衆開示の比例性向上に関するCPを公表-2020年のソルベンシーII改革に向けた動き-

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局:European Insurance and Occupational Pensions Authority)は、7月12日に、2020年のソルベンシーIIレビューに関連した業務の中で、監督上の報告及び公衆開示に関するCP(コンサルテーション・ペーパー)を公表1した。

EIOPAは、2019年2月11日の欧州委員会からの助言要請2のうち、監督上の報告及び公衆開示に関連した部分の見直しについて、2つの波でコンサルティングを行うことを予定しているとしており、この協議は、その最初の波である。

今回のレポートでは、このCPの概要について報告する。  

2―今回のCPについて

2―今回のCPについて

1|今回のCPの位置付け
EIOPAは、2019年2月11日に、指令2009/138 / EC2(ソルベンシーII)のレビューに関する欧州委員会からの助言要請を受け取った。助言要請は、EIOPAが既に取り組み始めた監督上の報告や公衆開示などの全てのトピックを含む幅広いトピックを網羅している。

EIOPAは、全体的な影響評価を含むEIOPA意見(ソルベンシーII意見)の形で助言要請に対応する。ソルベンシーIIの意見は、2019年第4四半期に協議のために公開される予定となっている。

このCPは、欧州委員会からの助言要請のうちの「3.15.報告と開示」への回答案である。このCPの助言は、この協議プロセスのインプットで修正され、欧州委員会に提出されるソルベンシーIIの意見に含まれることになる。

(参考)欧州委員会による助言要請の3.15

3.15.報告と開示
EIOPAは、監督報告に関する適合性チェックに関する欧州委員会の公開協議への利害関係者のフィードバックを考慮に入れて、評価を求められる。
・監督者及びその他の利害関係者の経験に照らしての報告及び開示に関連する要件の継続的な適切性
・監督上の報告と公衆開示の量、頻度、期限が適切かつ比例的かどうか、既存の免除要件が小規模会社への比例的な適用を保証するのに十分かどうか。

EIOPAは監督上の報告及び公衆開示の見直しについて2つの波でコンサルティングを行う予定としている。最初の波が、今回のCPに含まれている。
2|今回のCPがカバーする分野
この最初の協議は以下の分野をカバーしている。なお、それぞれの項目に対するCPがリンクされている。

・監督上の報告及び公衆開示に関する一般的な問題3
・個別の定量的報告テンプレート(QRT)と付属書4
・ソルベンシー財務状況報告書(SFCR)及びナラティブ監督報告5
・金融安定性報告6

提案されている各政策分野には影響評価も含まれている。 

これらの領域は、それぞれが個別の影響評価を対象とする特定の協議書でカバーされる。ただし、全てのドキュメントが相互にリンクしており、提案の全体的なバランスは全体として見る必要がある。

なお、協議の第1波の提案は、ソルベンシーIIの第4条、特に比例原則に対処する領域の将来の協議の文脈に含められる必要があることに留意すべきである、としている。
3|今回のCPにおけるEIOPAのアプローチ
監督報告に関する適合性チェックに関する欧州委員会の公開協議に対するステークホルダーの意見を考慮に入れて、EIOPAは以下を評価するように求められる。

・監督者及び他の利害関係者の経験に照らした、報告及び開示に関連する要件の適切性
・監督上の報告及び公表の量、頻度及び期限の適切性及び比例性
・小規模会社への適切な適用を確保するための既存の免除要件の十分性

EIOPAは以下の主要原則に基づいて評価を行っている。

目的適合性:受け取った情報は監督上のレビュープロセスの目的に適うものでなければならない。

比例性:監督上の報告及び公衆開示は、ソルベンシーIIの全ての要件と同様に、リスクを負う会社の性質、規模及び複雑さに比例する必要がある。

データの標準化:ソルベンシーIIに基づいて要求されたデータは、可能な限り取引主体識別子(Legal Entity Identifier:LEI)などの標準化されたコードを使用する必要がある。

