2018年11月28日

テキストマイニングを用いて景況を把握する

水野 友理那

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1――活用が進むテキストマイニング

ここのところ、国内において、テキストマイニングを利用した商品やサービスを目にすることが多くなった(図表1)。テキストマイニングとは、文章からなるデジタルデータ(以下、テキスト情報)の分析を行うことである。テキスト情報を名詞や動詞などの単語に分け、単語の出現頻度や出現パターンの分析などにより、目的とする情報を取り出す方法だ。コンピューター等の力を借りることで、人が読み込むことが不可能なほど膨大なテキスト情報を分析することが可能となっている。
図表1:テキストマイニングが利用される商品やサービスの例
1多情報社会では、情報の集約に価値がある
近年、手軽に膨大な情報を得られるようになった。日本全国で発行される新聞はおよそ100紙1あり、一般雑誌は週刊・月刊合わせて1,000誌2程もある。さらに、インターネットを介して発信される情報も増えた。総務省「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査」によると、インターネットオリジナルのテキスト情報の量3は、2011年は982億頁(B5版換算)だったが、2016年には1301億頁と30%も増加した。

実際に、全てのテキスト情報を読む人はいない。従来から、人はそれぞれ工夫を凝らし、効率的な情報収集を試みてきた。新聞を読む際は先に見出しに目を通すなど、各人が必要な情報を選択している。最近では、自分の関心に沿うニュースを日々届けてくれるキュレーションメディアなどのサービスや、ニュースを要約するサイトもある。情報が多い現代では、必要な情報の選別や集約は非常に重要である。
 
1 日本新聞協会会員社により発行される新聞の総数(2018年11月時点)
2 日本雑誌協会会員社により発行される雑誌の総数(2018年11月時点)
3 メールマガジン、広告、ブログ、SNSなどの合計値
2膨大な文章の分析を可能にするテキストマイニング
しかし、各人の判断で選別すると、自分が興味を持つ断片的な情報のみを集めることとなり、網羅性に欠ける恐れがある。その結果として、特定の意見への偏重などが危惧される。そこで、網羅性を確保しつつ効率的に情報を集約するために、テキストマイニングが使われてきている。

例えば、図表1に示した2社の例では、アクティブファンドの運用戦略にテキストマイニングを利用している。通常、アクティブファンドの多くは、投資対象銘柄を選択する際に、アナリストによる業績予想を参考にする。アナリストが分析する対象は、株価・財務データなどの定量データに加え、有価証券報告書やニュースなどのテキスト情報など、あらゆる情報だ。定量データを分析することは、コンピューターの性能が高くなった現代ではさほど大きな負荷にならないが、テキスト情報の分析は容易ではない。東証一部上場銘柄だけでも2,000企業程度もある。各企業が公表するテキスト情報の全てをアナリストが読んで評価するには限界があることから、全ての上場企業を分析することはできない。一方、テキストマイニングを利用すれば、テキスト情報の分析負荷が軽減される。分析可能な企業を増やすことによって、収益獲得機会の拡大に繋がる。このように、膨大なテキスト情報を取り扱う場合は、テキストマイニングが有効であると言えるだろう。

この他、マーケティング分析・商品開発の分野でも、テキストマイニングは利用されている。これまでにも、自由記述形式のアンケート調査を分析する際に使われていたが、ソーシャルメディアの普及により注目度はより高まった。膨大な情報が発信され続けるソーシャルメディアには、企業・商品に対する消費者のリアルタイムな評価が含まれる。アンケートを実施しなくとも、ソーシャルメディアから消費者のニーズなどを効率的に得ることができる。加えて、リアルタイムであることも利点だ。
 

2――エコノミストが注目する景況下方要因とは何か

2――エコノミストが注目する景況下方要因とは何か

上記のように、テキストマイニングは、業務効率の向上や付加価値の創出に活用されている。そこで、テキストマイニングを用いて、数多く公表されるテキスト情報の中から、実際に注目トピックスを抽出してみたい。本稿では、注目トピックスを、景況見通しの下方要因として多くの有識者が注目していたと推測される単語とし、具体的な分析の手順、抽出結果を示す。最後に、テキストマイニングを利用する際の留意点について、分析者の立場から意見を述べたい。

分析手法の検討にあたり、複数のテキスト情報から情報を取り出す際に、人が行う通常の工程を再現することに重きを置いた(図表2)。初めに、エコノミスト等が景況の見通しについて言及するレポートを選定する。その中から、景況への下方要因が記述された文(以下、懸念文)を抽出する。懸念文の中から、他の月より注目を多く集めた単語を各月の注目トピックスとして抽出する。
図表2:分析手法の手順
1分析手法
(1) レポートの選定
ポートの選定にあたり、日本経済の見通しに言及されていること、定期刊行されていること、表現が明瞭であること、公表主体の網羅性(異なる金融系列や業態)を重視した。金融商品の販売促進を目的としたものや、ファイルが保護されており文章を抽出できないものなどは排除した。その結果、6団体から、1998年2月~2018年8月までのレポート826本を選定した。

