2019年07月29日

インターネット通販市場の成長と物流施設利用の方向性

金融研究部 主任研究員   吉田 資

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(2) ネットスーパーの配送方法
ネットスーパーにおける配送方法は、「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」に大別される(図表26)。「店舗出荷型配送」は、消費者からの注文情報が最寄りの店舗に伝えられ、店舗で荷造りを行い出荷する方法である。一方、「センター出荷型配送」は、注文情報が配送センターに伝えられ、そこから出荷する方法である。
図表-26  ネットスーパーにおける配送方法 
「図表27」では、ネットスーパーにおける配送方法(「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」)の特徴を、先行研究17を参考に、①初期投資額、②受注処理能力、③レスポンス(注文してから届くまでの時間)、④発送コストの4つの観点で整理した。
図表-27 「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」の比較
「店舗出荷型配送」は、実店舗のバックヤードを受注・梱包・発送業務等に活用するため、配送センターを開設するよりも、初期費用を低く抑えることができる。また、一般的に配送センターから配送するよりも、注文してから届くまでの時間が短くてすむ。

一方、「センター出荷型配送」は、ネットスーパーに関する物流業務(ピッキング、梱包等)に特化した専用の作業ライン(あるいはネットスーパー専用の配送センター)を設置することで、既存店舗の設備や人員を活用する「店舗出荷配送型」と比較して、受注処理能力(作業効率)は高い。また、作業の効率化に伴い、注文一件あたりの発送コストは、「店舗出荷型配送」よりも低く抑えられる。

ネットスーパーに参入する企業は、初期投資額を低く抑えることができるメリットを重視し、当初は「店舗出荷型配送」を選択する企業が多かった18。「店舗出荷型配送」は、実店舗のバックヤードのスペースの制約上、受注・梱包・ピッキング等に係わる専門設備の導入は困難であり、それらの作業については人手に依存せざるをえない。労働需給が極めて逼迫する中で、物流の現場では、物流施設内作業を行うパート従業員の確保が喫緊の課題となっている。人手の確保が難しい状況下において、今後「センター出荷型配送」を選択する企業が増えると思われる。

ネットスーパーの物流においては、多岐にわたる商品を迅速に入出荷することが求められることから、「センター出荷型配送」を選択する企業は、高機能な設備を有した物流施設に配送センターを設置すると考えられる。
 
17 広垣光紀『ネットスーパーとチャネル戦略』釧路公立大学地域研究第23号、2011年
18 金弘錫『日本のネットスーパーのロジスティクス戦略に関する研究』高崎商科大学紀要第29号、2014年
2ネットスーパーの配送センターの設置ニーズが高い地域
ネットスーパーで多く取り扱われる「食品・飲料・酒類」の物流では、特にレスポンスに要する時間の短縮が求められている。そのため、エンドユーザー(消費地)から近い立地に配送センターを設置する必要がある。「食品・飲料・酒類」のインターネット通販市場規模が大きい地域ほど、ネットスーパーの配送センターを設置するニーズが高いと考えられる。

「図表28」は、2018年時点の「食品・飲料・酒類」のインターネット通販市場規模を地域別に推計したものである19。市場規模が最も大きい地域は、「南関東」で(約8,415億円・全国シェア50%)、次いで「近畿」(約3,221億円・19%)、「中部」(約1,801億円・11%)の順となった。人口ボリュームが大きく、ネットスーパー利用率の高い共働き世帯が多い「南関東」(1都3県)が全体の5割を占める結果となった。

直近、東京圏では、大手不動産デベロッパーにより、高機能な設備を有した物流施設が開発・供給されているが、ネットスーパーを運営する事業者はこうした物流施設の有力なテナント候補となるだろう。
図表-28  「食品・飲料・酒類」分野のインターネット通販市場規模(地域別推計)
 
19 日本銀行横浜支店が公表した『神奈川県金融経済概況・「神奈川県内におけるインターネット通販の現状」』(2017年9月12日)において、神奈川県内におけるインターネット通販市場規模の推定を行っている。本稿では、同レポートにおける推計方法を参考に、地域毎にインターネット通販市場規模を推計した。
 

