2019年07月09日

欧州保険会社が2018年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が5月上旬から6月中旬にかけて公表した単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)については、前回のレポートでその全体的な状況について報告した。

今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、長期保証措置と移行措置の適用による影響及びSCR(ソルベンシー資本要件)とMCR(最低資本要件)の計算方法の説明について報告する。
 

2―長期保証措置と移行措置の適用による影響

2―長期保証措置と移行措置の適用による影響

1|長期保証措置と移行措置について
ソルベンシーIIにおいては、景気循環効果を制限して、ソルベンシーIIの新しい規制枠組みへの円滑な移行を促進し、特に困難なマクロ経済環境に適応するために必要な時間を会社に提供すること等を目的として、1)リスクフリー金利の補外、2)マッチング調整、3)ボラティリティ調整、4)リスクフリー金利の移行措置、 5)技術的準備金に関する移行措置、6)ソルベンシー資本要件に違反した場合の回復期間の延長、といった「長期保証(LTG)措置」や「移行措置」が導入されている。さらに、今回のレポートでは触れていないが、7)株式リスクチャージの対称調整メカニズム、8)デュレーションベースの株式リスクサブモジュール、といった「株式リスク措置」も導入されている1
 
1 これらの概要については、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書の概要報告-」(2017.1.10)等を参照していただきたい。この時のEIOPAの報告書では、「長期保証(LTG)措置」と「移行措置」を合わせて、「長期保証(LTG)措置」と呼んでいた。
2|長期保証措置と移行措置の適用による影響
(1)適格自己資本やSCR(ソルベンシー資本要件)への影響
今回のSFCRのQRTsのS.22.01.22においては、このうちの、2)マッチング調整、3
)ボラティリティ調整、4)リスクフリー金利の移行措置、 5)技術的準備金に関する移行措置、の適用に伴う影響額が開示されている。

以下の図表が、欧州大手保険グループ6社(AXA、Allianz、Generali、Prudential、Aviva、Aegon)の数値をまとめたものである。EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2018年12月18日に、「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2018(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2018)」2を公表しているが、ここでは、2017年における各国別のLTG措置や移行措置の適用状況についての報告が行われていた。今回のSFCRでのQRTs 等の公表では、2018年における個別会社・グループ毎の数値が明らかにされている。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用による影響(2018年末)
これによると、ボラティリティ調整については、各社が適用しており、それによるSCRへの影響額は、英国以外の保険グループの場合、10%~30%程度と大きなものとなっている。なお、上記の図表の数値は、例えば、ボラティリティ調整を0にした場合の影響額を示している。基本的には、これにより割引率が低下することから、技術的準備金が増加することで、SCRは増加し、適格自己資本は減少することになる。ただし、Allianzの場合、ドイツの生命保険会社において、SCRの増加に伴う利用不可能な控除の減少が適格自己資本にプラスに働く要素が大きくなっていることから、他の5グループとは異なり、適格自己資本への影響がプラスになっている。

一方で、英国の保険グループはマッチング調整の影響が大きなものとなっており、さらに技術的準備金に対する移行措置を適用することで有意な効果を確保している。Aegonの場合、基本的にはボラティリティ調整のみを適用しているが、英国の子会社等でマッチング調整を適用している。
(2)SCR比率への影響
上記の影響額に基づいて、SCR比率(=適格自己資本/ソルベンシー資本要件)への影響を試算すると、以下の図表の通りとなる。なお、この図表において、長期保証措置や移行措置を適用しなかった場合の数値を開示している会社の場合には、その数値を使用している。

これによると、これらの措置を適用しなかった場合でも、Aviva以外は100%を超えるSCR比率を確保している。この状況は2017年末と同様である。また、長期保証措置や移行措置を適用したことによる影響度合いは、AXAとPrudential以外は 2017年末に比べて、2018年末の方が大きくなっているが、これは基本的にはボラティリティ調整の水準が高くなったことによる影響である。

Avivaの長期保証措置や移行措置の適用による影響を分解してみると、以下の通りとなっており、マッチング調整適用による影響が最も大きなものとなっている。

1) 技術的準備金に関する移行措置を非適用とした場合 : 149%(▲31%ポイント)
2) ボラティリティ調整を非適用とした場合      : 166%(▲14%ポイント)
3) マッチング調整を非適用とした場合        :  98%(▲82%ポイント)

また、この図表からは、英国の保険グループの長期保証措置や移行措置の適用への依存度の大きさが一層際立つ形で見てとれる。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2018年末)/(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2017年末)
3|長期保証措置と移行措置の適用対象
長期保証措置と移行措置の適用対象について、各社は以下の通り説明している(なお、ここでは、MA(マッチング調整)、VA(ボラティリティ調整)の略称を使用している)。

(1)AXA
一般勘定契約については、VAの100%、ユニットリンク契約には0%を適用

(2)Allianz
VAについて、生命保険契約については、変額年金を除く全ての契約に対して適用(技術的準備金への影響は2,105百万ユーロ)、損害保険契約については、監督当局が適用を承認した会社に対して適用(影響は771百万ユーロ)

(3)Generali
VAについて、生命保険ポートフォリオの97%に対して適用、損害保険ポートフォリオの93%に対して適用
なお、VAをゼロとした場合の影響について、技術的準備金が3,537百万ユーロ増加する一方で、繰延税金で1,008百万ユーロ、規制上のフィルターで413百万ユーロの相殺効果があり、結果として自己資本は2,116百万ユーロ減少している。

