コラム
2018年10月31日

生涯現役社会と働き方改革~求められる政府の積極関与~

経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー   櫨(はじ) 浩一

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1――人手不足の深刻化

9月の失業率は2.3%という低水準となり、求職者と求人との比率である有効求人倍率は1.64倍で1974年1月以来の高水準だった。労働市場の需給は改善を超えて人手不足が深刻化している。

少子化で子供の数が減少してきた日本では、学校を卒業して社会に出ていく若者は減少を続けており、企業が高齢者の退職で生まれる空席を新卒者の採用で埋めようとしても、新卒者の絶対数が足りていない。第二次世界大戦終了直後に生まれた団塊の世代は、2012年には65歳に達して年金生活をする年代に達した。団塊世代の人口は1歳あたり220万人程度で、毎年労働市場に入ってくる20歳程度の人口120万人とは100万人もの差がある。

団塊世代の大波が通り過ぎた後の世代でも毎年65歳に達する人口は150万人を超えており、新たに働きはじめる人達の人口との差は数十万人にのぼるだろう。日本の出生率は下げ止まったとは言っても、ひとりの女性が一生の間に産む子供の数を示す合計特殊出生率は2017年で1.43と、人口が増加も減少もしない水準である2.07を大きく下回っている。子供の数の減少は止まっておらず、高齢で引退する人を新卒者の採用では埋めきれないという構図は今後も長期に続くと見られている。

2――働き方改革の意味

政府が進めてきた働き方改革では、長時間労働の是正に注目が集まっているが、それだけが目的ではない。日本社会の働き方を変えることで、高齢者や女性がもっと活躍できるようにするということにも重要な意味がある。高齢者が働けるようすることは、日本経済が直面している人手不足という問題を緩和すると同時に高齢者に対する所得保障の必要性を縮小させて若い世代の負担を軽減するという一石二鳥の政策だ。多くの高齢者が社会保障を支える側に回るということも加えれば、一石三鳥とも言えるだろう。

日本では、高齢になっても健康な間は働き続けたいと考える人が多いということは良く知られているが、これは高齢化率が他の先進諸国よりはるかに高くなるとされている日本には大きな幸運だ。

2017年の就業者数は6530万人で、ピークだった1997年の6557万人と比べると27万人の減少となっている。これまで就業者の中心だった15~60歳未満の就業者が5680万人から5203万人へと477万人の減少となっている一方、60歳以上の就業者は877万人から1328万人へと451万人も増加した。
増加が続く60歳以上の高年齢就業者 中でも65歳以上の就業者は、469万人から807万人へと338万人も増加している。公的年金が支給されはじめる65歳を超えても働き続けたいと考える人は多いが、1日の勤務時間の調整、午前中か午後の半日だけ働くなどの勤務時間の柔軟性や、週休3日あるいは隔日出勤など勤務日の柔軟性がなければ、働き続けることは難しい。企業が職場での働き方を大幅に改革しなければ、高齢でも働き続けることができる社会の実現はおぼつかない。

3――求められる政府の積極関与

政府は生涯現役社会の実現に向け65歳以上への継続雇用年齢の引上げに向けた検討を開始した。現在の高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの安定した雇用を確保することが義務付けられているが、これをさらに引き上げて行こうという方向で議論が進んでいる模様だ。

働くことには様々な意味があるが、所得を得て自分の生活を支えるという意味合いは年齢が高まるに従って弱まり、社会への貢献や生きがい、健康の維持といった色彩が濃くなる。年齢を加えることで高まる能力もあるが、残念ながら作業速度など様々な能力の低下は避けられない。働き方改革で高齢になっても働ける環境を整備することは企業にとってプラスの面が大きいが、誰もが生涯にわたって働き続けられるようにするということは、採算に縛られる民間企業の活動とは異質の部分が大きくなり、整合性が保てないケースが増えるだろう。

人手不足が深刻となる中で企業側としても年齢に関わらず同じ業務を続けて欲しい人が増えるだろうが、誰もが同じ業務を続けるわけにはいかない。これまで定年年齢の引き上げや高年齢者の雇用確保の義務付けが、高年齢者の就業増加に大きな役割を果たしてきたことは確かだが、年齢によらず一生働き続けられるように適切な仕事を用意するという義務を企業にだけ負わせるのは負担が大き過ぎる。政府がもっと積極的な役割を果たすべきだろう。
 
 

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経済研究部   専務理事 エグゼクティブ・フェロー

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

(2018年10月31日「エコノミストの眼」)

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