2018年09月18日

【アジア・新興国】タイの生命保険市場(2017年版)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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5―会社別の販売動向

会社別に新契約保険料(上位7社、元受ベース)を見ると、Muang Thai Lifeが311億バーツと引き続きトップだったものの、銀行窓販が振るわず前年比8.1%減と落ち込んだ(図表11)。同じく銀行窓販が主力の他のタイ四大銀行グループに属する生保会社を見ると、SCB Life(83億バーツ、同31.8%減)が大幅に減少する一方、Krungthai AXA Life(185億バーツ、同23.6%増)とBangkok Life(119億バーツ、同7.1%増)が好調であり、明暗が分かれた格好だ。外資系生保では、最大手のAIA が259億バーツ(同5.8%増)、Prudential Life が91億バーツ(同17.9%増)と、それぞれ増加した。Thai Lifeは231億バーツ(同1.3%減)と、販売が大きく伸張した前年に対して微減となった。

収入保険料シェア(上位7社)を見ると、最大手のAIAが21.0%を占めて引き続きトップを維持したものの、前年から0.3%ポイント縮小した(図表12)。またAIAと同じくエージェント販売が主力のThai Lifeは13.7%(対前年0.4%ポイント減)、新契約保険料が落ち込んだSCB Lifeは8.2%(対前年1.0%ポイント減)、Bangkok Lifeは7.3%(対前年0.3%ポイント減)と、それぞれシェアを落とした。一方、新契約保険料が大きく伸びたKrungthai AXA Lifeは10.6%となり、前年から0.8%ポイント拡大した。なお、Muang Thai Lifeは17.1%(対前年0.0%ポイント増)の横ばいとなった。
(図表11)会社別の新契約保険料/(図表12)会社別の収入保険料シェア

6―資産運用状況

6―資産運用状況

まず2017年の投資環境を振り返ると、世界経済が好調に推移するなか、国内経済は輸出主導で回復して企業業績が改善、タイの株式市場は上昇傾向が続いた(図表13)。一方、債券市場については、低インフレが持続する中でタイ銀行(中央銀行)が政策金利を1.5%に据え置く低金利政策を継続したことから、タイ10年国債金利は概ね2%台後半の横ばい圏で推移した。米国が段階的な利上げを継続したものの、国際金融市場はリスクオンの局面となったほか、タイが大幅の経常黒字と潤沢な外貨準備を有していることも資本流出を抑制し、金利の低位安定に繋がった。

2017年のタイ生命保険会社の運用資産構成割合を見ると、公共債が61.8%、民間債が20.8%、株式等が11.8%、貸付が4.8%となり、引き続き国債中心の安定運用が行われているものの、引き続き国債から民間債券へのシフトが進んだ。また2017年については、上述のとおり株価上昇と低金利環境の継続を背景に、株式のウェイトが0.8%ポイント上昇した(図表14)。

運用費用を差引いたネットの運用収益は、国債や社債の安定した利息収入を中心に1,114億バーツとなり、前年の1,035億バーツから79億バーツ増加した。
(図表13)タイ株価と10年国債金利の推移/(図表14)資産構成比の推移

7―収支動向

7―収支動向

2017年の生命保険業の収支動向を見ると、資産運用収益が堅調に拡大したものの、保険料等収入が伸び悩んだことから経常収益は前年比5.7%増の6,992億バーツと、3年連続で一桁台の伸びとなった(図表15)。一方、経常費用の伸びは手数料・コミッションが減少したものの、責任準備金等繰入が増加して経常収益の伸びを上回った。以上の結果、経常利益は前年比9.9%減の545億バーツとなり、10年ぶりに減少した。
(図表15)生命保険業の収支動向

8―おわりに

8―おわりに

2017年のタイ生保市場は、収入保険料の伸びが3年連続で勢いを欠いたが、足元では明るい兆しが見られる。2018年も低金利環境は続いているが、国内経済が回復するなかで生命保険の販売は勢いを増してきている。実際、2018年上半期(1~6月)の新契約保険料は前年比8.8%増となり、二桁成長には達しないまでも2017年上半期(同2.3%増)を大きく上回っている。

生保各社は低金利の厳しい事業環境が続くなか、ユニット・リンク保険の販路拡大やコンビニエンスストアやガソリンスタンドで購入できるマイクロ保険(低所得者を対象とした小額で加入できる保険)の発売など市場の裾野を広げている。またデジタル世代の顧客ニーズに対応してネット販売に向けたシンプルな保険商品の開発を進めるなど、新商品・サービスや販売サポートを開発する先進的な取組みを進めている。

さらにタイでは、少子・高齢化と医療費の高額化が進む一方で社会保障制度の整備が遅れており、年金など退職準備関連商品や医療保険のニーズが今後拡大すると見込まれる。従って、タイ経済の成長率は中長期的に緩やかな低下傾向にあるものの、タイ生命保険市場は今後も持続的に拡大するだろう。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2018年09月18日「保険・年金フォーカス」)

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