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デジタル・プラットフォーマーの規制論~成長か規制か

総合政策研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
中村 洋介
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2019年2月には、安倍首相が議長を務め、成長戦略の司令塔として位置付けられる未来投資会議でこれらの内容が報告、議論された。今年の夏にとりまとめられる成長戦略の実行計画に盛り込むことを視野に、具体的な検討を進めるよう安倍首相から指示が出されている。
また、同じく2月に、総務省の有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」は中間報告書を取りまとめ、海外のデジタル・プラットフォーマー等に対しても、電気通信事業法上の「通信の秘密」に関する規律を適用する方針を盛り込んだ。表現の自由やプライバシーを守るため、利用者の同意なく通信の内容を把握したり、第三者に漏らすことが禁じられているが、国外にサーバーを設置し、日本国内でそのサーバーを支配・管理していない場合には、国内向けの事業を行っていたとしても規律が及ばないのが現状だ。利用者情報の適切な取扱が確保され、国内事業者と競争条件を合わせる(イコールフッティング)べく、「通信の秘密」に関する規律を海外事業者にも「域外適用」させることが適当だと言及している。
この種の規制については、EUが先行している。2018年5月には、主として個人データの取扱と移転を規律するGDPR(一般データ保護規則)が施行されている。GDPRへの違反があったとして、フランス当局がGoogleに巨額の制裁金を課した事例も出ている。また、デジタル・プラットフォーマーの透明性や公正性を確保するための法制度の議論も進んでいる。
こうした中、今年の6月に大阪で行われるG20サミット首脳会議では、デジタル・プラットフォーマーに対する課税ルール等について議論される見込みだ。議長国となる日本は、国内の規制やルールの整備を急ぐと同時に、国際会議の場で議論をリードしたいとの思惑もあるようだが、各国の立場も割れており、議長国として難しい役回りとなることも予想される。
3――規制の議論は一筋縄ではいかない
まず、規制する対象や範囲をどう決めていくのか、といった点である。GAFA、という言葉が独り歩きしがちであるが、当然デジタル・プラットフォーマーは米国勢のGAFAだけではない。日本企業が提供するサービスでは、「楽天市場」や「ヤフーショッピング」以外にも、「食べログ」(カカクコム)や「ぐるなび」のようなグルメサイト、「じゃらん」、「ホットペッパービューティー」、「ゼクシィ」(いずれもリクルート)のような宿泊や美容院、結婚式場等の検索・予約サイトもある。また、賃貸住居の検索サイトやアルバイト求人サイトも多い。また、近年成長してきたフリーマーケットアプリの「メルカリ」もある。いずれも、事業者と消費者(もしくは事業者同士、消費者同士)を結びつけるデジタル・プラットフォーマーと言え、高い知名度とシェアを有しているものもある。規制の対象や範囲が広がれば、その影響を受ける日本企業も増えていく。過度な規制については、日本企業からも反発の声が出るだろう。プラットフォームサービスは多種多様で、その特徴や現れる弊害も様々であり、対象や範囲をどう捉えるべきなのかは難しい論点だ。
また、次々と生まれる新しい形態のデジタル・プラットフォーマーにも対応を迫られる。米国では、ウーバー(ライドシェア)やAirbnb(民泊)といったGAFAに続くプラットフォームも成長してきた。「リアル」(オフライン)の場で行われるのが当たり前だった取引や消費が、デジタル技術の発展によって、「デジタル」(オンライン)の場で行われるようになっていく。その潮流の中、データや技術を駆使して参加者を効率的にマッチング出来るデジタル・プラットフォーム・サービスも増えていくだろう。非常に変化が早く、そして激しい領域であり、規制当局も追いつくのは容易ではない。
そして、成長と規制のバランスの取り方も論点だ。巨大デジタル・プラットフォーマーが経済成長とイノベーションを牽引してきたのは間違いない。それは米国に限った話ではなく、中国や東南アジアでもデジタル・プラットフォーマーがビジネスを拡大している。日本にとっても、イノベーションを牽引し、世界で戦えるデジタル・プラットフォーマーを育成することは重要だろう。過度の規制は、体力の乏しい新しい事業者にとっては重荷になる等、イノベーションを阻害する可能性がある。また、企業結合(買収等)を過度に厳しく審査し制限すると、デジタル領域での買収が停滞し、事業再編を通じたスピード感、ダイナミズムが失われる可能性もある。大手による買収という「出口」が広い方が、起業やベンチャー投資という「入口」が活性化する。イノベーションやベンチャー支援を成長戦略で掲げている中、成長と規制のバランスをどう取っていくのかも、非常に難しい問題と言える。
このように、規制当局が解こうとしている課題は、一筋縄ではいかない論点を含んでいる。次の6月に取りまとめられる成長戦略に向け、規制当局は難しい舵取りに挑んでいる。
4――おわりに~国家戦略の視点も必要
これからも、IoT(インターネット・オブ・シングス)等によってありとあらゆるデータが吸い上げられ、「リアル」の場が次々とデジタル化し、新たな「デジタル経済圏」が生まれていくだろう。そして、こうしたデジタル経済圏の周辺で多くのイノベーションが生まれていくだろう。こうした大きな潮流の中、データが価値を生み出す新しい時代のルールはどうあるべきか、成長と規制のバランスをどう保っていくのか。規制当局を中心に進められる議論の動向が注目される。
一方、デジタル化が急速に進み、成長戦略で言うところの「データ駆動型社会」が到来するのに向け、我々利用者のリテラシーも高めていく必要があろう。自分たちのデータが何に使われているのか、データを適切に管理している優れたサービス事業者はどこなのか、利用者の目が厳しくなり、サービスの「安全性」や「透明性」が競争上のポイントになっていくことが望ましい。
最後に、デジタル・プラットフォーマーの規制への議論を1つの契機に、データを巡る国家戦略という大きな視点での議論を進めていくことも必要だろう。デジタル化が進んでいく中で、データが安全保障に直結し始めている。要人の個人情報や、軍事技術に転用可能な機微技術の開発情報等、あらゆるデータが狙われる可能性がある。また、データを巡る国際標準(ルール)についても、激しいつばぜり合いが予想される。国内で収集されたデータの国外移転を制限するのか、または自由なデータ流通を原則とするのか、米国、中国、欧州のスタンスも異なってくる。日本の意に沿わない形で国際標準が作られてしまえば、データ駆動型社会を目指す成長戦略の遂行もままならない。安全保障、国際標準作りといった、大きな国家戦略の観点でも議論が進んでいくことに期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年02月27日「基礎研レポート」)

中村 洋介
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