コラム
2018年12月21日

シリーズ・IT婚時代の「運命の人の探し方」-第4回 「完璧な普通」 追求からの脱却

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系 研究主幹 宇野 毅明

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はじめに

少子高齢化が進行する中で人口構造が逆ピラミッド化し、メディアの利用者である平均読者層が年々高齢化している。そんな中、「もはや人口マイノリティである若者」に対して特に訴求的かつ参考になる情報は、情報発信を行うメディア側のアクセス重視経営の中で軽視されやすい傾向にある。
 
例えば、中高齢者層に「その問題、昔からあるよ。おんなじだよ」と物事を評する方々が少なからず存在する。
しかし、就職の話にしても、結婚の話にしても、昔と今とは背景の状況が全く違う。状況が違うから、同じように見える事象についても、苦労しているポイントや、心配なことや、悩んでいることも大きく変わっている。「昔だって大変だったんだよ」の大変さの中身が全く違うように、昔から変わらないので大変ではないのではと思うことが、今においては大変なことだったりするのである。
 
こういった長期少子化にともなう「共感できる世代人口数の偏り(人口比バイアス)」から、人口多数派(中高齢層)による「価値観のおしつけ」「(俺たち私たちだけの)みんなの価値観礼賛」が投票結果や世論調査において強く起こりやすく、少子化が是正されるどころか悪化していくことを人口問題では「少子化トラップ」という。 
 
「情報提供における少子化トラップ」に陥ることを避けることは、当シリーズの 大きな目的の1つである。その情報化の進展による価値観のギャップを埋めるため、特に若者の間で近年大きく変容しつつあるパートナー探しの方法について、
 
情報技術は人々の活動様式を変えるだけではなく「結婚への価値観」にも影響を与えている
 
という視点から、情報技術の「リテラシー・検索・推薦」などが個人の活動にもたらす意外な影響、事象の「裏側」を紹介し、パートナー探しを進める読者の皆さんが迷子にならずに進めるよう、サポートすることを目的として執筆しているものである。
 
第1回「意味づけ単純化の罠」 第2回「フィルターバブルの罠」 第3回「検索不安恋愛モンスター」に続き、今回はネット社会に起こる「完璧な普通の追求」という現象について解説したい。

ダイバーシティの進展を阻害しかねない、検索エンジンの仕組みとは

ダイバーシティという言葉がメジャーな書籍タイトルで登場し始めてからもう10年程度経過し、今更ながら、人の好みはそれぞれであり、多様であることを自然と思うような社会が目指されてきたのだと思う。
しかし、やはりまだ「ダイバーシティ」とは少し違う方向に社会は進んでいるようである。
 
家族間、会社において、また大切なパートナーさえも、社会、人生、人間関係など対して「こうあるべき」感が強い、と感じる場面は少なくないのではないか。
 
実はネットの推薦や検索は、こういった、「価値観の画一化」をうみやすい。よくできた推薦、検索エンジンほどその傾向がある、とも言えるだろう。
 
検索エンジンの基本的な仕組みは、「入力されたキーワードを含む(あるいは似ている)ページをすべて見つける」である。
この検索結果を10件ずつ表示するのだが、上手に検索結果がならんでいるほど使い心地がいい(これをランキングという)。
検索者にとって重要そうだ、喜ばれそうだ、と思われるページが上に来ているほど勿論ユーザーは喜ぶので、検索サイトの目標は「検索結果がユーザーに好まれそうであること」を目指す。
 
しかし、ページの重要さ、面白さは、人によって異なり、計算できるものでもない。そこで、どれくらいの人がそのページを見たか(アクセス数)、を尺度の一つとして使うことが多いのである。
 
つまり、みんながクリックするページは、検索の上位に来る。
極端な例を挙げるなら、蛇がかっこいい、というページを皆がクリックすれば、それが他の情報より、より上位に来るようになる。パンダ大好きというページを誰もクリックしなければ、いくらパンダが可愛くてもランクは下がる。
検索結果はランキングといっても「この検索をした人は、こういうページを見ていますよ」というおすすめ順なのである。世の人々が気になっていることを、より人々の目につくようにしているのである。
その結果、人々の価値観は、「みんなが気になることについて」、より顕著に同じ方向に進んでいく。
推薦エンジンも同じである。多くの人々が買っている商品、多くの人が読んでいる記事を勧めてくるので、その商品がより購入されるようになるのである。

