コラム
2018年11月22日

シリーズ・IT婚時代の「運命の人の探し方」-第3回 「検索不安恋愛モンスター」にならないために

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 研究主幹 宇野 毅明

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はじめに

当シリーズでは、情報化の進展によって近年大きく変容しつつあるパートナー探しの方法について、

情報技術は人々の活動様式を変えるだけではなく「結婚への価値観」にも影響を与えている
 
という視点から、情報技術の「リテラシー・検索・推薦」などが個人の活動にもたらす意外な影響、事象の「裏側」を紹介し、パートナー探しを進める読者の皆さんが迷子にならずに進めるよう、サポートすることを目的として執筆しているものである。
第1回「意味づけ単純化の罠」 第2回「フィルターバブルの罠」に続き、今回は「検索不安」という現象について解説したい。

『検索不安』の海に溺れる人々

フィルターバブルは、ネット情報などを受動的に受け取っているうちに、その人の考えが、気がつかないうちに偏ってしまう現象である。
受動的に受け取っている情報だけで物事を判断する中で、ある価値観に傾いていってしまうことの怖さに気がつき、実は「木を見て森を判断しているだけではないのか」という視点を常に持てるようにすることが大切である。
 
逆に、人の能動的な情報入手が、フィルターバブルと同じような現象を起こすことがある。この現象を説明する言葉が既存では見当たらないので、本稿において「検索不安」とよぶことにしたい。
 
「検索不安」という現象を解説したものをたまに見かけることがある。それは、育児や病気に関する記事においてであることが多い。
 
具体例を挙げてみよう。
新米お母さんが、赤ちゃんの腕に赤くて大きな肌荒れを見つける。そのお母さんはすぐにスマホで「赤ちゃん 腕 赤いシミ」などと検索を開始する。そこで、「腕のシミは重い病気の兆候!」という記事を見つける。
重い病気なんて、まさか・・・と思うものの、万が一のことを考えて、一応その重い病気について再度検索してみると、次から次へとその病気の記事が思った以上に検索画面に登場する。
「もしかしたら、うちの子もこの病気なのかもしれない」と、大きな不安が心に広がり始める。そのお母さんはこの大きな不安から逃れたい、その一心で病気について「そんなことはないわよね」と調べ続ける。しかし、調べれば調べるほど、病気で苦しむ赤ちゃんなどの情報が入り、ますます不安になる。
ここまでくると、お母さんは完全に不安な情報に溺れたかのような状態になってくる。病気が頭からはなれず、不眠になったり、今まではなんとも思わなかったちょっとした赤ちゃんの行動に一喜一憂ならぬ、一喜十憂状態となったりする。
 
そうなると、周りの人からもさすがにそれは考えすぎだ、といわれるようになる。
ただ、本人も周りの人も、「検索不安の海におぼれた状態=ネット検索しすぎることで起こっている症状」であるとは思わないので、これがネット検索によってもたらされる生活支障である、という考えに至らない。

強迫性障害に同様の症状

「強迫性障害」という心の病気がある。
出かけるときに玄関の鍵をかけたかどうか、ガスの元栓を閉めただろうか、不安になって何回も、何十回も家に戻ってきてしまう、というような病気である。
この病気の背景には次のようなメカニズムがある。
鍵をかけたときの安心感というものをアンケートすると、1回目、2回目はかなり安心できるが、5回、10回と確認するにつれて、得られる安心感はどんどん小さくなるということがわかっている。つまり、確認を繰り返すほど、確認から得られる安心感は逓減してゆくことになる。
しかし、厄介なことに脳は初回、2回目の大きな安心感を覚えてしまっていて、その感覚を強く欲してしまう。この大きな安心感を得ようと何回も鍵を確認してしまうのだが、期待した安心感が得られないことに何故だろうと焦り、不安感がどんどん高まっていくというメカニズムである。
 
強迫性障害の予後のよい治療の1つとして認知行動療法がある1。やらずにはいられない行動をやらないことで「やらなくても大丈夫」という経験を積み重ねさせる方法である。
例えば、家族ぐるみで、鍵を閉めたかどうかを患者に確認させない、患者の「私の代わりにみてきてくれない?」に絶対つきあわない、ことを徹底する。これに付き合ってしまうと、要求がエスカレートするのが、この病気の特徴でもある。エスカレートする理由は先述の通り「期待した効果を得られないから」である。つまり、きりがない。
「確認行動をしなくても安心な結果を得られたという状況」を繰り返し経験させることが大切なのである。
ちなみに、「検索不安」に関しては、この確認行動の阻止、が非常に難しい。周囲が止めようと思っても、自宅パソコンでの検索がダメならタブレットやスマホ、それがダメなら会社のパソコンやネットカフェ、と気軽に情報へのアクセスによる確認行動を繰り返すことが出来てしまうのである。
 
1 厚生労働省ホームページ「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス-強迫性障害」

SNS監視モンスター化する検索不安恋愛行動

では、この検索不安が実際のパートナー探しにどのように影響しているか、具体例を示してみたい。これは実際にあった事例を一部変更して掲載している。
 
OLのAさんはマッチングサイトで気に入った男性の公務員B君と出会う。B君とは初回デートで意気投合し、すぐにフェイスブックやLINEで友達登録しあうようになった。ただB君は激務で、Aさんへの連絡は頑張ってもそんなには頻繁にできない。
 
Aさんは大好きなB君と思うように会えない、連絡がなかなか返ってこない寂しさから、B君のフェイスブックやLINEやマッチングサイトの自己紹介画面をたびたび見るようになる。
フェイスブックのコメントに女性からの書き込みがあったり、LINEのホーム画面の画像が綺麗な夜景になったりすると「もしかして他に好きな子がいるのでは?私はサブでは?」と不安になるAさん。不安なので、B君のSNS動向を仕事後の深夜になるまで監視し続けるようになる。
 
それでは飽きたらず、ネットでマッチングサイトによって出会った男女のブラック記事、主に男性が遊び目的で登録していて、女性が裏切られるような記事を検索しまくるようになる。
記事を読めば読むほどAさんは絶望的な気持ちになり、彼女の中でB君は二股もしくは三股男性確定、となってしまう。
Aさんは、ついにはB君本人に強い口調で不信感を告げ、何度も確認連絡するようになり、いやになったB君から別れを告げられ、LINEブロックされてしまったのだった。

検索不安でモンスター化しないために

不安になったときに、「安心したい」と思う心は誰にでもある。
しかし、その安心感を得ることにあまりに一生懸命になってしまうことによって、人々は検索不安の海に溺れ、自縄自縛する状態になるのかもしれない。
 
実は安心感を得られないという心のヒビをいやすには、不安を煽る要因とは一旦きっぱり離れて、他のことを楽しんだりすること、つまり、1つの事柄を心の拠り所としてそれに依存することがないようにすること、が大切である。
また、ネット検索によって安易に「~ではない恋愛はうまくいかない」「~な人と結婚するには」「~な出会いはこうなる!」といった情報を過信すること、つまり、このコラムのシリーズ第1回でふれた「単純化の罠」に見事にはまるようなことをしないようにしたいものである。
 
 
好きな相手が目の前に現れた時ほど、気になる相手がいる時ほど、その相手との時間以外の時間をしっかり確保する、また、確保できるようなライフデザインをたてておくことが病まない秘訣である。
 
ネット検索も含めて、「よい加減」の時間と距離感を相手との間に持てるかどうか。
運命の人との相性をみる尺度の1つとしてもいいかもしれない。
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生活研究部

天野 馨南子 (あまの かなこ)

宇野 毅明

(2018年11月22日「研究員の眼」)

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