2018年11月05日

英国におけるソルベンシーII規制を巡る最近の動向-PRA(健全性規制機構)による各種対応-

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内部モデルのアウトプット報告の更新
PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:内部モデルアウトプット報告の更新」についての政策声明PS24/1815、及び監督声明SS25/1516を公表した。

この更新は、会社の全体的な報告負担を軽減し、関連するテンプレートの完成をさらに明確にするために行われる。これにより、例えば、損害保険会社がもはやIM.02に関するカウンターパーティ情報を提出する予定がないことを反映するためにパラグラフ2.5を修正するように更新された。さらに、テンプレートとLOGファイルへのリンクが更新され、「規制報告-保険部門」ページで利用可能になった。

この取扱は、2018年12月31日から有効となる。
|内部モデル-評価、モデル変更及び非常勤取締役の役割
PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:内部モデル - 評価、モデル変更、非常勤取締役の役割」についての監督声明17/1617を公表した。

これは、先のマッチング調整のモデル化や内部モデルの更新に関する政策声明の公表を受けて、モデル変更プロセスに関する会社の期待を反映するように更新された。

具体的には、以下の分野での期待が示されている。

・内部モデルの申請
・信用リスクの評価
・保険料引当金の変動性の取扱
・ボラティリティ調整に対するストレスの影響
・非常勤取締役の役割
・モデル正当化と検証、取締役会の役割
・モデルを承認する際のPRAの定量分析の使用
・範囲、識別と分類、ガバナンスと内部モデル変更の報告
 
17 https://www.bankofengland.co.uk/prudential-regulation/publication/2016/solvency2-internal-models-assessment-model-change-and-the-role-of-non-executive-directors-ss
https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/prudential-regulation/supervisory-statement/2018/ss1716update2.pdf?la=en&hash=473EDCCB7C5A30A13777BE8275B865EE520423F0
ORSAと終局タイムホライズン-損害保険会社
PRAは、10月17日に「ソルベンシーII:ORSAと終局タイムホライゾン-損害保険会社」についての監督声明SS26/1518を公表した。

この監督声明は、損害保険会社のビジネスが長期的かつ短期的に曝される可能性のある全てのリスクを特定し管理するためのPRAの期待を示している。これにより、会社は、今後12ヶ月間にわたって引受け予定の契約の引受けを中止することを決定する事象においても保険契約者に対する義務を果たし、ストレスのある条件下でそれらの義務を満たすことができる能力を評価することができる。
10リスクマージン
PRAのSam Woods副長官は、6月4日にNicky Morgan下院財務委員会委員長宛にレター19を送付して、EUとの将来の関係に関する継続的な不確実性により、リスクマージンの改革に関する検討を一時停止する、と述べた。

このレターの中で、Woods氏は、まずは、現在のリスクマージンの設計が問題であることと、それが「オフショア再保ストックの積増し」という「意図しない結果」を生んでいる、との課題意識を示した。そして、「無制限のまま放置しておけば、重要な健全性の懸念となる。」とした。ただし、「当社の再保険業務の監督上のレビューは、再保険が行われている方法についての重要な即時の懸念をもたらしていない。同様に、ソルベンシーIIが毎年の価格を通じて、保険契約者に有害な影響を及ぼしているとは見られない。」と述べた。

そして、「リスクマージンの計算を含む多くの関係において、将来のリスク軽減及び移転メカニズムの使用に対する監督上のアプローチを検討してきた。」とし、「このオプションを非常に慎重に検討し、リスクマージンの原因となっている問題の解決策としていくつかメリットがある」とした。しかし、「金融サービスに関連するEUとの今後の関係に関する継続的な不確実性との関連で、会社が価格、資本計画や再保険の使用に頼ることができる十分な確信を持った変更を実行する耐久性のある方法はまだ見当たらない。」と述べた。  

4―PRA生命保険・年金リスク部門ヘッドから保険会社のチーフ・アクチュアリー宛のレター

4―PRA生命保険・年金リスク部門ヘッドから保険会社のチーフ・アクチュアリー宛のレター

PRAの生命保険・年金リスク部門ヘッドであるSid Malik氏は、7月13日に、保険会社のチーフ・アクチュアリー宛に「ソルベンシーII:2年半(Solvency II: Two and a half years on)」とのレター20を送付した。これは、PRAとチーフ・アクチュアリーとの継続的な対話の一環であるとしている。

