2018年11月22日

中国経済の見通し-さらに減速し6%台前半へ、不良債権問題への波及や企業家精神への打撃に要注意

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)実質成長率と消費者物価 中国経済の成長鈍化が鮮明になってきた。中国国家統計局が10月19日に公表した18年第3四半期(7-9月期)の経済成長率は実質で前年比6.5%増と、第2四半期(4-6月期)の同6.7%増を0.2ポイント下回り、2四半期連続の減速となった。一方、消費者物価は概ね安定しており、第3四半期は前年比2.3%上昇と、18年の抑制目標「3%前後」を下回る水準で推移している(図表-1)。
GDPを産業別に見ると、第1次産業は同3.6%増と前四半期(同3.2%増)を上回り、第3次産業も同7.9%増と前四半期(同7.8%増)をやや上回ったものの、第2次産業が同5.3%増と前四半期(同6.0%増)を大きく下回った。工業が同6.4%増から同5.9%増へ0.5ポイント低下したのに加えて、建築業も同4.0%増から同2.5%増へ1.5ポイント低下することとなった。

また、製造業PMIを見ると、10月は50.2%と拡張・収縮の境界線となる50%を27ヵ月連続で上回ったものの、18年5月の51.9%を直近ピークに低下傾向にあり、製造業の勢いには陰りが見られる。他方、非製造業PMI(商務活動指数)は、10月は53.9%と9月の54.9%を1.0ポイント下回ったものの、境界線を大きく上回る水準にあり、同予想指数も60.6%と高水準を維持していることから、非製造業は概ね堅調といえるだろう(図表-2)。

一方、18年1-10月期の工業生産の内訳を見ると、構造不況産業が持ち直した一方、新興産業の勢いには陰りが見られる。構造不況業種では、石炭が前年比5.4%増、粗鋼が同6.4%増、セメントが同2.6%増と、低水準ながらも昨年の伸びを上回るものが目立つ。一方、中国経済の新たな牽引役と期待される産業では、集積回路が前年比9.8%増、工業ロボットが同8.7%増と高水準の伸びを維持しているものの勢いは鈍化しており、携帯電話は同4.0%減、自動車は同0.4%減と前年割れとなっている(図表-3)。米中貿易戦争に伴う企業マインドの悪化が懸念される。
(図表-2)製造業と非製造業のPMI/(図表-3)構造不況産業と新興産業の生産

2.消費の動向

2.消費の動向

消費の伸びは減速した。消費の代表指標である小売売上高を見ると、18年1-10月期は前年比9.2%増と17年通期の同10.2%増を1.0ポイント下回った(図表-4)。内訳を見ると、住宅バブル抑制策による住宅販売低迷を背景に家具類が同10.1%増、家電類が同7.8%増と17年通期の伸び率を下回った。また、自動車も小型車減税撤廃の影響や米中貿易戦争で株価が下落したことなどから同0.6%減と前年割れとなった。一方、電子商取引(EC)は、その勢いはやや鈍ったものの、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)などプラットフォーマーが新たな消費を生み出す流れは続いており同25.5%増の高い伸びを維持、小売売上高に占めるシェアは約2割に達した(図表-5)。
(図表-4)小売売上高の推移/(図表-5)業種別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き
今後の消費は、不安材料はあるものの比較的高い伸びを維持すると予想する。住宅バブル抑制策の影響で18年1-10月期の分譲住宅販売(面積)は前年比2.8%増と低迷、米中貿易戦争が激化したことで株価が下落したことを背景に消費者信頼感指数が低下(図表-6)、自動車の販売にも悪影響が及んだ。しかし、中間所得層の増加に伴い、消費は生活必需品からサービスへシフトしつつあり、ネット販売化が新たな消費を喚起する流れは健在だ。また、乗用車の普及状況を見ると、都市部でも100戸当たり37.5台とまだ普及途上の段階にあるため、前年割れが続くとは考えにくい。また、失業率や求人倍率を見ても、今のところ雇用不安に陥るような状況ではない(図表-7)。
(図表-6)消費者信頼感指数/(図表-7)雇用関連指標

3.投資の動向

3.投資の動向

投資の伸びも減速した。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、18年1-10月期は前年比5.7%増と17年通期の同7.2%増を1.5ポイント下回った(図表-8)。投資が減速した背景には中国政府が「金融リスクの確実な防止・解消」のために債務圧縮(デレバレッジ)を進めたことがある。特に、シャドーバンキング(委託融資や信託融資など)の伸びが急減速している(図表-9)。そして、インフラ投資は同3.7%増と17年通期の同19.0%増から伸びが鈍化し、投資を下押しする要因となった。また、自動車関連の投資も販売不振を背景に低迷、前年比3.2%増と17年通期の同10.2%増から伸びが鈍化した。

一方、18年1-10月期に投資を下支えしたのは、製造業では鉄精錬加工やコンピュータ・通信機器等、サービス業では文化・体育・娯楽や不動産業などだった。鉄精錬加工は前年比16.1%増と高い伸びを回復した。過剰生産設備を抱える鉄精錬加工の回復には違和感もあるが、環境対策関連の投資が加速したものと見られる。また、「中国製造2025」関連のコンピュータ・通信機器等も同19.5%増と高い伸びを維持、消費主導への構造転換が追い風となっている文化・体育・娯楽も同19.2%増と高い伸びを示し、不動産業も同8.1%増と17年通期の同3.6%増を上回る伸びを示した。
(図表-8)固定資産投資(除く農家の投資)の推移/(図表-9)社会融資総量の推移
今後の投資は、米中貿易戦争に伴う先行き不透明感が足かせとなるものの、インフラ投資の持ち直しで底割れは回避できると予想している。中国政府は既に景気テコ入れに動いており、8月には地方政府に対してレベニュー債の前倒し発行を指示、地方債発行は8月に8830億元、9月に7485億元と前年の2倍前後に急増した。また、中国人民銀行が金融政策を緩和気味に調整したことを背景に、銀行融資は13%台の伸びを回復、今後はデレバレッジの圧力が若干弱まり、インフラ投資は持ち直すと見ている。ただし、米中貿易戦争に伴う先行き不透明感を背景に企業マインドには陰りが見え始めており、さらに企業マインドが冷えると危険領域に入る。

なお、投資が底割れしそうになれば、官民連携(PPP)プロジェクトを推進し失速を回避するだろう。中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)1」に伴う交通物流関連の需要が大きく、11.8兆元(約200兆円)とされるPPPを前倒し執行するだろう。
 
1 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。
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三尾 幸吉郎

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