金融セクター内の報告枠組み間の一貫性:ソルベンシーIIは他の報告枠組みと可能な限り整合性があるべきである。
 

3―CPにおけるEIOPAの提案の背景及び概要

3―CPにおけるEIOPAの提案の背景及び概要

この章では、CPにおけるEIOPAの提案の背景及び概要について、報告する。

1|今回のCPにおける提案の背景
2015年に、監督者への情報の提出(監督報告)に使用されるテンプレート及び欧州の保険及び再保険会社が公開(公衆開示)しているソルベンシー財務状況報告書(SFCR)の手順、形式、及びテンプレートの実施技術基準(ITS)を公開したことは、保険セクターにとって重要な一歩であり、これにより、初めて保険セクターの監督報告と公衆開示がEEA(欧州経済地域)全体で調和され、会社間及び国家間の比較が可能になり、特にグループに属する会社のコストの削減が可能になり、リスク評価フレームワークと詳細な分析のコンバージェンスを含む、監督慣行のコンバージェンスが促進された。

ソルベンシーII導入後、3年間が経過し、一部の利害関係者は、特により具体的な情報を含むテンプレートの使用に関して包括的な結論を引き出すには3年では不十分であると考えているが、3年間の経験を通じて、受信した情報の使用頻度が低く、負担の軽減又は別のアプローチを検討できる領域や情報が欠落している領域を特定できるようになったことから、監督上の報告及び公衆開示情報の要件の見直しを行うこととした、としている。

EIOPAは、監督上の報告要件が目標を満たしているかどうか、異なる報告フレームワークが互いに整合しているかどうか、報告義務の費用と負担が 合理的かつ比例的かどうかを評価する際に、以下の4つの重要な局面を特定している。

・比例性-ソルベンシーIIの報告フレームワークには比例性の側面が含まれているが、特に適切な影響評価と実施の最初の数年からの教訓を踏まえて、さらに多くのことができる領域である。

・国家の特異性-保険市場では多数の国家の特異性が特定されており、これをさらに評価する必要がある。理由は通常、NCAs(国家監督当局)又は特定の保険商品の会計実施規則に関連している。

・重複-様々な規制の枠組みに重複と不一致があり、EIOPAは、不一致の理由がない限り、不一致を解消することに同意する。

・共有の法的問題-EIOPAから収集されたソルベンシーIIデータは、EIOPA規制及び監督プロジェクトの目的のために厳密に確立されたアクセス権を持つメンバーが所有する。他の当局にも同様の制約がある。これは、重複を排除する際に考慮する必要がある。
2|EIOPAの主な提案
EIOPAは2―3で述べた原則に基づく評価にしたがって、主として以下の提案を行っている。

(1) 四半期報告の期限は維持するが、年次報告の期限を現在の年末以後の14週から16週へと2週間延長する。

(2) ソルベンシーII指令の第35条に変更はない-すでに今日行われているように、国家監督当局は、市場シェアの20%まで免除することができる。

(3) テンプレートを、年次又は四半期毎の提出に対して異なるリスクベースの臨界値を使用して、コアと非コアの 2つのカテゴリに分類することにより、比例性を高める。全ての会社がコアなセットを満たさなければならないが、リスクベースの臨界値を満たすものだけが非コアなセットを完成する必要がある。なお、リスクベースの臨界値は、各テンプレートによってカバーされるリスク領域のリスクエクスポージャーの性質、規模及び複雑さを反映しなければならない。

(4) 四半期及び年次両方のレポート作成のために、多数のQRTの削除と簡素化を行う。

(5) クロスボーダー情報に関するテンプレートの調和-1つの拡大されたテンプレートが3つの他のテンプレート及び内部モデルを含むソルベンシー資本要件に関するテンプレートに取って替わる。

(6) 損害保険会社に対するサイバーリスクや商品毎の情報などの新しい情報を組み込むための新しいテンプレートの作成

(7) 集団投資ファンドのルックスルーアプローチや変動分析などのテンプレートを修正する。

(8) ソルベンシー財務状況報告書(SFCR):1つの報告書 - 2つの受取人:保険契約者及び専門家向けの専用セクションを持つ構造に改善する。

・専門家向けのセクションでは、焦点はより定量的であるべきであり、機械可読で処理可能な形式で開示されるべきであり、そして構造は読みやすさと比較可能性を改善するために合理化されるべきである。

