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シリーズ・AI/IT婚時代の「運命の人の探し方」-第5回 情報オーバーロードが生み出す、ネット婚活樹海に打ち勝つためには?
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 研究主幹 宇野 毅明
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はじめに
少子化社会において、子ども人口が増え続けている東京都を除き、「学生時代の同級生」は急激に減少傾向にあるので、思春期の異性との出会うチャンスも減少している。
それに加え、都会への若者の転出で、生育歴のかなり異なる20代男女が互いの文化差に違和感をもちながらも理解し合う時間というものも、出会いの壁の1つになっているように見受けられる。
必然的に、年齢や価値観があう男女の距離間を時間的・距離的に一気にうめる事が可能な「ネットによる相手探し」が、結婚マーケットにおいて台頭し、広がりつつある。
しかし、当シリーズは、特に若者の間で近年大きく変容しつつあるパートナー探しの方法について、
情報技術は人々の活動様式を変えるだけではなく「結婚への価値観」にも影響を与えている
という観点から、情報技術の「リテラシー・検索・推薦」などが個人の活動にもたらす意外な影響・事象の「裏側」を紹介し、パートナー探しを進める読者の皆さんが迷子にならずに進めるよう、サポートすることを目的として執筆しているものである。
第1回「意味づけ単純化の罠」 第2回「フィルターバブルの罠」 第3回「検索不安恋愛モンスター」 第4回「『完璧な普通』追求からの脱却」に続き、今回はネット社会に起こる「情報オーバーロード」という現象について解説し、その対策を提案してみたい。
多すぎる情報を人はどう仕分けするのか?
その結果、「人々は多くの情報の中から的確なものを選べるようになった」と思われがちではあるが、実は一概にはそうとも言えない。
情報が多すぎて情報過多になると、逆に必要なもの、大事なものが見つけにくくなることもある。
この状態を情報オーバーロードという。
例えば会社経営において、会社の従業員が30人までなら社長1人で全社員の動向をみられるかもしれない。しかし社員が150人もいるとなると、30人と比べて俯瞰して把握するのは難しくなるということと同様である。人間はある程度の規模までしか全体を見ることができないので、情報が沢山あればあるだけよい、とはいかないのである。
情報過多、すなわち情報オーバーロードが発生しているとき、私たちはどんな行動をとるだろうか。
Bさんは空き時間が出来たので、映画でもみようか、と考えた。このとき、映画館に行ってその日映画館で上映されている映画から選ぶとしよう。映画館で上映中の映画が20タイトルくらいなら「どれがいいかな」と選んで、これだと決めることも難しくないだろう。
しかし、ネット上の映画配信サービスを利用するとなると話が変わる。1万本以上のタイトルから興味あるものを選ばなくてはならない。たぶん、1万本のうち、9500本くらいは、興味のない映画であろう。しかし、映画館での選択のように、全タイトルを調べて考える、というわけにはいかない。たくさんの映画をそろえて、いい映画が選べるようになったはずが、逆に選びにくくなってしまうのである。
こんなとき、Bさんがとる方法は3つほどある。
1つめは、今月の新着映画だけにしよう、とか、ジャンルや監督を限定する、といったように選択の幅を狭めて選択を簡単にする方法。
2つめは、レビューが良いものや、「いいね」クリック数が多いものを選ぶという方法。
3つめは、まとめサイトのように、誰かがまとめたお勧めの映画の中から選ぶ(キュレーションという)方法である。
どの方法をとるにしても、比較的簡単に選択ができるようにはなるが、その反面、自分で考えて1つ1つ検証する、という作業からは距離ができる。結果として、自分の価値観を多様に育てる手段として有効なとりあえずいろいろな角度から見て考える、という機会が減る。これでは、「多様に考える力」を養う機会が、大きく減ってしまうことになるだろう。
お気に入りの評論家が厳選した、あるいはジャンルマスターが推薦する、つまりは「いつも自分ではない誰かが選んだ」映画を見るか、特定の狭いジャンルのものを見ることが多くなり、映画館の前で想定外の作品を見てみようという気持ちになる、といった体験からは遠くなっていく。みずからの選択眼を磨くという点において、「情報オーバーロード」の存在は好ましくない。
~10万人から選べます~ 婚活情報オーバーロードの樹海と、どう闘うか?
婚活サイトの多くは多数の会員を抱える。また近年の相談所は複数の会員データ保有連盟から情報を購入しているため、中小規模の相談所であっても、検索可能な相手は数万人から10万人を超えるようなケースもある。
当然ながら、登録者全員のプロフィールをじっくり見て選ぶことはほぼ不可能である。
何かしらの条件をつけて絞り込むしかない。
日常生活で情報オーバーロードに慣れている人ほど、検索条件を絞って、または広げて、検索を楽にしよう、または検索相手を増やそう、と考える。
「ネット婚活」がうまくいかない人は、検索条件を多くつけすぎるから(相手がいないの)だろう、と言われたりもする。これは確かに間違ってはいないが、すべての原因が検索条件をつけすぎだから、というわけでもないだろう。
検索条件をしっかり設定していて、出会える人もいる。
大切なのは選択方法・選択の視点を「吟味しているのか」、選択条件が「他の誰でもない、自らに適合的なのか」という話である。
同じ検索項目でも、誰もが選択する項目を残せば、激戦は続く。下の図表は愛媛県の結婚支援センターに登録している男女がどういった検索項目にフラグを立てて検索しているかのランキングである。
吟味とはなんであろうか。頭で考えていても机上の空論となりかねないし、友人に聞いてもそれこそ価値観は多様で、友人にはありえないことが自分にはありだったりすることもある。
ならば映画と同じであり、吟味のために会ってみる(映画でいうなら視聴する)ことで検索条件を広げるか広げないか考えることは、一見面倒に見えても長い目で見れば効率的といえるだろう。
それは失敗、ではなくて、検索条件集め
「子どもの有無」についてまずは、子どものいる人、いない人双方に会ってみる。その上で、どうしても子どものいる人が無理なら外せばよい。40代の男性が30代の女性をと思っていても、40代女性にも会ってみる。その上で30代女性にも会ってみる。そこには、次の検索条件を考えるための大きな学びがあるかもしれない。
「会ってみたらダメだった」は失敗ではない。ダメだった、あわなかった、という1つの経験が自分にとって次回から検索条件として制限に入れるほどの出来事であったならば、条件として設定する、という判断が出来る、そんな判断材料である。
また「美人しか無理」なら、相談員や友人に「条件を制限しすぎだ」と反対されても美人に限定して申し込み、会えるならばどんどん会えばよい。その結果、美人から全く申し込みへのレスポンスがない、もしくは会っても2回目がないサンプルが続くなら、「潔くその検索条件は変更せよ」という次からの検索材料が提示されている、ということである。
大量の映画でも検索画面上の相手でも、大切なのは検索することではなく、まずは検索するための材料集めとして、作品・相手を「観てみる」ことなのではないだろうか。
(2019年02月25日「研究員の眼」)
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