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- 中国生保市場、世界2位に【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(32)
2018年08月21日
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                                            2017年、中国の生命保険市場の規模は、米国に次いで世界2位となった1。生保市場はこれまで長らく米国、日本、英国が上位を占めており、中国が3位に浮上したのは2016年である。中国はその翌年(2017年)に日本を抜いたことにより、生保・損保とも世界2位の市場規模となった。
その背景としては、まず、国民の所得が向上する中で資産形成手段として生保への需要が高い点がある。加えて、中国は少子高齢化が急速に進んでおり、国が社会保険の補完として保険商品への加入を奨励し、保険料の税制優遇策を相次いで導入している点も挙げられる。更に、保険会社は保険事業とITの融合を急速に進め、インシュアテックを通じた新たな顧客層の取り込みや、関連のフィンテック事業に進出することで、近年、高い成長を維持してきたことも挙げられる。 
1 生命保険の保険料収入をベースとしたマーケット規模である。本稿では、スイス再保険会社が毎年発行する「Sigma」に基づいている。データの連続性があり、国際比較をする上では重要な指標を示した調査報告書である。
 
            その背景としては、まず、国民の所得が向上する中で資産形成手段として生保への需要が高い点がある。加えて、中国は少子高齢化が急速に進んでおり、国が社会保険の補完として保険商品への加入を奨励し、保険料の税制優遇策を相次いで導入している点も挙げられる。更に、保険会社は保険事業とITの融合を急速に進め、インシュアテックを通じた新たな顧客層の取り込みや、関連のフィンテック事業に進出することで、近年、高い成長を維持してきたことも挙げられる。
1 生命保険の保険料収入をベースとしたマーケット規模である。本稿では、スイス再保険会社が毎年発行する「Sigma」に基づいている。データの連続性があり、国際比較をする上では重要な指標を示した調査報告書である。
1-2017年、世界における生保市場のシェアは12.0%で、2位に
2-生保収入保険料の増加は前年比20%を上回り、他国を凌ぐ高成長を維持
                                                                        中国が急成長している背景には、まず、国民の所得が向上する中で、一定の投資収益への期待や資産形成を目的として、生保商品の需要が大きく増加している点があろう。中国では、養老、年金といった貯蓄性の高い保険が多く販売されている。
また、少子高齢化が急速に進む中国においては、社会保障費が急増しており、社会保障制度によるカバーが追いついていない状況にある。国は早い時期から自助努力による保障を掲げており、医療や年金の社会保険の補完として、保険商品に寄せる期待は日本よりも大きい。例えば、公的医療保険制度は自己負担が重く、医療保険商品による実損填補は国民の負担の軽減に役立っている。医療保険商品は、2016年に個人所得税の保険料控除が導入されており、近年、販売が増加している。加えて、2018年5月には年金保険商品の保険料控除の実験導入を開始するなど、奨励策を相次いで実施している。
 
