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あなたの‘信用’、何点ですか?―中国12都市をモデルに進む「社会信用システム」とは?
基礎研REPORT(冊子版)4月号

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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1―国が12のモデル都市を発表、目指す2020年までの全国導入
2018年1月、中国政府は「社会信用システム」のモデル都市として、12の都市(濰坊市・威海市・栄成市・宿遷市・南京市・蘇州市・杭州市・温州市・アモイ市・義鳥市・惠州市・成都市)を発表した。
国が主導するこの取組みは、2014年6月に国務院が発表した「社会信用システム構築の計画大綱(2014-2020年)」に端を発している。
2―献血で信用ポイント10点獲得?、政府が考える品行方正な市民とは?
海貝ポイントは、(1)政府や国からの表彰・奨励、(2)公共サービス、(3)法令順守、(4)社会責任の履行、(5)道徳・公益の5分野が対象となっている。評価項目数は合計29分類3,411項目で、減点内容と加点内容で構成されている。
海貝ポイントは、ゴマスコアなどプラットフォーマーによる商用系スコアとは異なり、学歴や職歴、家族などの個人情報は評価のポイント付与の対象外となっている。市民の生活における品行向上や法令・社会秩序の順守など、民度を引き上げる点により重きが置かれているからであろう。それゆえ、何をしたら具体的に何点加点、減点されるのかが公表されており、商用系スコアよりも分かりやすい仕組みとなっている。なお、自身の点数は、専用のアプリなどでいつでも確認が可能である。
まず、海貝ポイントの減点内容から見てみよう。例えば、減点の対象となる内容は、共産党の規律、政治規律、司法、納税など25分類3,242項目にわたり、全対象項目のうち95%を占めている[図表2]。
図表2の下表は、減点内容の一例として、「公共安全」、「公共サービス」の一部を抜粋したものである。例えば、酒酔い運転で6ヶ月の免許差し押さえ、且つ、1,000元以上2,000元以下の罰金に処された者は、50点減点されることになる。また、中国では医療費の自己負担が重い点が社会問題ともなっているが、医療費の支払いの遅れも減点の対象となっている。未納の医療費が5,000元以下で、退院後、支払いの遅れが90日を超えると、10点減点となる。
一方、加点内容は(1)政府による表彰・奨励、(2)社会公益、(3)金融・住宅積立金の貸付、(4)企業名誉の4分類169項目である[図表3]。
加点内容を見ると、国、省、県レベルまたは各政府部門が設けた「表彰・奨励」が142項目で最も多い。例えば、体育局は、オリンピックや世界選手権、アジア大会など国際的に重要な大会で上位8位以内であった選手とその監督に対しては60点加点するとしている。
また、「社会公益」分野では、年間の寄付額が10万元超~50万元以内であれば30点加点されることになる。献血であれば1回につき10点が加点される。
では、海貝ポイントが高い市民にはどのような特典があるのであろうか。
威海市は、海貝ポイントのレベルがAAA、AAの市民に対して、住宅ローン、文化・体育・観光、医療サービス、公共サービス、政務領域の5分類13項目の特典を設けている[図表4]。
このように、努力して信用を維持し、ポイントを積み重ねれば、お得な社会サービスを受けることができる。減点の項目数が圧倒的に多く、加点の項目数は限定的である点から、点数をある程度維持するには、いかに減点されないか、いかに品行方正に生活するかが重要となってくる。3―便利な生活、社会秩序の向上の影に潜む格差の助長や定着の恐れ
威海市のようなモデル都市、またそれ以外でもそれぞれ独自の社会信用システムを導入している。独自のノウハウを持たない都市は、アリババグループ傘下の芝麻信用管理有限公司(ゴマ信用)などから技術の提供を受けている。そもそも、ゴマスコアなどの仕組みはアリババグループが先行して社会に導入したものである。政府はその仕組みやノウハウを吸い上げて広く活用しているのに過ぎない。
中国では、今後、消費行動、社会活動、法律や社会のルールの順守などの日々の行動がスコア化され、信用ポイントとして可視化されることになる。更に、法の裁きに従わない場合は、移動や消費に制限をかける社会信用システムで管理される。
中国では歴史的に個人情報を国(共産党)が管理する制度(「人事档案制度」)がある。そのため、個人情報を国が管理することを受け入れやすい国民意識や、ネットが社会にあまりにも急速に浸透したことによって、個人情報に対する権利意識の醸成は置き去りにされたままの状態だ。政府は個人情報の保護を謳いながらも、「国家情報法」を施行し、いかなる個人、法人とも国の情報活動に協力する義務があるとしている。
信用ポイントの導入により、市民の行動が変化し、社会秩序の向上はある程度見込めるかもしれない。しかし、その一方で、中国が既に抱える所得格差、社会保障格差に加えて、本人の信用度による新たな格差―信用格差を生む可能性がある。信用ポイントは一生記録され続け、可視化されている。ゴマスコアのように、入学、結婚、就職・転職、住居の賃貸・購入などライフイベントでの活用が進めば、格差を助長し、定着させる恐れがある。スマホやネットで生活が便利になり、社会秩序が向上したからといって、単純には喜べない社会が待っているのだ。
(2019年04月05日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1784
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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