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米中デジタル戦争と日本のSociety5.0

総合政策研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
中村 洋介
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1――米中の「デジタル覇権争い」はガチンコ、長期化の様相
米国は、イノベーションの中心シリコンバレーを擁し、アップルやアマゾン等の巨大IT企業を生み育て、「デジタル覇権」を長らく謳歌してきた。しかし、国家資本主義を掲げる中国が、この領域で急速に力をつけ、その覇権に挑んでいる。世界トップ級の製造強国を目指す、産業高度化の長期戦略「中国製造2025」では、次世代ITや産業用ロボット等ハイテク産業を重点分野に指定し、国家を挙げて産業育成に取組んでいる。そして既に、ファーウェイ・ZTEといった通信機器メーカー、アリババ・バイドゥ・テンセントのようなIT企業が大きく成長し、イノベーションを牽引している。また、ユニコーンと呼ばれる革新的な巨大ベンチャーも次々と誕生しているのが現状だ。
そうした中国の台頭に、米国も危機感を募らせている。米国では、中国企業が製造する通信機器がスパイ活動に使われるのではないかという警戒感が非常に強い。通信、データ、半導体、ハイテク機器等を握られてしまうと安全保障に直結する。デジタル覇権を掌握することは、経済だけではなく、安全保障の面でも重要なのだ。米政府や議会が、中国のハイテク企業を締め出すような規制を次々に打ち出している。中国のハイテク企業叩きはトランプ大統領個人に限ったことではない。政府や議会はトランプ大統領以上に本気なのだ。経済、安全保障双方を視野に入れた本気の覇権争いである「米中デジタル戦争」は長期化の様相を呈している。
2――日本、Society5.0は埋没の危機

しかしながら、Society5.0の根幹をなす先端技術の開発・活用では、上述の通り米中が圧倒的な規模、スピード感でイノベーションを進めており、日本は遅れをとっている。AIに関しては、米中が積極的に研究開発を進めている。世界的な学会でも米中の存在感は大きく、日本は後塵を拝している(図表4)。また、知と人材の集積拠点である大学についても、米英が圧倒的に強く、中国も力をつけてきているのが現状だ(図表5)。生産性向上を通じた経済成長、社会課題の解決を目指すSociety5.0だが、現状では非常に困難な道程にあると言っても過言ではない。
3――取組みを加速させる仕組みや、更なる危機感の醸成が必要
悩ましいのは、勝者が全てを総取りするビジネス環境が生まれつつあることだ。デジタル化が進んだ環境では、ネットワーク効果もあって巨大ITプラットフォーマーによる市場の寡占・独占化が進みやすい。海外のプラットフォーマーが一番手となり、国内市場を寡占してしまう可能性もある。
技術革新を生み出し、その果実を社会に実装していくためには、規制緩和、イノベーション推進・支援、教育・大学改革等、国として進めるべき課題が山ほどある。政府や各省庁も、世界的なデジタル化の潮流や日本の置かれた状況等についての認識、及び現在取組んでいる政策の大きな方向性は間違っていないし、経済界も動き出している。技術革新やベンチャーに明るい兆しも見えている。しかし、米中をはじめとした世界のスピード感と比較すると、どうしてもその動きは遅いと言わざるを得ない。スマホ決済を進める上でのQRコード規格の統一化に向けた動きのように、まずは官民横断でタッグを組んで動きを加速させるような仕組みや、それを後押しする制度作りに期待したい。
そして何よりも、そうした取組みを加速させる環境を作る上では、「逆算的なアプローチによる危機意識」、つまり、「この状況を放置したままでは、数年後に日本やその産業は・・・のような苦しい状況に陥ってしまう」といった、「逆算」による危機意識を醸成していくことが重要だ。政府や省庁、一部の企業にはこうしたデジタル化への遅れに対する危機意識は強く認識されているものの、少子高齢化や社会保障といった社会的課題と比較すると、国民的な関心や危機意識はまだまだ薄い。ギアチェンジをする意味でも、広くこの危機意識が醸成され、共有化されていくことが必要だ。
この大きなうねりの中、日本の強みを活かして、日本ならではの成功モデルを創出することが出来るだろうか。今こそ、政官民の総力を結集すべき、大きな勝負どころ。まさに、日本の力が問われている。
(2018年08月21日「基礎研レター」)

中村 洋介
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