2019年06月17日

ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しによる影響-2018年決算における影響等が判明-

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1―はじめに

ドイツの生命保険会社の法定会計において、一定のルールに基づいて強制的に追加責任準備金の積立を求める、いわゆるZZR(Zinszusatzreserve)制度については、2011年に導入された後、「昨今の低金利環境下で、この制度に基づく、追加の責任準備金積立負担が大きなものになっていたことから、制度の見直しが行われ、新たな計算ルールが2018年決算から適用されることになった」ことについて、保険年金フォーカス「ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しを巡る動き-2018年決算から見直しを行う法令改正が発効-」(2018.11.20)(以下、「前回のレポート」という)で報告した。

昨今、2018年決算の結果が公表され、各社のSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)やBaFinの2018年のAnnual Report1を通じて、この新しい制度適用の状況が明らかにされてきている。

今回のレポートでは、こうした各社のZZR積立の状況について報告する。  

2―ZZR制度について

2―ZZR制度について

まずは、ZZR制度について、これまでのレポートの内容を繰り返して、簡単に説明しておく。
1|ZZR制度の概要
BaFinは、低金利環境が続く中で、生命保険会社の健全性の強化を図るために、2011年度決算から、新たに一定のルールに基づいて強制的に追加責任準備金の積立を求める、いわゆるZZR(Zinszusatzreserve:Additional Provision to the Premium Reserve)と言われる制度を導入した。

具体的には、「ドイツ連邦銀行(Deutsche Bundesbank)によって公表されるユーロの10年スワップレートの10年平均2」に基づいて決定される「参照利率(Referenzzins)」を算出し、この参照利率を上回る予定利率で責任準備金を算出している契約については、当初15年間はこの参照利率(16年目以降は契約時の予定利率をそのまま)を使用して、責任準備金を再評価しなければならない。
2000年1月契約(予定利率4%)の場合-2015年度決算でのZZR-
強制的な追加責任準備金積立制度であるZZRについては、その手法等は責任準備金命令(Deckungsrückstellungsverordnung:DeckRV)に規定されており、不足額の算出も機械的に行われる。こうして強制的に積み立てられる追加責任準備金については、将来参照利率が上昇等して、積立の必要がなくなった場合には取り崩しが行われる。
 
2 毎年度の数値は、毎月末数値の12ヶ月平均が使用されるが、決算年度だけは1~9月の9ヶ月平均が使用される。
なお、2014年7月の生命保険改革法以前は、10年国債利回りを使用していた。
2|ZZR制度による追加責任準備金の積立状況(2017年末まで)
BaFinの2017年の年次報告書(Annual Report)等によれば、2017年に生命保険業界全体で、新たに157億ユーロの追加責任準備金の積立が行われ、2017年末の残高は598億ユーロとなった。これは責任準備金の約8%程度に相当する数値であった。
(参考1)参照利率と追加責任準備金残高(業界全体)の推移
また、ドイツの格付会社アセクラータ(Assekurata) によると、2017年末の業界全体での保有契約の平均予定利率は2.77%程度であったが、追加責任準備金の積立により、これが2.03%程度となり、結果として74bpの平均予定利率の低減効果が生み出された形になった、と報告された。
 

3―2018年のZZR制度の見直し内容について

3―2018年のZZR制度の見直し内容について

ここでは、2018年のZZR制度の見直しの内容について、前回のレポートに基づいて報告する。
1|回廊法(コリドー法)の採用
見直し後のZZR制度の方式は、「回廊法(コリドー法)」(Korridor Methode)と呼ばれているものである。その具体的な内容は、DAV(ドイツアクチュアリー会)の資料に基づくと、以下の通りである。

x%較正を用いた2M」、「回廊法(コリドー法)」とも呼ばれるものは、参照利率を以下の算式で決定する。

基本的な考え方としては、「参照利率の変動を(前年数値と過去1年の平均値の差の)一定の範囲内に収めることで、金利変動に対する参照利率の変動を緩やかに設定する。」方式である。

•RefZ_beizul(j-1)=前年の参照利率
•RefZ_Ziel(j)=これまでの方式による参照利率
•BaseZ(j)=年j の年間平均値
Deviation_max(j)= x%* Abs(RefZ_beizul(j-1)- BaseZ(j)) 
最大偏差:前年の参照利率と過去1年の平均値のx%
•ObGr(j) = RefZ_beizul(j-1)+ Deviation_max(j) 上限
•UntGr(j)= RefZ_beizul(j-1)- Deviation_max(j) 下限

•RefZ_beizul *(j)
= RefZ_Zielj);  UntGr(j)≦RefZ_Ziel(j)≦ObGr(j)の場合
= ObGr(j)  ;  ObGr(j)<RefZ_Ziel(j)の場合
= UntGr(j) ;  RefZ_Ziel(j)<UntGr(j)の場合
上限と下限の範囲内

•RefZ_beizul(j)
= RefZ_beizul(j-1)
;  RefZ_beizul *(j)<RefZ_beizul(j-1)<BaseZ(j)の場合
又はRefZ_beizul *(j)> RefZ_beizul(j-1)> BaseZ(j)の場合
= RefZ_beizul *(j); その他
上記数値が一定の条件を満たす場合、前年の参照利率に据置
(金利が上昇しているのに上記数値が前年数値を下回る場合や金利が下降しているのに上記数値が前年数値を上回る場合)

即ち、新しい方式によれば、参照利率は、毎年、最大「前年の参照金利とこれまでの方式に従って算出される現在年の参照金利との差額の一定割合x(%)」でしか変動しない、ことになる。これまでの方式に比べて、金利下落時には参照利率の引き下げが遅くなり、金利上昇時には参照利率の引き上げが遅れることになる。

また、この計算式に現われるx%が「Xファクター」と呼ばれ、金利の変動のスピードを表すことになる。

2018年の改正ではx=9、即ち「9%」となった。
2|見直しによる効果-参照利率-
2018年の見直しによる参照利率への影響は、以下の通りとなる。

2018年1月~9月の9ヶ月平均として、旧方式による2018年の参照利率は1.88%となった一方で、新たな回廊法による参照利率は、以下の通りで2.09%となる。

(1) 礎数値
前年の参照利率 2.21%
これまでの方式による参照利率 1.882%(小数点以下第3位まで) 
直近の9ヶ月の基準利率の平均 0.98%

(2) 1.882%-2.21%=-0.328% → より次の高い小数点以下2位の数値に切り上げ -0.33% 

(3) (0.98%-2.21%)×0.09=-0.1107% 
→ より次の高い小数点以下2位の数値に切り上げ -0.12%

(4) (2)と(3)の両方の差異の符号が同一であり、(3)の絶対値(0.12)が(2)の絶対値(0.33)よりも小さいため、
新しい方式による参照利率=2.21%+(-0.12%)=2.09%

(参考2)基準利率及び参照利率の推移

(2019年06月17日「保険・年金フォーカス」)

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