4――市場成長分野に呼応した物流施設ニーズの変化

4――市場成長分野に呼応した物流施設ニーズの変化

最後に、今後の成長が見込まれる「食品・飲料・酒類」のインターネット通販(ネットスーパー等)の配送を行う物流施設ではどのような設備・立地条件が求められるかを考察したい。
1求められる施設規模・設備
(1)施設規模
東京都都市圏交通計画協議会「第5回東京都市圏物資流動調査」(2015年12月)では、「第4回調査以降の継続的な動向として、在庫圧縮を図るための物流施設の集約・統廃合に伴う物流施設の大規模化の傾向が確認される」と指摘されている。コスト削減を意図した物流施設の集約・再編や、物流業務のアウトソーシングの増加を受けて、一定規模以上のスペースが確保できる物流施設へのニーズは強い。

ネットスーパーは、生鮮品等の消費期限の短い商品を取り扱うこともあり、個々の配送センターがカバーする範囲が広範囲となることは少なく、広い保管・荷役スペースは必要とされない。また、施設規模が大きくなると、施設内で働く作業員の確保が困難になることから、中規模程度(延床面積2,000坪程度)の施設を求める事業者が多いと推察される。
(2)設備
荷主企業および物流企業を対象としたアンケート調査20では、物流施設の設備に関して、1) 「BCP対応」(免震等の構造・非常用発電機等)、2) 「多頻度輸送への対応」(トラックバースの数)、3) 「一定水準以上の床荷重および天井高」(有効天井高5.5m以上・床荷重1.5t/m²以上)を重視するとの回答が多かった。

ネットスーパー等の施設でも、作業員の安全を確保する観点から、免震構造等の「BCP対応」は重視されるだろう。また即日・当日配送が求められることから、「2) 多頻度輸送への対応」も重視される。

一方、「一定水準以上の床荷重および天井高」については、ネットスーパー等では、重量物の扱いは少なく、軽量物が中心となるため、高い水準の床荷重は求められない可能性がある。また、インターネット通販の施設では、作業効率から荷物を高く積み上げず、パート従業員が手の届く範囲で保管する。そのため、有効天井高は、フォークリフト等の利用が前提となる5.5m以上も必要としない。

また、ネットスーパー等では生鮮品の取り扱いが多いことから、温度管理が可能(冷凍・冷蔵設備を備えた)な施設へのニーズが高いと思われる。
 
20 吉田資『これからの物流不動産に求められる機能・役割~「物流不動産の活用戦略に関するアンケート調査」に基づく考察~』 
三井住友トラスト基礎研究所Report、2017年4月21日
2求められる立地条件
国土交通省「平成29年度土地白書」では、「近年は物流施設内の従業員の確保が重要な問題となっており、これを念頭に郊外住宅地の近くや通勤利便性の高い駅に近いこと等も重要な要因となっている」と指摘されている。物流施設内で流通加工や仕分け等を行う施設で増える中で、作業員の確保のしやすさが重視されている。ネットスーパーの配送センターでは、ピッキングや梱包等の作業を行うため多くの人手で必要となる。労働需給が逼迫した状況が続く中で、施設内作業員が確保できる立地は特に重視されるだろう。

また、前述の荷主企業および物流企業を対象としたアンケート調査では、物流施設の立地条件として、1) 「輸送の始点(生産地)および終点(消費地)へのアクセス」、2) 「自動車輸送における交通利便性」(高速道路ICおよび主要幹線道路へのアクセス)を重視するとの回答が多かった。

ネットスーパーでは、レスポンスの速さが重視されることから、配送センターの立地には、消費地(消費者)に近いことが求められる。一方、前述の通りネットスーパーの配送センターでは、遠距離配送は想定しておらず、高速道路ICへのアクセス等はさほど重視されない可能性がある。
図表-29 物流施設に求められる条件の違い

5――おわりに

5――おわりに

首都圏では、2019年から2020年にかけて、年間約300万㎡の大規模賃貸施設の大量供給が予定されている(図表30)。物流施設の借り手側からみると、以前よりも施設選択の幅が広がっているといえる。

一方、物流施設に求める条件は、インターネット通販市場の拡大等に伴い変化している。例えば、本稿で取り上げたネットスーパーの市場成長に伴い、最終消費者に直接貨物を運ぶ配送センターが増えることで、消費地の近くに立地し、中小規模で温度管理が可能な物流施設へのニーズが高まる可能性がある。これまで以上に設備や立地条件により、需給格差が拡大する可能性があると思われる。
図表-30 首都圏における大規模賃貸物流施設の新規供給量
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

(2019年07月29日「ニッセイ基礎研所報」)

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