2019年05月20日

2019欧州議会選挙-懸念すべきは政策の急展開よりも停滞-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
  1. 5月23日~26日の欧州議会選挙では、EUの統合を推進してきた中道右派、中道左派の2大グループの初の過半数割れが予想されている。
     
  2. その背景として、EU懐疑派への支持拡大が注目されがちだが、マクロン大統領の与党など、より深い統合を望む中道グループや環境グループへの票の分散も影響する。
     
  3. 政党グループの構成は、選挙後に変わる見通しだ。イタリアのサルビーニ副首相は右派のEU懐疑派を結集したグループ形成に動いている。国内で高い支持を誇る一方、EUと価値観を巡って対立するハンガリー、ポーランドの与党とも連携を探る。
     
  4. 新議会では、広義のEU懐疑派の獲得議席数は、全体の3分の1に届く勢いだが、親EU派が優位を保つ見通しだ。
     
  5. EU懐疑派が広く持続的に共同歩調をとることも難しい。EU懐疑派には、右派ポピュリストのほか、左派EU懐疑派などのタイプがあり問題意識は異なる。ロシアに対するスタンスには隔たりがあり、移民対策では右派の間でも利害が対立する。
     
  6. 議会選挙後のEUの政策の急展開やEU懐疑派のEU機関のトップの誕生という展開は考え難い。
     
  7. むしろ問題となるのは政策の停滞だろう。分断した政治・社会状況で「多年次財政枠組み」の議論の難航は避けられず、米国との通商協議の行き詰まるリスクも気掛かりだ。
EU懐疑派の議席は3分の1に届いても、広く持続的に共同歩調をとることは困難
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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