2019年06月17日

ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しによる影響-2018年決算における影響等が判明-

保険研究部 研究理事   中村 亮一

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4―2018年末のZZRの積立て状況-2018年のZZR制度の見直しによる影響-

1|見直しによるZZR積立額への影響(業界全体)
BaFinの2018年の年次報告書(Annual Report)によれば、2018年に生命保険業界全体で、新たに59 億ユーロの追加責任準備金の積立が行われ、2018年末の残高は657億ユーロとなった。2017年の積立額が157億ユーロであったことに比較して、ZZR制度の見直しにより、新たな積立額が大幅に減少した。

なお、ZZR制度の見直しに伴うZZR積立額への影響については、「ドイツの格付会社アセクラータ(Assekurata) は、2018年のZZRの積立額は、これまでの方式による約220億ユーロから、新たな方式による約70~80億ユーロへと、約140億ユーロ程度は軽減されることになる。」と想定されると報告していた。一方で、GDV(ドイツ保険協会)は、これまでの方式による200億ユーロが新しい方式では約50億ユーロになり、積立額が150億ユーロ軽減されることになる、と報告していた。さらに、BaFinは、規制下にある84の生命保険会社が、2018年にZZR積立のための拠出金を150億ユーロ軽減できる、と報告していた。

その意味では、今回の実際のZZRの積立額は、ほぼこれらの推定値に沿った結果となっている。

結局のところ、過去からの積立額の推移等を、2018年を含めて再掲すると、以下の通りとなる。
(参考3)参照利率と追加責任準備金残高(業界全体)の推移
2|見直しによるZZR積立額への影響(各社)
今回の制度見直しに伴う各社のZZR積立額への影響については、多くの会社でSFCRに対するコメント等で触れられており、保険のリスク関係の情報提供会社であるInsurance ERMのまとめ等に基づくと、以下の図表の通りとなっている。

これは、多くの大手の生命保険会社をカバーしているが、全てを網羅しているわけではなく、大手の生命保険会社の中でも、こうした情報を開示していない会社もある。さらには、ここで掲載している数値は、あくまでも2017年の新規積立額と2018年の新規積立額及びその差異の金額であり、2018年を旧方式で評価した場合と新方式で評価した場合の差異の金額3ではない点に注意が必要である。

それでも、これらの10社で(前年度との積立額との差異という意味において)41億ユーロのZZR積立額軽減が図られたことを示している。
ドイツの生命保険会社各社の2017年と2018年の新規ZZR積立額の差異の状況
 
3 このベースでの金額を開示している会社はさらに限定されている。
3|見直しによる影響についての各社のSFCRの記載内容
ZZR制度の見直しは、ZZR積立額の軽減を通じて、直接・間接的に他の項目にも影響を与えているので、ここではSFCRにおいて、こうした内容について記載されている会社の記載例を報告する。
(1) Allianz Lebensversicherung
Allianz Lebensversicherungは、そのSFCRの中で、今回のZZR制度見直しにおける回廊法適用の影響について、繰り返し触れている。例えば、「技術的準備金(責任準備金)の繰入額の減少」及び「自己資本の増加及びSCR比率の上昇」について、以下の通り、説明している。

1) 技術的準備金(責任準備金)の繰入額の減少
2018年の繰入額は13,534,155千ユーロとなり、2017年の14,328,715千ユーロに比べて、大きく減少したが、これは主に回廊法の導入によりZZR積立のための費用が減少したことによる。
なお、技術的準備金の算出における変更として、以下の点が挙げられる。
・市場以外のリスクで受けた解約ショックをより正確に反映するためにポートフォリオのセグメンテーションを導入
・規制上の要件に従って、将来の1年金利の長期想定水準を60年の4.2%から4.05%に引き下げ(UFRの引き下げ)
・2018年に法律で導入されたZZRのための回廊法の実施
・会社の見解に基づいて使用されたBest Estimateの算出基礎に対する微調整