大きな存在感を手に入れる「普通」という考え

その結果、何が起るだろうか。
想像されることは、とても大きな存在感を持った「普通」の出現ではないかと考える。
 
○○を素敵だと思い、△△を愛好し、子育てについてはこう考え、芸能人の不倫はこう考え、という「完璧な普通」感ができあがる。実際はそれをクリックして読んだ人が多いだけ、なのである。
 
検索エンジンや推薦エンジンは、アクセス多数、ランキング上位、推薦多数な「完璧な普通」に向けて人々の背中を押す力がとても強い。そうとらえることもできるだろう。
道徳的、倫理的にみた人々の規範となるような「普通」があることは、悪くないだろう。
しかし、その「普通」の存在感が大きすぎると、普通ではない考えや、普通ではない選択に、強い抵抗感が出てくることが少なくない。
 
実はパートナー探しにおいても、「普通の相手」探しの罠にはまるケースが多いように見受けられる。パートナー探しの現場では「普通の人でいいんですが・・・なかなか普通の人がいないんですよ」と嘆きつつ、いつまでも出逢えないというパターンがよく見られる。
 
実際は、個人の考えは多様である。そうであるのに、沢山の人が「普通」を求めて相手を探せば、当たり前であるが「完璧な普通さん獲得」は当然激戦となる。たとえそれなりの普通さんと出会えたとしても、付き合ってみたら、自分の価値観と「普通」の違いが徐々にあらわになり、「あれもあわない、これもあわない」となってしまう。

パートナー選びを難しくする「普通の壁」

ネット検索でイメージする「普通」なパートナーを探そうとすると、どのようなことが起こるだろうか。
たとえば普通の身長、普通の体重、普通の学歴。これらを検索してその普通を求めると、一体どういうことが起こるだろうか。
 
日本の大学進学率は伸び続けており、2018年度でほぼ50%である。
「いまどき大学にいくのが『普通』だよね」と考えるなら、2人に1人に絞られる。
厚生労働省の「H28国民健康・栄養調査」(図表1)によると20代男性の平均身長は170センチ程度である。普通な身長、170センチ以上の男性パートナーを望むと、さらに半分くらいの男性が脱落する。同じデータで20代男性の平均体重を見ると67キロで、「普通よりも太くない男性がいいかな」とまた半分に絞られる。
 
こういう統計では、身長・体重・学歴セットでの「セット平均」をとっているわけではない。一人ひとり、身長も体重も学歴もばらばらな状態での平均である。3つの条件セットですべてが平均以上、となれば、半分の半分の半分、1/8の人に限定されるだろう。
こうなると3対3合コンでは、なかなか出現しなさそうな予感、となる。自分自身で考えても、8人に一人の条件を満たす素晴らしい存在になるのは、なかなか難しいのではなかろうか。
 
しかし、よく考えると一般的に読者が結婚相手に考える「普通」の条件は、3つどころではなく、かなり多い条件の掛け算となっている。
【図表1】 参考・日本の男性の年齢別平均身長・平均体重
これが男性側ならば、見た目が普通(以下ではない)、大学卒、料理が上手、綺麗好き、年齢が30歳以下、などがよく上がる条件であろうか。どの条件についてもそれぞれ2人に1人存在していたとしても、「32人に1人しかいない女性がいい」という計算になってくる。

普通にこだわるのではなく、自分の条件を見極め、最小限に設定する

ネット検索が容易でなかった頃は、これほど普通にこだわることもなかったであろう。近年の「普通」の絶対化傾向は、ネット検索による価値観の画一化が影響しているともみられそうである。
普通以上であることが絶対的な価値観となる中で、「すべてにおいて普通以上であることがいかに珍しいことか」ということがわからなくなっているのかもしれない。
 
2016年に行った愛媛県の結婚を希望している未婚男女の分析では、特に女性が男性に比べてこだわる項目が多すぎる傾向(注:多すぎることが問題であり、こだわることは問題としていない)が指摘できた(図表2)。
【図表2】 男女の「こだわる」選択者の割合差
あれもこれも欲張れば相手がいなくなる、ことは誰しも理解出来るのだが、「普通」の条件ならいくつ積み重ねても大丈夫だ、と意識せずに思ってしまうことは、大きな落とし穴となりやすいので、注意したいものである。むしろ、多少ニッチな条件だけを持っているほうが、よっぽど気に入った相手を見つけやすいのである。
 
パートナー探しでは、「完璧な普通」の追求は、最も避けるべき行動の1つといえるだろう。
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生活研究部

天野 馨南子 (あまの かなこ)

宇野 毅明

(2018年12月21日「研究員の眼」)

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