2019年06月03日

法人企業統計19年1-3月期-予想外の二桁増益だが、純粋持株会社を除けばほぼ横ばい

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.前年比二桁増益も、純粋持株会社を除けばほぼ横ばい

経常利益の推移 財務省が6月3日に公表した法人企業統計によると、19年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比10.3%(18年10-12月期:同▲7.0%)と2四半期ぶりの増加となった。製造業は前年比▲6.3%(10-12月期:同▲10.6%)と3四半期連続で減少したが、非製造業が前年比18.4%(10-12月期:同▲4.9%)の大幅増益となり、全体を大きく押し上げた。

ただし、1-3月期の経常利益は純粋持株会社が前年比251.2%の急増となったことにより約10%押し上げられており、純粋持株会社を除く経常利益は前年比0.1%とほぼ横ばいにとどまる。純粋持株会社の大幅増益に持続性があるとは考えられず、経常利益は基調としては製造業を中心に低迷していると判断される。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は、輸出の低迷を主因として売上高が前年比1.1%(10-12月期:同3.9%)と前期から伸びが大きく低下したことに加え、売上高経常利益率が18年1-3月期の6.4%から6.0%へと低下したことが収益の悪化につながった。売上高経常利益率を要因分解すると、原油高の影響で売上高変動費率が上昇したことが利益率の悪化要因となった。

非製造業は、売上高は前年比3.7%(10-12月期:同3.7%)と前期と伸びは変わらなかったが、売上高経常利益率が18年1-3月期の5.2%から6.0%へと上昇した。

2.経常利益(季節調整値)は3四半期ぶりの増加

季節調整済の経常利益は前期比13.2%(10-12月期:同▲4.1%)と3四半期ぶりに増加した。製造業は前期比0.9%(10-12月期:同▲11.4%)とほぼ横ばいにとどまったが、非製造業が前期比19.5%(10-12月期:同0.1%)と急回復した。
経常利益(季節調整値)の推移 経常利益(季節調整値)は22.3兆円となり、18年4-6月期の23.9兆円に次ぐ過去2番目に高い水準となった。ただし、前述したように1-3月期の経常利益は純粋持株会社の大幅増益によって大きく押し上げられており、4-6月期には水準を切り下げる可能性が高い。

法人企業統計の企業収益は純粋持株会社の動きにより基調が読みにくくなっている。純粋持株会社を除いてみれば、非製造業は国内需要の堅調を反映し底堅さを維持している一方、製造業は海外経済の減速やグローバルなIT需要の減退を背景とした輸出の減少を主因として悪化傾向が続いていると判断される。

3.設備投資は堅調を維持も先行きは減速へ

設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比6.1%と10四半期連続で増加し、10-12月期の同5.7%から伸びを高めた。製造業(10-12月期:前年比10.9%→1-3月期:同8.5%)は前期から伸びが低下したが、非製造業(10-12月期:前年比2.7%→1-3月期:同5.0%)が前期から伸びを高めた。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比1.1%(10-12月期:同3.9%)と2四半期連続で増加した。製造業は前期比▲1.7%(10-12月期:同8.9%)の減少となったが、非製造業は前期比2.8%(10-12月期:同1.1%)と2四半期連続で増加した。
設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 設備投資は18年度を通して堅調に推移したが、これは過去最高水準を更新する好調な企業収益による潤沢なキャッシュフローを背景としたものであり、キャッシュフローに対する設備投資の比率が低水準にとどまるなど、必ずしも企業の投資スタンスが積極化しているわけではない。内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(2018年度)」によれば、今後5年間の実質経済成長率の見通し(いわゆる期待成長率)は前年度から0.1ポイント低下の1.0%となり過去最低水準に並んだ。

日銀短観19年3月調査では、輸出の減少を主因とした企業収益の悪化を受けて、製造業ではすでに投資計画を先送りする動きが見られた。19年度入り後の設備投資は、非製造業では人手不足対応の省力化投資、都市再開発関連投資の拡大などが引き続き下支えとなるものの、企業収益が大きく悪化している製造業を中心に減速に向かう可能性が高いだろう。

4.1-3月期・GDP2次速報は小幅上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、6/10公表予定の19年1-3月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.6%(前期比年率2.3%)となり、1次速報の前期比0.5%(前期比年率2.1%)から若干上方修正されると予測する。
2019年1-3月期GDP2次速報の予測 設備投資は前期比▲0.3%から同0.1%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比6.9%と10-12月期の同5.5%から伸びが高まった。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整すると前年比で3%台後半の伸びとなった。一方、金融保険業の設備投資は前年比▲16.3%(10-12月期:同▲11.0%)と3四半期連続の二桁減少となった。GDP1次速報時点の設備投資の需要側推計値は前年比3.1%となっており、本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映されるが、1次速報の前期比・寄与度0.1%から変わらないだろう。その他の需要項目では、公的固定資本形成は3月の建設総合統計の結果が反映され、前期比1.5%から同1.1%へ下方修正されると予想する。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年06月03日「経済・金融フラッシュ」)

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