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シリーズ・IT婚時代の「運命の人の探し方」-第4回 「完璧な普通」 追求からの脱却

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 研究主幹 宇野 毅明
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はじめに
例えば、中高齢者層に「その問題、昔からあるよ。おんなじだよ」と物事を評する方々が少なからず存在する。
しかし、就職の話にしても、結婚の話にしても、昔と今とは背景の状況が全く違う。状況が違うから、同じように見える事象についても、苦労しているポイントや、心配なことや、悩んでいることも大きく変わっている。「昔だって大変だったんだよ」の大変さの中身が全く違うように、昔から変わらないので大変ではないのではと思うことが、今においては大変なことだったりするのである。
こういった長期少子化にともなう「共感できる世代人口数の偏り(人口比バイアス)」から、人口多数派(中高齢層)による「価値観のおしつけ」「(俺たち私たちだけの)みんなの価値観礼賛」が投票結果や世論調査において強く起こりやすく、少子化が是正されるどころか悪化していくことを人口問題では「少子化トラップ」という。
「情報提供における少子化トラップ」に陥ることを避けることは、当シリーズの 大きな目的の1つである。その情報化の進展による価値観のギャップを埋めるため、特に若者の間で近年大きく変容しつつあるパートナー探しの方法について、
情報技術は人々の活動様式を変えるだけではなく「結婚への価値観」にも影響を与えている
という視点から、情報技術の「リテラシー・検索・推薦」などが個人の活動にもたらす意外な影響、事象の「裏側」を紹介し、パートナー探しを進める読者の皆さんが迷子にならずに進めるよう、サポートすることを目的として執筆しているものである。
第1回「意味づけ単純化の罠」 第2回「フィルターバブルの罠」 第3回「検索不安恋愛モンスター」に続き、今回はネット社会に起こる「完璧な普通の追求」という現象について解説したい。
ダイバーシティの進展を阻害しかねない、検索エンジンの仕組みとは
しかし、やはりまだ「ダイバーシティ」とは少し違う方向に社会は進んでいるようである。
家族間、会社において、また大切なパートナーさえも、社会、人生、人間関係など対して「こうあるべき」感が強い、と感じる場面は少なくないのではないか。
実はネットの推薦や検索は、こういった、「価値観の画一化」をうみやすい。よくできた推薦、検索エンジンほどその傾向がある、とも言えるだろう。
検索エンジンの基本的な仕組みは、「入力されたキーワードを含む(あるいは似ている)ページをすべて見つける」である。
この検索結果を10件ずつ表示するのだが、上手に検索結果がならんでいるほど使い心地がいい(これをランキングという)。
検索者にとって重要そうだ、喜ばれそうだ、と思われるページが上に来ているほど勿論ユーザーは喜ぶので、検索サイトの目標は「検索結果がユーザーに好まれそうであること」を目指す。
しかし、ページの重要さ、面白さは、人によって異なり、計算できるものでもない。そこで、どれくらいの人がそのページを見たか(アクセス数)、を尺度の一つとして使うことが多いのである。
つまり、みんながクリックするページは、検索の上位に来る。
極端な例を挙げるなら、蛇がかっこいい、というページを皆がクリックすれば、それが他の情報より、より上位に来るようになる。パンダ大好きというページを誰もクリックしなければ、いくらパンダが可愛くてもランクは下がる。
検索結果はランキングといっても「この検索をした人は、こういうページを見ていますよ」というおすすめ順なのである。世の人々が気になっていることを、より人々の目につくようにしているのである。
その結果、人々の価値観は、「みんなが気になることについて」、より顕著に同じ方向に進んでいく。
推薦エンジンも同じである。多くの人々が買っている商品、多くの人が読んでいる記事を勧めてくるので、その商品がより購入されるようになるのである。
大きな存在感を手に入れる「普通」という考え
想像されることは、とても大きな存在感を持った「普通」の出現ではないかと考える。
○○を素敵だと思い、△△を愛好し、子育てについてはこう考え、芸能人の不倫はこう考え、という「完璧な普通」感ができあがる。実際はそれをクリックして読んだ人が多いだけ、なのである。
検索エンジンや推薦エンジンは、アクセス多数、ランキング上位、推薦多数な「完璧な普通」に向けて人々の背中を押す力がとても強い。そうとらえることもできるだろう。
道徳的、倫理的にみた人々の規範となるような「普通」があることは、悪くないだろう。
しかし、その「普通」の存在感が大きすぎると、普通ではない考えや、普通ではない選択に、強い抵抗感が出てくることが少なくない。
実はパートナー探しにおいても、「普通の相手」探しの罠にはまるケースが多いように見受けられる。パートナー探しの現場では「普通の人でいいんですが・・・なかなか普通の人がいないんですよ」と嘆きつつ、いつまでも出逢えないというパターンがよく見られる。
実際は、個人の考えは多様である。そうであるのに、沢山の人が「普通」を求めて相手を探せば、当たり前であるが「完璧な普通さん獲得」は当然激戦となる。たとえそれなりの普通さんと出会えたとしても、付き合ってみたら、自分の価値観と「普通」の違いが徐々にあらわになり、「あれもあわない、これもあわない」となってしまう。
パートナー選びを難しくする「普通の壁」
たとえば普通の身長、普通の体重、普通の学歴。これらを検索してその普通を求めると、一体どういうことが起こるだろうか。
日本の大学進学率は伸び続けており、2018年度でほぼ50%である。
「いまどき大学にいくのが『普通』だよね」と考えるなら、2人に1人に絞られる。
厚生労働省の「H28国民健康・栄養調査」(図表1)によると20代男性の平均身長は170センチ程度である。普通な身長、170センチ以上の男性パートナーを望むと、さらに半分くらいの男性が脱落する。同じデータで20代男性の平均体重を見ると67キロで、「普通よりも太くない男性がいいかな」とまた半分に絞られる。
こういう統計では、身長・体重・学歴セットでの「セット平均」をとっているわけではない。一人ひとり、身長も体重も学歴もばらばらな状態での平均である。3つの条件セットですべてが平均以上、となれば、半分の半分の半分、1/8の人に限定されるだろう。
こうなると3対3合コンでは、なかなか出現しなさそうな予感、となる。自分自身で考えても、8人に一人の条件を満たす素晴らしい存在になるのは、なかなか難しいのではなかろうか。
しかし、よく考えると一般的に読者が結婚相手に考える「普通」の条件は、3つどころではなく、かなり多い条件の掛け算となっている。
普通にこだわるのではなく、自分の条件を見極め、最小限に設定する
パートナー探しでは、「完璧な普通」の追求は、最も避けるべき行動の1つといえるだろう。
(2018年12月21日「研究員の眼」)
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