この章では、このレターの内容について報告する。
|このレターの位置付け
生命保険会社のチーフ・アクチュアリー宛のこのレターは、PRAとチーフ・アクチュアリー・コミュニティとの間の継続的な対話の一部であり、このレターを取締役会や他の人と適切に共有することを推奨する、としている。

このレターの目的については、「ソルベンシーII体制下でのPRAの規制活動から得られた知見及び観察の一部を共有し、当時のPRAが発表した期待の一部を再掲すること」としている。

|このレターの概要
このレターでは、マッチング調整(MA)に重点が置かれているが、これが会社にもたらす重要なベネフィットを考慮すると驚くべきことではない、としている。これは、申請プロセスを効率化し、内部モデルの資本モデリングを向上させるために、さらに埋め込み(embedding)が必要な領域と考えられる、としている。内部モデルは、特に、長寿リスク、信用リスク及び依存関係モデリングの分野において注目を集めている。会社の内部モデル申請の評価の効率は、申請の品質、モデルの検証及び内部モデルの文書に依存している。

なお、PRAは、ユニット・リンク商品の技術的準備金を計算するための予測期間と、リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA) におけるストレステストに対する会社のアプローチに関する主たるテーマのレビューからの観測を含む、ソルベンシーIIが導入した規制要件の他の側面についても検討している。

さらに、「チーフ・アクチュアリーの役割は、シニア・インシュランス・マネジャー・レジーム(SIMR)内のシニア・インシュランス・マネジメント機能である」と述べている。

|このレターの具体的内容
ここでは、レターの具体的内容について報告する。

このレターにより、監督当局がマッチング調整や内部モデルのモデリング等に関して、どのような問題意識を有しており、保険会社のチーフ・アクチュアリーに対して何を期待しているのかを窺い知ることができる。

例えば、会社やチーフ・アクチュアリーに対して推奨すべき点として、以下のような項目が挙げられている。

技術的準備金におけるマッチング調整における基本スプレッド(FS)に関しては、チーフ・アクチュアリーは、信用資産について集計されたFSの表が、割り当てられたFSセクター及び資産信用度ステップ(credit quality step:CQS)に依存することを認識して、適切なFS、特に会社が保持するリスクを反映するFSが適用されるようにする。

内部モデルにおけるマッチング調整(MAについては、(1)資産サイドのリスクモデリング(2)リバランス(3)妥当性検証、の3点が、改善が最も必要とされる分野である。

内部モデルにおける長寿リスクのモデリングに関しては、最良推定前提における死亡率の改善が鈍化するという証拠に重点が置かれるにつれて、内部モデルの長寿リスク較正が、最良推定前提がより高いレベルの改善に戻る可能性を適切に反映するかどうかを会社が検討する。

内部モデルの依存関係のモデリングについては、相関行列の半正定値(positive semi-definite:PSD)性についてのアルゴリズムやアプローチが、最も重要な相関関係に重大な変化をもたらさないようにするプロセスを確立し、モデル検証に組み込むべきである。

内部モデルの文書化については、具体的な記載項目や考え方を掲げるとともに、読者が使いやすくするための提案も行い、チーフ・アクチュアリーがこれらを念頭において会社の文書化と提出物を審査する。

さらに、ORSAのストレステストへのアプローチソルベンシー及び財務状況報告書(SFCRについてのレビューを踏まえて、会社やチーフ・アクチュアリーに期待すべき内容等を述べている。

(1)技術的準備金におけるマッチング調整(MA
(1-1)MA申請への変更
PRAは、MA申請プロセスを実施技術基準(Implementing Technical Standards:ITS)要件の制約内でより合理化するための選択肢を検討する際に、最近発表された監督声明(SS)7/1821において、PRAのアプローチが、会社がその申請において求めてきている変更に対して、比例的で適切である、と述べている。

特に、PRAは、更新された申請の「クリーン」バージョンと、 MA申請で変更されなかった、追跡された変更の一部として強調表示されないテキストが、静的なままであることの確認書とともに、最新のMA申請への変更が明確に示されている場合の更新されたMA申請を受け入れる、としている。申請が承認された場合、会社は直ちに申請審査プロセスで合意された変更を反映した更新版MA申請書の最終版を提出することにより、プロセスを完了させる。PRAは、提案された変更の概要と、更新されたMA申請への適切な相互参照を会社が提供した場合に役立つことを発見した、としている。

