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平成における消費者の変容(1)-変わる家族の形と消費~コンパクト化する家族と消費、家族のモデル「標準世帯」の今
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
3――「標準世帯」の今と子育て消費
今や少数派となった「標準世帯」だが、平成の間に「標準世帯」に代表されてきた子育て世帯はどのような変容をとげているのだろうか。厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、1989年(平成元年)では18歳未満の児童のいる世帯が全体の41.7%であったが、2017年では23.3%であり、今や4分の1にも満たない。
また、夫婦の平均子ども数は若干減少しており、2人を下回るようになっている(図表9)。子ども
数の分布も変化しており、3人以上の多子世帯が減り1人以下の世帯が増えている。平成のはじめと比べて現在では、子どものいないDINKS夫婦や一人っ子夫婦が約2倍となっている。
また、18歳未満の児童のいる世帯では、かつては専業主婦世帯が過半数を占めていたが、現在では共働き世帯が過半数を超えて、専業主婦世帯の約2倍を占めるようになっている(図表10)。
少子化で限られた子どもに向けて活性化しているのが孫消費だ。6ポケットとは、1人の子どもに対して両親2人と両祖父母4人が財布(ポケット)からお金を投じて高額な商品を与えるような現象を指すマーケティング用語だ。
7 一般社団法人日本鞄協会 ランドセル工業会「ランドセル購入に関する調査」によると、2018年4月小学校入学児童のランドセル購入者は祖父母が6割
祖父母によるランドセル購入が増えた理由の1つでもあるが、子育て世帯では親世代の経済状況が厳しくなる中で、消費にも変化があらわれている。詳細は既出レポート8をご覧頂きたいが、総務省「家計調査」にて、核家族で子どもが2人いる共働き世帯と専業主婦世帯について、2000年以降の家計収支の状況を見ると、どちらも世帯収入が減る一方、税・社会保険料負担が増える中で収入以上に可処分所得が減少している。その結果、消費支出も減少し内訳が変化している。食費や通信費などの必需的消費の割合が高まり、娯楽費や交際費などの選択的消費の割合は低下し、できるだけ不要な消費を減らし貯蓄として手元に留める傾向が強まっている。裏を返すと、今の子育て世帯では必需性が高いと判断したものにお金を向けるということになる。実際に支出が増加傾向にあるものが4つある。
1つは「通信」だ。通信については、もはや社会インフラとしてニーズの高いものであり消費者全体で見られる変化だが、子育て世帯の通信費は、2000年と比べて2017年では1.5~6倍に膨らんでいる(共働き世帯1.16万円→1.89万円、専業主婦世帯1.05万円→1.64万円)。
2つ目には「住居」があげられる。可処分所得が減る中で高額な支出が増えることは不思議なようだが、子育て世帯の持ち家率は高まっている(同様に共働き世帯73.4%→81.7%、専業主婦世帯56.1%→74.0%)。背景には、税制改正(住宅ローン減税の拡充や祖父母や親からの資産移転に向けた贈与税非課税枠の拡大等)や金利低下の影響などがあるのだろう。消費者のニーズが高い領域に適した政策が走ると、消費抑制傾向が強くても消費へ向かう好例なのかもしれない。
3つ目は「教育」だ。子育て世帯のうち、もともと可処分所得の多い共働き世帯では2000年と比べて大きな違いはないが、より可処分所得の少ない専業主婦世帯では教育費がじわじわと増加傾向にある(2.7万円→3.1万円)。背景には進学熱の高まりがあるのだろう。
8 久我尚子「共働き・子育て世帯の消費実態(1)~(3)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポートおよび基礎研レター(2017/3~2018/3)
子育て世帯の消費で増えているものには「共働き消費」もある。これは単純に子育て世帯で共働きが増えているためだ。
共働き消費の特徴は、専業主婦世帯と比べて子ども1人あたりの教育費が多いことや、世帯あたりの自動車や携帯電話保有台数が多いために自動車関係費や通信費がかさむこと、そして、食費の内訳で調理食品や外食が多いことだ(図表13・14)10。また、妻がフルタイムで働く共働き世帯ほど家事代行の利用も多い。時間がないために全体的に時短ニーズや代行ニーズが強い。また、最近、子どもの教育関連のサービスでは、平日に子どもの習いごとの送迎ができない共働き世帯に向けた習いごと送迎専用のタクシーサービスや習いごと教室が併設された小学生の学童保育が人気とも聞く。
4――おわりに~人口・世帯が減っても暮らしの変化に注目した商品・サービスの共有で市場拡大の余地も
以前に推計したように9、現在、家計消費は世帯数が未だ増加局面にあるために緩やかに増加しているが、世帯数が減少局面に入る2020年あたりから減少し始める。
今後、人口が減り世帯数も減る中で消費市場が縮小することは自然なこととも言える。しかし、本稿で見てきたように、この平成の30年余りの間に家族の形が変わることで、売れる商品や求められるサービスが変化している。従来から存在する商品であっても、消費者の暮らし方やニーズの変化に対応することで、むしろ拡大する市場もあるだろう。今後とも単身世帯の増加と高齢化、共働き世帯の増加は続く見込みであり、現在のところ、特に共働きに向けたサービスでは需要に対して供給が足りずにインフレ気味のものも見られる10。
人口が減り世帯数も減るとしても、まだ拡大の余地のある市場もある。また、人口が減り世帯数が減るとしても、一人あたり、あるいは世帯あたりの所得が増えれば消費は増える可能性もある。この点については、次稿で詳しく述べるが、平成の30年余りで経済力の増した女性に大きく期待できるのではないかと考えている。
9 久我尚子「増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/5/9)
10 前頁で簡単に触れたが、習いごと送迎専用のタクシーサービスは1回5千円、習いごと教室が併設された小学生の学童保育は月10万円を越えるものもあるが予約を受けきれないほどという話も聞く。また、保育園待機児童問題を見れば、保育サービスの需要に対して供給が足りていないことは明らかだ。
03-3512-1878
(2019年03月04日「基礎研レター」)
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