・保険契約者向けのセクション内では、単独の情報及び外部の保険契約者との保険契約からの情報のみが要求され、情報は保険契約者向けの簡単な言葉で提供される。

(9) 純粋なキャプティブ保険会社に対して、年次報告の簡素化及びSFCRからの一部免除を行う。

(10) ソルベンシーIIのバランスシートに限定して、ソルベンシーII指令にSFCRの外部監査要件を義務付ける。なお、加盟国はさらなる監査要件を課すオプションを有する。
3|ソルベンシー財務状況報告書(SFCR)に関する提案について
なお、上記の項目のうち、ソルベンシー財務状況報告書(SFCR)について、カバーノートでは、以下のように記述されている。

6.ソルベンシー財務状況報告書
51.公衆開示要件に関して、目的適合分析は、専門家と非専門家の読者の異なるレベルの専門知識を考慮して、会社が様々な利害関係者の情報ニーズに合わせて公開しなければならない情報を調整する必要性を特定した。保険契約者に関心を持たせるために、情報の範囲は短く、読みやすく、しかしソルベンシーIIの関連分野に対処している必要がある。一方、SFCRのプロの読者は、一部の領域で現在提供されている情報よりも少ない情報を必要とし、他の領域でより詳細で構造化され調和した情報を必要とし、より厳しいテキストに対処できる。

52.このレビューでは、SFCRのアクセシビリティとユーザビリティも改善の恩恵を受ける可能性があることがわかった。

53. EIOPAは、保険契約者向けの情報を含む短いセクションをSFCRに含めることを提案している。SFCRの2番目のセクションは、現在の形式に従い、プロの読者のみを対象とする必要がある。

54.プロの読者の情報ニーズとの整合性を高めるために、SFCRに現在必要な情報の一部、例えばガバナンスのシステムに関する詳細情報は、RSR(Regular Supervisory Reporting:定期監督報告)に移動できる。これは、RSRが現在SFCRと同じ情報を含むが、より詳細なRSRとの重複の解消に貢献する。

55.ただし、プロの読者は、開示された情報に重要なギャップがあることも確認した。これは、関連する完全な定量的情報を含めることを意味する。これには、追加のQRT及びSCR感応度に関するナラティブ情報及び年間の自己資本変動が含まれる。比較可能性を改善するには、可能な限りグラフや表などのより構造化された形式を使用する必要がある。

56. EIOPA提案には、一般向けの全てのSFCRへの集中アクセスを提供するために、中央リポジトリを確立する計画とともに、SFCRのテキストとQRTが機械可読で処理可能である必要がある。この提案の技術的な詳細は、今年の後半に行われる協議の第2波で公に相談される。

57.提案は、更新ではなく公開されたSFCRの修正がいつ必要であり、そのような正誤表がどのような形をとるべきかに関する規制をさらに求めている。

 

4―今後のスケジュール

4―今後のスケジュール

今後のプロセス等については、以下の通りとなっている。

1|今回のCPに対する相談プロセス
利害関係者は、コメント用に提供されたテンプレートを使用して、このコンサルテーションパッケージに回答するように求められる。

フィードバックの提出期限は2019年10月18日となっている。

2|今後のEIOPAの検討プロセス
EIOPAは、今年後半に、2020年ソルベンシーIIレビューの他の分野と一緒に、報告及び開示に関する次の項目に取り組む2回目の協議を開始する。

・グループ定量報告テンプレート(QRT)
・定期的な監督報告(RSR)
・報告及び開示プロセスの技術的側面
・データ品質
・2020年ソルベンシーIIレビューの他の分野、特に(必ずしもそうとは限らないが)長期保証テンプレートにリンクした報告と開示の問題

EIOPAの最終的な提案された方針は、2020年ソルベンシーIIレビュー意見に含まれることになる。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、2020年のソルベンシーIIのレビューに関連して、EIOPAが公表した、監督上の報告及び公衆開示に関連した部分の見直しについての最初の波のCPについて、報告した。

2020年のソルベンシーIIのレビューを巡る動向については、欧州以外の保険業界関係者にとっても、極めて関心の高い事項であることから、今回のCPに対する利害関係者の反応や報告と開示に関する第2波の動向等について、今後も引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年08月26日「保険・年金フォーカス」)

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