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ディスクロージャー資料にみる、生命保険会社の健康経営

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――健康経営への意識の高まり
さてここでは、特に生命保険会社の健康経営などへの取り組みを、ディスクロージャー資料をもとに見てみる。
1 「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標
2――生命保険会社と健康経営
そもそも、保険会社の場合、保険引き受けという業務の性格上、「顧客の健康」ということには関心が高いものである。顧客の病気・ケガなどのリスクを、保険料を頂くことで引き受け、決められた保険金・給付金を支払うのがまさに会社としての業務である。従って、さまざまな病気やケガの発生確率やその動向などの状況把握とその調査・研究は、他人に言われなくても当然に行うものである。現在では、従来から主流である死亡保障より医療保険分野が伸びていることもあり、なおさらである。
また、そうした保険を扱う以上、従業員・役員も、顧客にじかに接するか否かにかかわらず、さまざまな場面で健康に対する高い知見を期待されることも多いだろう。
さらには、会社の利益という面から見ても、保険金や給付金の支払いは、できれば少ないほうがよいのだから、保険加入者(および潜在的な顧客)が健康でいられることは、保険会社にとっても望ましいことで、両サイドの利害は一致している。そこで保険会社は、従来から国民全体の健康度合い向上のための、各種社会活動には力を入れてきたところでもある。
さらに近年では、特に医療保険分野で新しい保険商品が続々とでてきているが、ここでその話題に踏み込むと長くなるので、割愛する。現在は「健康増進型保険」、すなわち健康への取り組み(歩く歩数、トレーニングジム通いなど)とか、実際の健康診断数値(BMI、血圧、血糖、コレステロールなど)によって保険料が安くなったり、返戻金があったりするタイプの新商品の発売が相次いでいることだけ触れておこう。
こうして少し見てもわかるように、保険会社は、健康について大きな関心をもつような立場に、必然的にあり続けている。では内部の従業員に対してはどうだろうか?「医者の不養生」という状況になっていなければよいが、それが健康経営につながる。
さて、一方、ディスクロージャーのほうの話になるが、保険会社は、保険業法に従って、毎年、業務・財産の状況に関する、ある程度定められた事項を記載した説明書類を作成し、誰でも見られるように店舗等に備え付けることが定められている。(保険業法第111条 保険業法施行規則第59条など)
これはいわゆる「ディスクロージャー誌」、あるいは「アニュアルレポート」「統合報告書」と呼ばれる冊子である。現在では店舗に行かなくとも、各社のホームページ上で公開されているものを見ることができるようになった(保険業法で言う「電磁的方法」というやり方)。
こうしたディスクロージャーにおいては、財務データ的なものを開示することに重点がおかれていることもあり、毎年の発表時期は、年度決算を受けた株主総会や社員総代会が終わったあと、8~9月になるのが一般的である。
また、ディスクロージャー誌では、公開が義務付けられている必須の財務情報の開示は当然として、この機会を利用して、かなりのページを割いて、会社の経営方針などが詳細に説明されており、保険会社は、各方面(ステークホルダー、すなわち顧客、投資家、地域・社会、従業員などの利害関係者)それぞれに対して、十分な配慮をした経営を行なっていることをアピールしている。
そうした中に、ここ数年、健康経営も登場するようになってきた。
従業員の健康増進というと、業種にかかわらずほぼ各社同じ内容になるのは当然だろうが、重きを置く事項や経営的な位置づけ・認識は、微妙に異なるようでもある。
これには2通りやりかたがあるようで、一つは、大きな経営方針の一項目として掲げられるか、もう一つは、やや具体的に、ステークホルダーとしての従業員に対する取り組みの一環として説明されるか、である。後者の場合には、顧客、株主、従業員などそれぞれに対する政策・配慮が述べられる中で、うち従業員に対する取り組みとして、「人材育成」、「ワークスタイル変革」などと並行して語られることが多いようだ。
健康経営の中身について、具体的に掲げられていることは、各社ごとに表現や重点の置き具合は、異なるとしても、みたところ、ざっと以下のようなものが挙げられる。
- 健康診断受診率(家族含む)の向上と事後措置
- 働き方変革、職場環境改善、労働時間の短縮と適正な勤務管理、通報窓口設置、従業員のストレステストの実施
- 禁煙の推進
- 生活習慣病の予防、運動習慣・食習慣の改善推進、スポーツクラブの利用促進
- メンタルヘルスケアの推進、相談窓口の設置、カウンセリング体制の整備
- AIも含めたシステム開発による、健康管理業務の高度化。そうしたデータの分析による施策の効果検証など
さらに、こうした点に関して、自社内の取り組みにとどまらず、顧客である企業・団体に対して健康経営に関するアドバイスを行う会社もでてきたようである。
さて、こうした従業員などの健康増進への取り組みは、国や地方自治体も勧奨しているので、優良な企業・団体に対する表彰制度などが設けられている。保険会社が近年受けた表彰の主なものを紹介する。
○「健康優良法人」
健康経営優良法人認定制度とは、経済産業省と日本健康会議により2017年から始められたもので、
「地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進への取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度」(経済産業省ホームページ)である。平成30年3月発表の2018年版では大規模法人部門541社、中規模法人部門776社が認定されている。
認定要件としては、経営理念としての「健康宣言」などの社内外への発信、組織としての対応をはじめとして、具体的な制度・施策(健康診断受診率の向上、生活習慣病予防対策、ワークライフバランス、メンタルヘルス対策など等々多くの項目あり)、その効果検証などが設定されている。
生命保険会社では、2018年は15社が認定されている。国内大手グループの会社の多くと、損害保険会社グループの生命保険会社が中心であり、外資系の生命保険会社は一部に限られている。
○「健康経営銘柄」
これも経済産業省の管轄だが、こちらは東京証券取引所と共同で2015年度からはじまったもので、
「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定し公表することで、企業の健康経営の取り組みが株式市場等において、適切に評価される仕組み作りへの取り組み」(経済産業省ホームページ)である。
健康経営が経営理念・方針に位置づけられているか
健康経営に取り組むための組織体制が構築されているか
健康経営に取り組むための制度があり、施策が実行されているか
健康経営の取り組みを評価し、改善に取り組んでいるか
法令を遵守しているか
などの観点から評価が行われる。2018年は26業種から1社ずつが選定され、保険業では東京海上ホールディングスが選定されている。その性格上株式会社に限られ、原則1業種1社のようなので、多くの会社にとって機会は限られているようではある。
○「健康寿命をのばそう!アワード」
これは厚生労働省が表彰するものである。厚生労働省は2011年に、健康寿命の延伸に向け、幅広い企業連携を主体とした取り組みとして、「スマートライフプロジェクト」を開始したのだが、その一環として2013年度に創設された制度である。従業員、住民などに対して、生活習慣病の啓発、健康増進のための優れた取り組みをしている自治体、団体、企業の中から、厚生労働大臣賞(最優秀賞、優秀賞)、厚生労働省・保険局長賞、健康局長賞、老健局長賞など(それぞれ数件程度)を表彰する制度である。現在では3つの分野(生活習慣病予防、介護予防・高齢者生活支援、母子保健)それぞれに分かれ、2017年11月の第6回発表までに、生命保険会社では6社が表彰されている。これはその年に何らか特別に、あるいは新規に取り組んだイベントが表彰されるようで、毎年継続して受賞するものではなさそうである。
3――おわりに
(2018年09月04日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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