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- 中国経済の見通し-さらに減速し6%台前半へ、不良債権問題への波及や企業家精神への打撃に要注意
2018年11月22日
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4.輸出の動向

一方、輸入額(ドルベース)の推移を見ると、18年1-10月期は前年比20.3%増と、輸出を大きく上回る伸びとなった(図表-10)。地域別では、新興国や資源国からの輸入が好調で、ASEANからの輸入は同20.3%増、ブラジルからは同28.6%増、ロシアからは同44.0%増などとなっている。また、EUからの輸入は同14.1%増、日本からも同12.4%増と二桁増を維持したが、米中貿易戦争で関税引き上げ合戦が続いた米国からの輸入は同8.5%増と一桁台の伸びに留まり、9月以降は前年割れとなっている。その結果、輸出額から輸入額を差し引いた貿易黒字は2542億ドルと前年同期の3273億ドルを22.3%下回り、経済成長率を押し下げる要因となった(図表-11)。
今後を考えると、米中貿易戦争を背景に、製造コストが上昇した中国国内から後発新興国へ製造拠点を移す動きが増える可能性があることから、輸出の伸びは鈍化するだろう。先行指標となる新規輸出受注は既に低下し始めている(図表-12)。一方、輸入に関しては、ここもとのエネルギー価格下落で伸びは鈍化しそうだが、習近平国家主席が博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで「輸入を主体的に拡大」する方針を示し、11月には食品や機械など1585品目の輸入関税を引き下げたのに加え、国際輸入博覧会を開催するなど輸入を促進しているため、輸入は輸出を上回る伸びを示すだろう。純輸出は引き続き経済成長の足かせになると見られる。
今後を考えると、米中貿易戦争を背景に、製造コストが上昇した中国国内から後発新興国へ製造拠点を移す動きが増える可能性があることから、輸出の伸びは鈍化するだろう。先行指標となる新規輸出受注は既に低下し始めている(図表-12)。一方、輸入に関しては、ここもとのエネルギー価格下落で伸びは鈍化しそうだが、習近平国家主席が博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで「輸入を主体的に拡大」する方針を示し、11月には食品や機械など1585品目の輸入関税を引き下げたのに加え、国際輸入博覧会を開催するなど輸入を促進しているため、輸入は輸出を上回る伸びを示すだろう。純輸出は引き続き経済成長の足かせになると見られる。
5.中国経済の見通し

18年の成長率は前年比6.5%増、19年は同6.3%増、20年は同6.2%増と減速傾向と見ている。個人消費は、米中貿易戦争による株価下落で自動車販売が落ち込むなど不安材料もあるが、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費需要を喚起する流れは続いており、乗用車はまだ普及途上の段階にあるため、比較的高い伸びを維持すると予想している。投資は、米中貿易戦争に伴う先行き不透明感がマイナス要因となるものの、中国政府が景気テコ入れに動き出したため、債務圧縮(デレバレッジ)の圧力は若干弱まり、インフラ投資の持ち直しで底割れは回避できると予想する。また、米中貿易戦争に伴う製造拠点の海外流出で輸出の伸びが鈍化する一方、輸入は中国政府の輸入拡大方針を背景に輸出を上回る伸びを示すと見られるため、引き続き純輸出が経済成長の足かせになると見られる。なお、18年の消費者物価は前年比2.2%上昇、19年は同2.5%上昇、20年は同2.3%上昇と予想している(図表-13)。

中国経済を見通す上では、引き続き米中貿易戦争が最大のリスク要因だ。米中貿易戦争が深刻化すればさまざまな面から経済に悪影響が及ぶ。直接的な影響としては対米輸出の鈍化が挙げられる。米中貿易戦争は関税引き上げ合戦の様相を呈しており、米国で中国品が値上がりすることにより競争力を失えば、対米輸出に表れる。また、米中貿易戦争で対米輸出拠点が中国以外へ流出すれば、中国では設備稼働率が低下し経営不振企業が増えて、不良債権問題に波及する恐れがある(図表-14)。
それ以上に、筆者が心配するのは、中国でイノベーションを起こし始めた企業家精神(アントレプレナーシップ)への打撃である。中国では「中国製造2025」や「インターネット+」を合言葉に、北京、上海、深圳、杭州などではスタートアップ企業を育てる土壌が出来上がりつつある。そのカギを握るのが米国など先進国とのヒト、モノ、カネ、情報の交流だ。米中貿易戦争でその交流が遮断されるような事態に至ると、芽生え始めたイノベーションの勢いを削ぐことにもなりかねない。中国人民銀行が発表した企業家信頼感指数を見ると、15年の株価急落時に落ち込んだあと回復していたが、2年半ぶりに悪化に転じた。「中国製造2025」や「インターネット+」関連の投資が、ここもと中国経済の新たな牽引役に育ちつつあるだけに、企業マインドの動向は要注意である。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年11月22日「Weekly エコノミスト・レター」)
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