2019年08月06日

オフィス市況は好調維持。REIT市場は年初来高値圏で推移-不動産クォータリー・レビュー2019年第2四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、6月の都心5区空室率は新築ビルへの移転に伴う2次空室の発生により1.72%(前月比+0.08%)と11カ月ぶりに上昇したが依然として過去最低水準にある。平均募集賃料は66カ月連続で前月比プラスとなり賃料の上昇ペースも年率7~8%の水準を維持している。他の主要都市でもオフィス需給が逼迫するなか空室率は低下し(図表-10)、賃料も上昇している。
図表-10 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2019年第2四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は41,392円(前期比6.9%)となった。Aクラスビルの空室率が3期連続で1%を下回り極めて引き締まった需給環境が継続するなか、Aクラスビル賃料は2008年第3四半期以来となる4万円台を回復した(図表-11)。また、日経不動産マーケット情報(2019年8月号)によると、「東京主要オフィスエリアの成約水準(2019年6月末)は微増が続き、東京駅周辺は半年前より上限が2,000円上昇し3.5万円~5.2万円に、渋谷駅周辺は半年前より上下限ともに3,000円上昇し3.2万円~4.2万円に達した2」としている。
図表-11 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
 
2 駅から徒歩5分、築10年、基準階床面積300坪以上の大型ビルを想定。複数のオフィス仲介会社にヒアリング。
(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は上昇基調を維持している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2019年第1四半期は前年比でシングルタイプが3.1%、コンパクトタイプが4.3%、ファミリータイプが4.8%上昇した(図表-12)。住宅系REITの運用実績をみても都心エリアに近く面積の大きい住居ほど賃料は強含んでいる3。一方で、高級賃貸マンションの空室率(2019年6月末)は前年比横ばいの5.6%、賃料は前年比▲0.7%の17,734円/月坪とわずかに下落した(図表-13)。
図表-12 東京23区のマンション賃料
図表-13 高級賃貸マンションの賃料と空室率
 
3 日本アコモデーションファンド投資法人(2019年2月期)によると、テナント入替時の賃料変動率は+5.8%に拡大し、住居タイプでは「ラージ」>「ファミリー」>「コンパクト」>「シングル」の順に上昇率が高い。
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業動態統計などによると、2019年4-6月の小売販売額(既存店、前年比)は百貨店が▲1.3%、スーパーが▲0.7%、コンビニエンスストアが1.0%となった(図表-14)。コンビニエンスストアは4-5月の行楽需要が好調であったのに対して、百貨店・スーパーは衣料品の売上が低調であった。

また、観光庁によると訪日外国人旅行消費額(2019年第2四半期)は1兆2,810億円(前年同期比+13.0%)となり四半期として過去最高となった。このうち消費額全体の約36%を占める中国が26%増加した。
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
2019年上期(1-6月)の訪日外国人客数は前年同期比4.6%の1,663万人となり、増加率は鈍化傾向にある。特に全体の約23%を占める韓国の減少(▲3.8%)が目立つ。政府目標である「2020年4,000万人」を達成するには今後年率+16%の伸びが必要となる。

宿泊旅行統計調査によると、2019年上期の延べ宿泊者数は前年同期比4.3%増加し、このうち外国人が+13.6%、日本人が+2.3%となった(図表-15)。外国人の宿泊数が訪日客数の伸びを上回ったことに加えて、GW10連休の効果から日本人の宿泊数が増加したこともプラスに寄与した。STR社によると、全国のホテル稼働率(2019年上期)は82.1%(前年同期比▲0.8%)と引き続き高い水準を維持している。また、平均客室単価(ADR)は前年比2.5%上昇したが、新規供給の多い大阪・京都ではADRが下落するなどエリア間で格差も見られる(図表-16)。
図表-15 延べ宿泊者数の推移(月次、前年比)
図表-16 ホテル稼働率と平均客室単価(2019年上期(1-6月)、前年同期比)
シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2019年6月末)は前期末比▲2.2%低下の2.7%となった(図表-17)。Eコマース市場の拡大や物流拠点の集約・効率化ニーズを背景に先進的物流施設への需要は旺盛で、「東京ベイエリア」と「外環道エリア」の空室率は0%となった。CBREの予測では、2019年下期は15棟の新規供給が予定されるがテナント内定率は既に70%を超えており、空室率は2.0%程度に低下し過去最低を更新する可能性があるとしている。近畿圏の空室率も新規供給が落ち着くなか前期比▲2.0%低下の7.1%となった。

また、一五不動産情報サービスによると、2019年4月の東京圏の募集賃料は前期比▲0.5%下落し4,160円/坪となった4
図表-17 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
4 J-REITが所有する物流施設の賃料は堅調である。GLP投資法人(2019年2月期)の賃料増額改定面積(全体の95%)における上昇率はプラス5.0%、日本プロロジスリート投資法人(2019年5月期)の改定賃料変動率はプラス1.4%となっている。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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