(4)Prudential
MAは、英国の年金契約に対して、最良推定負債のCFを割り引くためのリスクフリー曲線に適用される。2018年12月末の英国の年金に対するMAは55bps(2017年12月末の英国の年金に対するMAは52bps)
VAは、香港の米ドル建の有配当契約に対して、最良推定負債のCFを割り引くためのリスクフリー曲線に適用される。2018年12月末の米ドルのVAは56bps(2017年12月末の米ドルのVAは28bps)。
技術的準備金に対する移行措置は、2016年1月1日以前の英国の有配当契約を含む契約に適用

(5)Aviva
MAは、Aviva Life & Pension UK Limited (UKLAP)、Aviva International Insurance Limited (AII)に適用
VAは、英国では、UKLAP、AII(生命&損害保険)、Aviva Insurance Limited (AIL)(損害保険)、 Ocean Marine & Greshamに適用、フランス、イタリアでは申請は要求されない。トルコ、シンガポール、中国、香港及びインドではVAは適用していない。適用可能な場合、英国生保におけるユニットリンク契約を除いて、MAが適用されない全ての負債に対して、VAが適用される。
技術的準備金に対する移行措置は、UKLAP、AIIに適用
各措置の適用対象や承認の状況等を附属資料に添付

(6)Aegon
MAは、Aegon UK、Aegon Spainに適用
VAは、Aegon the Netherlands、Aegon UK、Aegon Spainに適用
技術的準備金に対する移行措置は、Aegon Spainに適用
(参考)Avivaの説明
長期保証措置や移行措置の適用については、各社説明を行っているが、ここでは、これらの措置の適用による影響が最も大きいAvivaの例を紹介する。

まずは、技術的準備金の移行措置に関しては、概ね以下の内容等が記載されている。
・適用会社
・移行措置の再計算
・移行控除の適用の考え方及び算定方法
・移行救済の制限
・グループでの移行効果
・適用による影響

D.2.2.1 生命保険最良推定負債のための方法論及び非経済的前提
c)移行措置(未監査)
Aviva Groupは、以下の会社に、技術的準備金に関する移行措置を適用している。



技術的準備金に関する移行措置は、PRAによって定期的に再計算することを要求されており、2017年12月31日に次の法的実体が移行措置をリセットしている。

Aviva Life&Pensions UK Limited(UKLAP)
Aviva International Insurance Limited(AII)

技術的準備金に関する移行措置は、2016年1月1日から2031年12月31日までの16年間にわたって直線的に減少する。移行措置を再計算すると、再計算された金額は2031年12月31日までの残存期間にわたって直線的に減少する。

PRA監督基準書第6/16号では、計算された最大金額を下回る移行措置を使用することが認められている。これによれば、UKLAPの場合、2018年12月31日現在の移行措置は、最大計算額2,927百万ポンド(未監査)ではなく、2,700百万ポンド(未監査)である。

QRTでは、移行控除は、最初に法人レベル(又は法人内の同種リスクグループレベル)でリスクマージンに適用され、次にリスクマージンが使い果たされた場合にのみ最良推定負債に適用される。移行的控除額の合計が(同種リスクグループレベルで)総リスクマージンを超える場合、超過分は各事業部門の総控除額への寄与に比例して、最良推定負債に対して配分される。2018年12月31日現在、当グループ全体の技術的準備金に関する移行措置からの最良推定負債の減少は852百万ポンド(未監査)であった(2017年:595百万ポンド)。

UK Lifeの事業部門の場合、無制限の移行控除額は次の差に基づいている。

•ソルベンシーIIベースの再保険債権控除後の技術的準備金(該当する場合はマッチング調整及びボラティリティ調整の影響を含む)は、評価日のSFCRのこのセクションに記載されているアプローチに従って計算される。そして

•ソルベンシーIのポジション。英国では第1及び第2の個別資本評価(ICA)の技術的準備金のうち、再保険債権額を控除し、評価日に適用可能な個別資本ガイダンス(ICG)を考慮したものである。

必要に応じて、英国生命保険事業部門の移行救済は、ソルベンシーIIの財源(移行救済の適用後のソルベンシーIIの技術的準備金、その他の債務及びソルベンシー資本要件の合計として定義される)が確実になるように制限される。ソルベンシーⅠPillar 1及びソルベンシーII Pillar 2の財源(ICAの技術的準備金、その他の負債、及びICA / ICGの合計として定義される)の最も不利なものを下回らない。ソルベンシーIIの資金源は、ソルベンシーIIの発効日以降の新契約を含めて決定される。

2018年12月31日にTMTPが再計算されたため、上記の制限はUK Lifeには適用されなくなった。

上記のアプローチは、生命保険事業の移行控除の無制限価値を計算するためにAIIによって反映されている。ただし、総合的な財源要求テストはAIIに適用されるため、生命保険事業及び損害保険事業にまたがって適用される。この制限はAIIには適用されない。AIIについては、2018年12月31日の技術的準備金に含まれる1,908百万ポンド(未監査)の移行控除は、2017年12月31日の移行控除に1年間の減額を適用することにより計算される。

グループレベルでは、移行効果は個々の法人の移行効果の合計である(すなわち、グループ内取引の影響は排除されない)。

(以下、省略)

(2019年07月09日「保険・年金フォーカス」)

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