2019年01月15日

中国の生命保険市場(2017年版)基礎データ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(35)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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6-資産運用状況

2017年の生保の総資産は、前年比6.3%増の12兆2,144億元であった3。中国では、生命保険業全体の資産運用状況は公表していないため、以下では、生保大手3社(中国人寿、平安人寿、太平洋人寿)について確認し、運用の全体像を概観する4

図表10は3社の資産のうち、負債を運用し、収益を確保することを目的とした実働資産について債券や株式など運用手段別に分類し、合計したものである。
(図表10)生保大手3 社の運用手段別資産構成
それによると、2017年は銀行の定期預金(12.3%)、貸付(13.1%)、債券(49.1%)といったインカム資産が実働資産全体の74.5%を占めており、安全な資産を中心に運用されている。

また、およそ半分を占める債券については、国債・政府債が38.1%、金融債が18.0%と安全性の高い債券が過半の56.1%を占めている。その他には、高収益が期待される理財商品などが含まれている。
 
3 資産運用残高については、生保、損保などの分類での公表はない。
4 上位5社のうち、3位の安邦人寿は2018年2月に銀保監会に接収され、2017年のディスクロージャー資料を公表していないため除外した。また、泰康人寿は、2017年のディスクロージャー資料において、運用手段別の分類がされていないため、除外した。なお、中国人寿、平安人寿、太平洋人寿の市場占有率の合計は、40.6%である。
 

7-収支状況

7-収支状況

(図表11)生保大手4 社の収支状況 中国の生命保険業全体の収支動向は公表されていないため、以下では生保大手4社(中国人寿、平安人寿、太平洋人寿、泰康人寿)について確認し、収支の全体像を概観する。

2017年の大手4社の営業収入の総額は、前年比24.8%増の1兆5,281億元であった(図表11)。2017年は保険料等収入の大幅な増加に加えて、株式市場の回復から資産運用収益が増加した。

営業支出では、責任準備金等の繰入、手数料・コミッションも増加したが、営業利益も前年より増加した。

最終的な純利益は大幅に増加し、前年比42.6%増の863億元となった。
 

8-保険の地域別普及状況〔生損保合計〕

8-保険の地域別普及状況〔生損保合計〕

2017年の1人あたりの保険料拠出は2,632元(生損保合計)で、2016年より374元増加した(図表12)。

地域別の普及状況は、所得の高い東部地域が最も進んでいる。1人あたりの保険料拠出が最も多い北京市は、全国平均のおよそ3.5倍の規模となっている。また、2017年の公表データのうち、最も少ない貴州省(1,108元)は全国平均のおよそ4割、北京市の1/8となり、普及の地域格差は引き続き大きい。
(図表12)地域別保険普及状況(生損保合計)

9-世界における中国生命保険市場の位置づけ

9-世界における中国生命保険市場の位置づけ

スイス再保険会社のSigma 「World insurance in 2017」によると、国・地域別の生命保険料の規模において、中国は米国に次いで世界第2位となった(図表13)5。上位5カ国の伸び率について、近年の状況を見ると、中国が23.0%とその他の4カ国を遥かに凌いでいることが分かる(図表14)。中国は、その市場規模、成長率から、世界の生命保険市場を牽引する存在になりつつあると言えよう。
(図表13)国・地域別 生命保険料収入シェア/(図表14)国・地域別の生命保険料の伸び率(2017 年時点での上位5 カ国・現地通貨ベース)
一方、人口が多く、地域によって経済格差が大きいこともあり、「GDPに占める生命保険料収入の割合」は2.7%、「国民1人当たりの生命保険料収入」は225ドルと相対的に低く、いずれも世界平均にさえ達していない(図表15、図表16)。国民1人1人に広く保険が普及している状況とは言い切れず、引き続き今後の成長の余地は大きいと考えられる。
(図表15)GDP に占める生命保険料収入の割合/(図表16)1 人当たりの生命保険料収入
 
5 拙著「中国生保市場、世界2位に」、保険・年金フォーカス【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(32)、2018年8月21日
 

10-おわりに

10-おわりに

2017年は、監督当局トップの更迭や保険会社トップの拘束など、2015年以降顕在化してきた問題に向けた健全化対策が強力に推し進められた。そのような中でも、保険本来の役割を果たすべく、保障性、貯蓄性商品の販売が奨励され、市場の成長は引き続き堅調であった。

一方で、新たな動きも見られた。プラットフォーマーであるアリババが生保分野に進出し、生保相互会社が誕生した。ネットを通じた相互保険商品の提供に加えて、アリババ経済圏内で活用されているポイントを保障コスト(保険料に相当)に充当できる保障プランを開発し、ネット決済のアリペイを通じて爆発的に普及させた。このような新たな保障のあり方は、既存の保険会社による従来型の保障のあり方を改めて問い直す事態となった。

プラットフォーマーによる保険分野への進出は世界的にも注目をされているが、中国の国内市場においてはそれが急速に進んでいる。2017年は、収入保険料の規模が世界第2位になるなど、世界の成長に貢献したことで、プレゼンスが更に向上した。今後は、プラットフォーマー系の保険会社がどのような成長の軌跡を見せるのか、既存の保険会社との競合や規制はどうなるのかなど、中国の生保市場が世界における一つの実験場として、その役割を果たす可能性もある。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2019年01月15日「保険・年金フォーカス」)

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【中国の生命保険市場(2017年版)基礎データ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(35)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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