2) 自己資本の増加及びSCR比率の上昇
ソルベンシーIIの適格自己資本が2017年から2018年にかけて、25,033百万ユーロから26,683百万ユーロに6.6%増加したことの要因として、新契約の進展や資本市場の動向に加えて、回廊法の実施が寄与(SCR(ソルベンシー資本要件)が10.2%減少した影響もあり、SCR比率は403%から478%に上昇)した。

(2) Ergo Lebensversicherung AG
Ergo Lebensversicherungは、そのSFCRの中で、次のように述べており、今回の見直しが投資戦略に影響を与えたと述べている。

回廊法は、以前の方法と比較して、ZZRへの割り当てにおけるかなりの時間的救済をもたらす。 ZZRの計算方法が経済的緩和により変化したことを背景に、当社は新規投資において投資収益を適度に増加させる機会をより多く利用した。このため、よりスプレッドリスクが高い投資に投資する。

(3) Debeka Lebensversicherung
Debeka Lebensversicherungは、そのSFCRの中で、次のように述べており、ZZR制度の見直しによる影響額(旧方式と回廊法によるZZR積立額の差異)を開示している。

・ZZRの財源確保のための評価準備金の意図的な解放(資産の売却)は2018年中に放棄された。
・ZZR制度の見直しにより、ZZRの積立額が1,135百万ユーロ削減された。

(4) HDI Lebensversicherung
 HDI Lebensversicherung は、そのSFCRの中で、次のように述べており、Debekaと同様に、 ZZR制度の見直しによる影響額を開示するとともに、それによる評価準備金からの利益に実現額への影響を開示している。

・SCR比率が前年同期比で436%から590%に改善したのは、主に、いわゆる回廊法への移行に伴うZZRの再評価ならびに格付けクラスへの動的配分によるポートフォリオ管理によるものである。
・回廊法により、ZZRへの追加積立額は約380百万ユーロ減少した。この追加費用は、評価準備金の追加的な実現により賄われていたはずである。この場合、当社は純利益率が(3.3%ではなく)5.0%に増加していた。
・当年度において、主にZZRの積立財源を補填するために、209,999(2017年は413,901)千ユーロの投資の処分からの特別利益が実現された。

(5)その他
その他にも、いくつかの会社が今回の見直しに伴い、SCR比率が増加することに貢献したとして、その影響度を開示している。

また、一部の保険会社は、ZZR積立額を軽減するために締結していた再保険契約を、今回の見直しを踏まえて、終了したと述べている。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、2018年決算についてのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)やBaFinの2018年のAnnual Reportに基づいて、ZZRの積立状況について報告してきた。

これらによれば、今回の見直しがドイツの生命保険会社の財務業績に大きな影響を与えたことが確認できた。

今回の見直しの影響は、直接的にはZZR積立額の軽減ということになるが、このことは法定上積立が強制される責任準備金の積立額の軽減が図られることを通じて、それに伴う余裕財源等が自己資本のための資金等にプラスの影響を与え、結果的にSCR比率にプラスの影響を与える形になっている。

ZZRの積立は、ある意味で償却原価ベースの責任準備金評価を時価ベースに近づけるものとなっている。一方で、ソルベンシーIIのSCR比率の評価においては、時価ベースのアプローチが採用されている。本来的には、法定会計ベースのZZRの積立基準の変更がSCR比率に与える影響についての議論もあるとは思われるが、現在の枠組みでは、ZZRの積立負担軽減がソルベンシーⅡIIの適格自己資本、従ってSCR比率にもプラスの影響を与える形になっている。

ドイツのZZR制度については、2018年の見直しで一応の決着を見た形になっているが、低金利への対応は引き続きドイツの生命保険会社にとって大きな課題となっている。これに関連する問題は、日本の生命保険会社等にとっても非常に関心の高いテーマであることから、今後のZZR制度を巡る動向や低金利下におけるドイツの生命保険会社の動向等については、引き続き注視していくこととしたい。
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保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2019年06月17日「保険・年金フォーカス」)

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