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リーマン・ショックから10年。その後の不動産収益率を振り返るー不動産の生み出すインカム収益がJリートの本源的価値
基礎研REPORT(冊子版)2月号

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人
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1―東証REIT指数(配当込み)は史上最高値を更新
このように、Jリート市場の投資リターンが前回高値を超えて上昇するなか、不動産投資市場では間もなく市況がピークアウトするのではないかとの見方が増えている。日本不動産研究所の「不動産投資家調査(18年10月)」によると、不動産投資市場の現状認識について、「市場サイクルのなかでピークに達している」との回答が71.8%となった。また、日銀短観によると金融機関の貸出態度DI(不動産大企業)が足もとで低下基調に転じ不動産向け融資の潮目の変化を示唆する指標もみられる[図表2]。
そこで、以下では、前回ミニバブル期におけるJリートの投資行動とその結果について確認する。具体的には、不動産価格が高値圏にあった時期に取得した不動産を対象に、その後の収益率(インカム収益とキャピタル収益)を検証し、収益のボトムラインやいずれ訪れる市況悪化への備えについて考えたい。
2―前回高値圏でJリートが取得した不動産、その後の収益率を振り返る
まず、前述の物件を対象に取得価額に対する2017年末時点のキャピタル収益率(期中売却による売却損益を含む)を計算すると、全体で▲9%(年平均▲1%)となった[図表4]。アセットタイプ別では、景気感応度の高いオフィスビル(▲14%)やホテル(▲24%)の収益率が大きく落ち込む一方で、不動産キャッシュフローの安定している物流施設(+18%)や住宅(▲4%)の収益率は全体平均を上回った。また、キャピタル収益率のボトムは全体で▲18% (2012年下期)であった。2013年以降の5年間でキャピタル収益率は9%上昇し下落率の半分を戻したことになる。なお、Jリート保有物件の鑑定価格は足もと年率2%のペースで上昇しており、このペースが持続すればキャピタル収益率は5年後にようやくプラス転換することになる。
こうした賃貸借契約に基づいた賃料収入を源泉とする不動産のインカム収益はJリートの本源的価値そのものである。証券投資としてJリートの投資リターンが前回高値を超えて上昇できている大きな要因は、安定したインカム収益を創出する良質で優れた不動産ポートフォリオのおかげだと言えよう。
3―市況悪化への備え、LTV管理の重要性
そのため、ゴーイングコンサーンを前提に不動産を長期保有し、期間利益を内部留保できないJリートにとって回避すべきことは、不動産の高値掴みではなく、いざ市況が悪化した時に不動産を購入できずに投資タイミングの分散を図れないことだと思われる。そして、そのリスクへの対応が借入比率(LTV:Loan To Value)の管理である。
そして、Jリートが財務レバレッジに依存してはならないとすると、資本集約的なJリートが収益率(ROE、自己資本利益率)を高めるためには、不動産キャッシュフローを持続的に大きくすることが必要になる。そのためには、国内の不動産市場が長期的に健全であることが大切だ。
最近、Jリート各社は投資主価値向上の一環として、ESG「環境への配慮(E)、社会への貢献(S)、ガバナンスの強化(G)」への取り組みと情報開示を積極的に行っている。Jリートがこうした取り組みを通じて社会との共生を深めることで、今後の国内不動産市場のさらなる健全性向上に貢献することを期待したい。
(2019年02月07日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1858
- 【職歴】
1993年 日本生命保険相互会社入社
2005年 ニッセイ基礎研究所
2019年4月より現職
【加入団体等】
・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員
岩佐 浩人のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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