会社は、変更がそのセクションに関係しない既存のMA申請のセクションを更新しないことを提案することができる。例えば、更新されたMA申請が単独で新しい資産クラスを追加する場合の死亡率リスク評価を更新する必要はないかもしれない。PRAは、会社が既存のMA申請を更新しないように提案した場所を明確に設定している場合に役立つことを発見した、としている。

PRAがSS7/1821においても述べているように、PRAによって既存の申請が検討されている間に、追加のMA申請を提出できる状況があるかもしれない。例えば、変更間の依存関係が最小限である場合で、第2の適用の状況は、より迅速な決定が可能であるようなケースである。会社が、申請を行う前に監督チームとケースバイケースで対応する可能性について話し合った場合に役立つ。第2の申請が承認されてから第1の申請が承認されると、会社はこれを反映するように第1の申請を更新する必要がある。
(1-2)基本スプレッド(Fundamental spread:FS
基本スプレッド(FS)に関して、以下のように述べられている。

チーフ・アクチュアリーは、信用資産について集計されたFSの表が、割り当てられたFSセクター及び資産信用度ステップ(CQS)に依存することを認識する。監督声明SS3 / 1722で議論されているように、FS格付けプロセスは外部信用評価機関(ECAI)によって提供された信用格付けを持つ資産に対して比較的規定的であるが、内部格付け資産についてはより多くの判断が必要である。

PRAは、2017年に、会社のMAポートフォリオに関する資産情報を収集するための調査を実施した。このデータを検討する際には、資産がFSセクター(例えば、「金融」)にどのように割り当てられているのか、特に流動性の低い資産クラスについて、MAポートフォリオの様々なアプローチに注目した。チーフ・アクチュアリーは、この任務の意義を理解し、適切なFS、特に会社が保持するリスクを反映するFSが適用されるようにすることを推奨する、としている。

より一般的には、SS3 / 17に記載されているように、内部格付け資産のCQSマッピングに重大な依存が置かれている場合に、チーフ・アクチュアリーとチーフ・リスク・オフィサーは、適切なFSが適用されていることを確認する必要がある。 
(2)内部モデルにおけるMAのモデリング
PRAは以前、ソルベンシーIIの他の要素より後のMAの最終化は、ソルベンシーIIの第1日より前に内部モデルにMAを反映させようとする会社にとって、内部モデル開発の課題を提示したことを認めた。したがって、現在、MAをカバーする内部モデルの使用を承認している数多くの会社にとって、さらなるモデル開発が必要とされているか、又は必要である可能性が高い。他の会社は、初めてMAをカバーするモデルの使用を申請しようとしている。

2017/18の協議の後、会社の内部モデルにおけるMAのモデリングについてSS8 / 18を発表した。 SSは、特にストレス下におけるMAポートフォリオのバランスを取るという点で、新しい材料とともに以前に設定されていた多くの点をまとめた、PRAの会社に対する期待を示している。

PRAはストレス下でのMAのモデリングに伴う課題を認識している。特に、MA計算のポートフォリオレベルの性質、MA適格基準を継続的に満たす必要性、MAポートフォリオに影響を及ぼす可能性のある異なるリスク間の相互作用は、モデルが複雑さと使いやすさのバランスを取る必要があることを意味する。政策声明PS19 / 1823に記載されているように、PRAは会社が不必要に複雑なモデリング手法を開発するように求めているわけではない。しかし、会社が、そのアプローチが事業が実質的に曝されているリスクを適切に把握していることを実証することは不可欠である。SSを支える重要な懸念事項は、特に会社がより広い範囲の資産クラスに投資する場合、会社の既存のアプローチが時間の経過とともにこれを継続し続けるかどうかである。

PRAは、改善が最も必要とされる3つの分野として、以下の3点を挙げている。
1.資産サイドのリスクモデリング
一部の会社は、ストレス時にMAのポートフォリオに含まれる資産を再評価するために使用される方法に注意を払うことなく、MAのストレスを決定することにモデリングの努力を集中してきた。PRAは、会社がストレス下でMA適格基準が引き続き満たされることを保証するためには、資産サイドのリスクの適切なモデリングが不可欠である、と考えている。また、会社が保有する資産のリスクを特定し定量化するのに役立ち、特定のストレスシナリオに耐えるために会社がMAに依存している程度について重要な洞察を与えることができる。
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中村 亮一

研究・専門分野

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