2019年06月07日

意識したい『座り過ぎ』の問題ー健康リスクを下げて、生産性を上げる

基礎研REPORT(冊子版)6月号

総合政策研究部 研究員   鈴木 智也

このレポートの関連カテゴリ

日本経済 ライフデザイン などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

1―「座り過ぎ」は万病の元

職場での健康リスクと言われて「座り過ぎ」の問題を挙げる人は、どのくらい居るだろうか。座るという行為は、半ば無意識的な行動であるため、飲酒や喫煙のように普段から危険性を感じている人は少ない。
 
しかし、最近の研究では、「座り過ぎ」に飲酒や喫煙と同じくらい健康を損なうリスクがあると報告されている。例えば、豪シドニー大学van der Ploeg氏らの研究(2012)*1によると、1日11時間以上座る人の総死亡リスクは4時間未満の人と比べて40%ほど高くなるとされる。また、米ジョージア州アトランタ・米国癌協会・行動疫学研究グループPatel氏らの調査(2018)*2では、1日6時間以上座る人の総死亡リスクは3時間未満の人に比べて19%ほど高く、循環器系疾患、癌、糖尿病、腎臓病、自殺、慢性閉塞性肺疾患、嚥下性肺炎、肝臓病、消化性潰瘍などの消化器系疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、神経系疾患、筋骨格系疾患などの死亡リスクを高めるという。さらに、米カリフォルニア大学・ロサンゼルス校・セメル神経科学・ヒト行動研究所Siddarth氏らの研究(2018)*3では、長時間の座位が記憶形成に関わる脳領域を薄くし、認知能力を低下させると指摘している。そして、これらの影響は強度の高い運動をしても相殺されない。
 
日本では、この問題に対して特に敏感であることが必要である。豪シドニー大学Bauman氏らの調査(2011)*4によると、日本は「総座位時間」が世界で最も長い国・地域の1つである[図表]。調査対象20カ国・地域の平均的な座位時間は300分/日であったのに対して、日本は420分/日と2時間も長い。
平日の総座位時間

2―「立つ・歩く」の働き方改革

それでは「座り過ぎ」の問題を解決するために、私達は何ができるだろうか。
 
まず、お勧めするのは、平均的な就業日における総座位時間を計測し、自分の健康リスクを計ることだ。豪シドニー大学van derPloeg氏らの研究では、総座位時間が8時間/日を越えたところで総死亡リスクが顕著に上がっている。これが1つの目安となるだろう。ただし、座位時間は自分が思うよりも長い可能性があるため注意が必要である。日本企業12社を対象とした九州大学本田氏らの研究(2014)*5では、労働者の主観的な座位時間は8.4時間であったのに対し、計測装置による客観的な記録では8.8時間になったという。この傾向は、女性より男性、若者より高齢者、独身より既婚者といった属性で観察されている。
 
次に、取り組むべきことは、座っている時間をできるだけ短くすることである。30分から1時間に一度、立ち上がってみるだけでも、疲労レベルの大幅な低下、腰痛の軽減、代謝改善による肥満防止、健康リスクの低減などに効果があることが複数の研究から分かっている*6
 
最近では、スタンディングデスクの導入や椅子のバランスボールへの置き換えなど、会社ぐるみで取組む企業も出始めている。海外では、Google、Facebook、Ericsson、VOLVOなど、シリコンバレーや北欧諸国を代表する企業で立ったまま働くスタイルは既に一般的だ。これには、創造性を高める効果も期待される。米スタンフォード大学Oppezzo氏らの研究(2014)*7によると、被験者の81%は歩く動作を入れた方が座った状態にあるより創造的であり、その効果は60%近くに及んだという。ただし、単一の答えを出すような収束的な思考をする場合には、座った状態にある方がむしろ効果的だとする結果も同時に示されている。
 
「座り過ぎ」への対処は、社員の健康を守るだけでなく、職場の生産性を高める一石二鳥の取組みだと言えるだろう。
 
*1 van der Ploeg HP, Chey T, Korda RJ, Banks E,Bauman A. Sitting time and all-cause mortality riskin 222 497 Australian adults. Arch Intern Med. 2012Mar 26;172(6):494-500.
*2 Patel AV, Maliniak ML, Rees-Punia E,Matthews CE, Gapstur SM. Prolonged LeisureTime Spent Sitting in Relation to Cause-SpecificMortality in a Large US Cohort. Am J Epidemiol.2018 Oct 1;187(10):2151-2158.
*3 Siddarth P, Burggren AC, Eyre HA, SmallGW, Merrill DA. Sedentary behavior associatedwith reduced medial temporal lobe thickness inmiddle-aged and older adults. PLoS One. 2018 Apr12;13(4):e0195549.
*4 Bauman A, Ainsworth BE, Sallis JF,Hagströmer M, Craig CL, Bull FC, Pratt M,Venugopal K, Chau J, Sjöström M; IPS Group. Thedescriptive epidemiology of sitting. A 20-countrycomparison using the International PhysicalActivity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med. 2011Aug;41(2):228-35.
*5 Honda T, Chen S, Kishimoto H, NarazakiK, Kumagai S. Identifying associations betweensedentary time and cardio-metabolic risk factorsin working adults using objective and subjectivemeasures: a cross-sectional analysis. BMC PublicHealth. 2014 Dec 19;14:1307.
*6 Thorp AA, Kingwell BA, Owen N, DunstanDW. Breaking up workplace sitting time withintermittent standing bouts improves fatigueand musculoskeletal discomfort in overweight/obese office workers. Occup Environ Med. 2014Nov;71(11):765-71.Healy GN, Dunstan DW, Salmon J, Cerin E, ShawJE, Zimmet PZ, Owen N. Breaks in sedentary time:beneficial associations with metabolic risk. DiabetesCare. 2008 Apr;31(4):661-6.
*7 Oppezzo M, Schwartz DL. Give your ideassome legs: the positive effect of walking on creativethinking. J Exp Psychol Learn Mem Cogn. 2014Jul;40(4):1142-52.
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

このレポートの関連カテゴリ

総合政策研究部   研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
日本経済・金融

(2019年06月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

アクセスランキング

レポート紹介

【意識したい『座り過ぎ』の問題ー健康リスクを下げて、生産性を上げる】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

意識したい『座り過ぎ』の問題ー健康リスクを下げて、生産性を上げるのレポート Topへ