(2) 懸念文の抽出
記(1)で選定したレポートの全文から、懸念文を抽出した。将来の景況下方要因について言及している文を懸念文とし、2つの条件を設定した。1つ目は、「懸念を表す単語」が入る文であることだ。「懸念を表す単語」として、「懸念」「リスク」「可能性」「不安」など、計28単語を筆者の主観により選定した。2つ目の条件は、過去を表す助動詞が、文の後半に混じっていないこととした。結果として、懸念文総数は、11,524文となった。

(3) 注目トピックスの抽出(テキストマイニング)
懸念文を分析し、以下(ア)~(ウ)の手順で注目トピックスを抽出した。注目トピックスは具体的に、他の月と比較して「頻出度」が高い単語を想定している。
(ア) 分析しやすい形式(単語の羅列)への変換
テキストマイニングでは、単語の出現傾向を分析する。まず、文章中の単語の品詞を識別し、単語ごとに区切る(文章の分割)。ただし、「文章の分割」だけでは、同じ事柄を指し示す単語や書式など、書き手の表現方法の違いを調整できず、注目度の評価(「頻出度」のカウント)に支障をきたすため、「単語の統一」「助詞・記号の削除」なども行った(具体的には図表3に示す)。このように、文章を「単語の羅列」に変換した。変換前後の具体例は、以下の通りだ。

変換前:トランプ大統領の発言を受け、為替市場は
変換後:米国大統領 / 発言/ 受ける / 為替市場
図表3:分析しやすい形式への変換
(イ) テキスト情報を数値化
次に、注目トピックスとして抽出する単語を絞り、「単語の羅列」をもとに、抽出した単語に対して「頻出度」を計算する。懸念文に含まれる単語は、名詞と動詞に限定しても5,000単語以上あり、下方要因に結びつけにくい単語の抽出やシステム負荷の増大などの不都合が生じるため、頻出度を算出する単語は300単語ほどに絞った。頻出度は、懸念文として抽出される文章数に対する、各単語が使用される数の割合とし、各月において相対的に多く使用される単語ほど高くなるようにした。各月の懸念文の数に月ごとの違いがあり、同月内の他の単語と、また、他の月の同単語とも公平に比較可能となるように補正する必要があるからだ。
(ウ) 数値情報の分析
頻出度の平均値やそのばらつきを参考に、他の月に比べて頻出度が異常に高い単語を注目トピックスとして抽出した。各月を代表する単語を人が判別する際、過去の記事で言及されていなかった単語ほど、特別視されると考えられるからだ。例えば、「米国」のように毎月のように使われるような単語は注目トピックスとして認識されにくい(図表4)。一方、「増税」は、2014年の消費税を8%に引き上げる前後や、10%引き上げの延期が決定する前の2015・2016年など、特定の時期にのみ頻出度が高く、注目トピックスとして認識される可能性が高い。
図表4:頻出度の推移
2|分析結果
上記の分析手法の結果、筆者の感覚として妥当な単語が各月における注目トピックスに抽出された。抽出された注目トピックの例として、図表5に2016年11月の結果を示す。「大統領選挙」が突出した注目トピックスとして抽出された。同月は、トランプ大統領が当選確実となった月であり、過去の事実と違和感のない妥当な結果が得られた。

「大統領選挙」の頻出度は2012年前後にも抽出されたが(図表6)、2012年はオバマ大統領2期選にあたる。2016年11月の「大統領選挙」の頻出度は、2012年の4倍程度を示しており、トランプ大統領への関心が異常に高かったことがうかがわれる。 
図表5:2016年11月の注目トピックス/図表6:「大統領選挙」の頻出度の推移

3――留意点と今後について

3――留意点と今後について

テキストマイニングは、膨大なテキスト情報を分析する際に有用であると述べた。しかしながら、テキストマイニングを利用する際の留意点を3点挙げる。まず、分析対象とするテキスト情報を適切な量だけ入手できるかどうかだ。テキストマイニングでは単語を統計的に処理するため、適切な分析には相応の量が必要である。2つ目は、意図する目的に対して、膨大なテキスト情報を分析することが効率的かどうかだ。例えば、辞書に収録されている単語の意味を知りたい場合は、わざわざ膨大なテキスト情報を分析するまでもない。3つ目は、目的に則した分析手法の検討に、相当の時間がかかる点だ。分析結果が何を示すかは、「分析対象とする文章の選定」と「数値情報の分析方法」に依存するため、意図する目的に合致する結果が得られるか、検証を重ねる必要がある。これら多くの労力をかけても、それに値する効果が見込めれば、テキストマイニングは目的を達成するための有効な手段となる。

最後に、上記の観点から、本稿の分析手法における今後に向けた改善点を述べる。アナリストが言及する景況への下方要因の抽出という目的に照らし、「分析対象とする文章の選定」をより適切なものにするための改善点は2点ある。1点目は、分析対象とする専門家のレポートの拡張である。異なる書き手の文章を多く分析するほど、下方要因を網羅的に分析でき、「総意」としての精度が高まることが期待される。2点目は、懸念文抽出方法の高度化である。その手段として、今回は筆者の主観で選んだ「懸念を表す単語」のより合理的な選定などが挙げられる。また、「数値情報の分析方法」をより高度化することで、分析結果が示す意味は変わる。例えば、単語同士の関係性を定量的に分析することで、景況の下方要因となりうる事象の因果関係の構造化が可能となるかもしれない。今後、より高度な分析を試みていきたい。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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(2018年11月28日「基礎研レポート」)

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