2018年11月07日

人口動態から考える今後の新規住宅着工について-都道府県別にみた住宅着工床面積の長期予測

基礎研REPORT(冊子版)11月号

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1―はじめに

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」によれば、2030 年以降、全都道府県で総人口の減少が始まり、本格的な人口減少局面を迎える。また、老年人口比率(65歳以上人口の占める割合)は、2015年の26.6%から、2035年に32.8%へ上昇し、約3人に1人が高齢者となる。
 
住宅供給やまちづくりを中長期な視点で考えるにあたり、人口減少と高齢化の進展は無視できない問題である。
 
そこで、本稿では、人口動態と新設住宅着工床面積に関する計量分析に基づき、人口減少・高齢化が新規の住宅供給量に及ぼす影響を考察したい。

2―住宅着工床面積の長期予測

1|予測方法

本章では、人口動態と新規住宅供給の関係について計量分析を行った上で、国立社会保障・人口問題研究所の人口予測に基づき、住宅供給量(都道府県別)を予測する。
 
具体的には、被説明変数に「新設住宅着工床面積(都道府県別)」、説明変数に人口規模を表す「総人口」と、人口構造を表す「従属人口指数」を採用し、回帰分析(パネルデータ分析)を行い、人口動態が新規の住宅供給量に及ぶ影響を推定する。その上で、人口予測に基づき、2035年までの新設住宅着工床面積を予測する。
 
説明変数に採用した「総人口」は、総務省「国勢調査」では直近の2015年調査で減少に転じた。今後も減少は継続し、2035年には約1億1500万人(2015年対比▲9%)へ減少する見通しである[図表1]。
 
また、「従属人口指数」とは、生産年齢(15~64歳)人口100人で、年少者(0~14歳)と高齢者(65歳以上)を何人支えているのかを示す指数である。
 
一般的に、「従属人口指数」が低下する局面は、全人口に占める生産年齢人口の割合が高まり、人口構造が経済にプラスに作用する(「人口ボーナス」と呼ぶ)。
 
反対に、「従属人口指数」が上昇する局面は、生産年齢人口の割合が低下し、人口構造が経済にマイナスに作用する(「人口オーナス」と呼ぶ)。先行研究では、「従属人口指数」は、住宅供給量と強い負の相関関係があると指摘されている。

図表2は、従属人口指数(全国)の推移を示したものである。1990年の年少人口は約2,300万人、生産年齢人口は約8,600万人、老年人口は約1,500万人であり、「従属人口指数」は43.5であった。
従属人口指数の推移
1990年以降は、生産年齢人口の減少と老年人口の急激な増加に伴い、「従属人口指数」は上昇し続けている。2015年の「従属人口指数」は64.5となった(年少人口;約1,600万人、生産年齢人口;約7,700万人、老年人口;約3,400万人)。
 
さらに、2035年には、年少人口は約1,200万人、生産年齢人口は約6,500万人、老年人口は約3,800万人となり、「従属人口指数」は過去最高水準の77.3に達する。今後も「人口オーナス」の状況が継続すると見込まれている。
 
2|予測結果

前項のパネルデータ分析により、「総人口」が1%上昇すると「新設住宅着工床面積」は約0.3%増加、「従属人口指数」が1増加すると、「新設住宅着工床面積」は約2.8%減少することが分かった。

分析結果に基づく新設住宅着工床面積の予測結果を図表3(全国)、図表4(都道府県別)に示した。

新設住宅着工床面積(全国)は、「総人口」の減少および「従属人口指数」の上昇に伴い、2017年の約7,800万㎡ から2035年には約5,500万㎡(2017年対比▲29%)まで減少する見通しである。過去最高水準であった1996年の着工床面積(約15,800万㎡)に対して約3分の1の水準まで減少する[図表3]。

また、地方毎に予測結果をみると、最も減少率が大きかったのは、東北地方で、新設住宅着工床面積は、2017年の約550万㎡から2035年には約290万㎡(2017年対比▲47.9%)まで減少する。最も減少率の小さい中国地方でも、2017年の約410万㎡から2035年には約320万㎡(2017年対比▲20.1%)となり、大きく減少する。
 
都道府県別の予測結果では、青森県・秋田県・福島県・山梨県では、新設住宅着工床面積が対2017年比で50%以上減少する見通しとなった[図表4]。
上記の県では、「総人口」は2017年対比で15%以上減少し、「従属人口指数」が20以上上昇して90を上回る[図表5]。
人口減少および高齢化が急速に進むことで、新設住宅着工床面積が大幅に減少する見通しである。
 
また、最も減少率が小さい東京都でも、2017年対比で16%減少するように、新設住宅市場の縮小が全国レベルで進行する可能性が高い。

3―おわりに

本稿の予測結果から、2035年の新設住宅着工床面積(全国)は、現在の7割程度の水準まで減少し、一部の都道府県では、半分以下の水準まで落ち込む可能性があることが示された。今後の経済環境等に影響される部分があるものの、人口減少・高齢化に伴い、新築住宅市場が大幅に縮小することは免れないものと考えられる。
 
このような状況下で、中古住宅市場や修繕・リフォーム市場を整備・活性化させる動きが始まっている。国土交通省「未来投資戦略2017年」では、「既存住宅流通・リフォーム市場を中心とした住宅市場の活性化」を取り上げており、2025 年までに既存住宅流通の市場規模を8兆円、リフォームの市場規模を12兆円に倍増することを目指している。
 
今後、新築住宅市場の縮小や政策の後押しを受けて、中古住宅流通事業や修繕・リフォーム事業に企業活動の軸をシフトする不動産・建設事業者が増えると思われる。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2018年11月07日「基礎研マンスリー」)

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