2019年07月25日

中央銀行の独立性再考:新たな環境のもとで

大阪経済大学経済学部教授 ニッセイ基礎研究所 客員研究員 高橋 亘

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■要旨

本稿1,2では、中央銀行の独立性を再検討し、現在の環境に則したモデルの提示を試みている。中央銀行の独立性の重要性は1990年代に広く認識され、金融政策をインフレ抑制のために独立した中央銀行に委ねることが、経済学でも支持された。実際、1990年代後半には、多くの先進国で中銀法が改訂され、政策運営面では、中央銀行の独立性を「目的」と「手段」に分け、目標インフレ率などの目的の決定については政府や議会が関与するものの、金利操作などの手段の独立性を中央銀行に付与するという考えに沿って多くの国でインフレーション・ターゲッテイングが採用された。しかし21世紀に入り大きな環境変化が生じた。経済情勢はインフレからデフレ的な状況に変わり、2008年に世界的な金融危機が発生し中央銀行にもその対処が求められ、また金融危機以降、財政赤字が累積した。こうした状況は1990年代には必ずしも十分には想定されていなかった。このため新たな環境のもとで、中央銀行の独立性は再検討される必要が生じている。本稿では、こうした状況変化でも独立した中央銀行は重要であると論じている。中央銀行は、広い意味での政府(統治機構)の中でも政治的に中立的な立場から、その専門性を活かして政府の経済政策を糺すことが期待される。本稿ではそうした視点から、立憲的な枠組みでの中央銀行の独立性のモデルを提示する。このモデルでは、権力分立を踏まえ中央銀行は政府の政策を牽制する役割を担う。なお世界的な金融危機以降、中央銀行は金融政策以外にも金融安定化政策、国債管理政策なども重要な業務として担うようになった。従来の独立性の議論は専ら金融政策を念頭においていたが、現在の状況ではこうした業務についての独立性のあり方にも考察することが必要になっている。最後に本稿では、中央銀行の独立性はより積極的に実践されるべきと主張する。中央銀行はこれまで政府との摩擦を避けるためその独立性の発揮は比較的消極的であったように思える。しかし政府の中の独立した政策主体として、中央銀行はより積極的な役割を果たすべきである。建設的な牽制関係を構築することは、政策に中長期的な視点をもたらすことによって、今日の困難な経済的な課題を克服する政策立案に貢献することになろう。
 
1 本稿は、主に2017年10月Bruegel-Institute・神戸大学共催 ”Europe and Japan: Monetary policies in the age of uncertainty”、2018年5月、日本金融学会中央銀行パネル「新日本銀行施行20年」のパネル報告に基づいている。本稿の英訳版はBruegel-Institute・神戸大学から出版予定である。
2 本研究はJSPS科研費 JP15H0572の助成を受けている。


■目次

1――はじめに
2――中央銀行の独立性:1990年代
3――21世紀に入っての環境変化
  3.1.デフレーション
  3.2.デフレーションと財政金融政策
  3.3.財政支配
  3.4.金融危機と金融安定の再任
  3.5.経済の政治化
4――中央銀行の独立性に回復のために
  4.1.立憲モデルの提案
  4.2.積極的な独立性
  4.3.歴史的事実としての立憲モデル
  4.4.立憲モデルとしての中央銀行の政策運営
5――中央銀行の独立性:日本銀行の場合
  5.1.不幸な出自
  5.2.デフレの進行
  5.3.アベノミクス
  5.4.アベノミクスの下での独立性と説明責任
6――最後に:中央銀行の将来
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大阪経済大学経済学部教授 ニッセイ基礎研究所 客員研究員 高橋 亘

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