図表2は、2017年の生命保険料収入シェア上位5カ国について、2014年に遡って増加率の推移を示したものである(現地通貨ベース)。それによると、特に、2015年以降は米国、日本、フランスといった上位国が苦戦する中、中国は20%を上回る高成長を維持している。2017年の世界全体の前年比増加率が2.9%であることを考えると、その勢いがうかがえよう。
            また、少子高齢化が急速に進む中国においては、社会保障費が急増しており、社会保障制度によるカバーが追いついていない状況にある。国は早い時期から自助努力による保障を掲げており、医療や年金の社会保険の補完として、保険商品に寄せる期待は日本よりも大きい。例えば、公的医療保険制度は自己負担が重く、医療保険商品による実損填補は国民の負担の軽減に役立っている。医療保険商品は、2016年に個人所得税の保険料控除が導入されており、近年、販売が増加している。加えて、2018年5月には年金保険商品の保険料控除の実験導入を開始するなど、奨励策を相次いで実施している。
図表2は、2017年の生命保険料収入シェア上位5カ国について、2014年に遡って増加率の推移を示したものである(現地通貨ベース)。それによると、特に、2015年以降は米国、日本、フランスといった上位国が苦戦する中、中国は20%を上回る高成長を維持している。2017年の世界全体の前年比増加率が2.9%であることを考えると、その勢いがうかがえよう。
3-2000年以降、シェアは10ポイント以上上昇、但し世界の市場は多様化へ
                                                                        では、世界におけるシェアはどのように変化をしてきたのか。中国がWTOに加盟する前年の2000年を基点に、その後の世界における各国の生保市場のシェアの推移をみてみる。
次頁図表3は、2017年時点での上位5カ国について、2000年に遡ってシェアの推移を示したものである。中国のシェアは2000年時点では0.8%(世界では第18位)であったが、その後、17年の時間をかけて、シェアを10ポイント以上引き上げたことになる。
一方、2000年時点の上位3カ国(米国、日本、英国)が占めるシェアは全体の67.3%であったが、2017年時点(米国、中国、日本)では44.1%まで縮小しており、近年、新興国マーケットなどを中心に市場の多様化が進んでいることがわかる。
            次頁図表3は、2017年時点での上位5カ国について、2000年に遡ってシェアの推移を示したものである。中国のシェアは2000年時点では0.8%(世界では第18位)であったが、その後、17年の時間をかけて、シェアを10ポイント以上引き上げたことになる。
一方、2000年時点の上位3カ国(米国、日本、英国)が占めるシェアは全体の67.3%であったが、2017年時点(米国、中国、日本)では44.1%まで縮小しており、近年、新興国マーケットなどを中心に市場の多様化が進んでいることがわかる。
4-保険の普及は世界平均以下
5-Fortune Global 500-中国の保険会社7社がランクイン、成長の鍵はITとの融合
                                                                        市場の成長とともに、中国の保険会社の世界におけるプレゼンスも向上している。
米フォーチュン社によるFortune Global 500(売上げベース)では、2017年は米国の132社に次いで、中国が115社を占めた。115社のうち、保険会社が7社となっている(図表6)。
500社全体のうち保険会社をみると、アクサ(25位)、日本郵政(33位)、アリアンツ(34位)が上位3社となっており、中国平安保険(39位)がそれに次いで4番目となった2。中国の保険会社についても、7社のうち5社が2016年より順位を引き上げるなど、成長を続けている。
また、中国平安保険のように、民間の保険会社が国有大手を凌ぐ勢いで成長を遂げているのも特長の1つであろう3。中国平安保険はフィンテックを事業の柱の1つと位置づけ、本業の保険事業とシナジー効果の高い金融分野(レンディング、ネット金融商品など)、医療分野(オンライン医療など)に積極的に投資している。中核となる本業の周辺に資源を投下することで、自社のコアコンピタンスを強化している。結果として、本業以外からも収益を確保するなど、保険事業にとどまらず金融業全体を牽引する存在となりつつある。
            米フォーチュン社によるFortune Global 500(売上げベース)では、2017年は米国の132社に次いで、中国が115社を占めた。115社のうち、保険会社が7社となっている(図表6)。
500社全体のうち保険会社をみると、アクサ(25位)、日本郵政(33位)、アリアンツ(34位)が上位3社となっており、中国平安保険(39位)がそれに次いで4番目となった2。中国の保険会社についても、7社のうち5社が2016年より順位を引き上げるなど、成長を続けている。
また、中国平安保険のように、民間の保険会社が国有大手を凌ぐ勢いで成長を遂げているのも特長の1つであろう3。中国平安保険はフィンテックを事業の柱の1つと位置づけ、本業の保険事業とシナジー効果の高い金融分野(レンディング、ネット金融商品など)、医療分野(オンライン医療など)に積極的に投資している。中核となる本業の周辺に資源を投下することで、自社のコアコンピタンスを強化している。結果として、本業以外からも収益を確保するなど、保険事業にとどまらず金融業全体を牽引する存在となりつつある。
                                            このように、中国の生保市場の高成長には、まず、資産形成や、老後保障といった社会保険の補完として、保険商品への強い需要がベースにある。加えて、国も保険料控除策を導入するなど、保険商品への加入をサポートしている。更に、市場を牽引する保険会社においては、ITとの融合を進めることで売上げ及び収益を伸ばしている。今後は、インシュアテックによる低額・短期の保険商品の開発など、今まで保険商品にアクセスできなかった顧客層の取り込みや、P2P保険で特定のニーズへのアプローチなども更に増加すると考えられる。中国の生保市場の成長の勢いは暫く続きそうである。
 
2 日本郵政グループとして、かんぽ生命以外に、郵貯や郵便業務も含む。
3 保険・年金フォーカス「中国フィンテック、平安保険の戦略―ネット金融経済圏の形成、集まる4億人の金融ビッグデータ」 中国保険市場の最新動向(27)2017年8月15日発行
(参考レポート)ニッセイ基礎研REPORT 松岡博司著「保険料と保障の規模からみた主要国の生保市場」(2003年4月)
                                    
            2 日本郵政グループとして、かんぽ生命以外に、郵貯や郵便業務も含む。
3 保険・年金フォーカス「中国フィンテック、平安保険の戦略―ネット金融経済圏の形成、集まる4億人の金融ビッグデータ」 中国保険市場の最新動向(27)2017年8月15日発行
(参考レポート)ニッセイ基礎研REPORT 松岡博司著「保険料と保障の規模からみた主要国の生保市場」(2003年4月)
(2018年08月21日「保険・年金フォーカス」)
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経歴
                            - 【職歴】
 2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
 (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了、博士(学術)) 【社外委員等】
 ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
 (2019~2020年度・2023年度~)
 ・金融庁 中国金融研究会委員(2024年度~)
 ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
 ・千葉大学客員教授(2024年度~)
 ・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
 日本保険学会、社会政策学会、他
片山 ゆきのレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 | 
|---|---|---|---|
| 2025/10/21 | 中国、社会保険料徴収をとりまく課題【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(71) | 片山 ゆき | 保険・年金フォーカス | 
| 2025/09/02 | 中国、社会保険料の納付強化 | 片山 ゆき | 基礎研レター | 
| 2025/08/08 | 中国、3歳まで育児手当支給へ | 片山 ゆき | 基礎研レター | 
| 2025/08/05 | 消費喚起と社会保障(中国)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(70) | 片山 ゆき | 保険・年金フォーカス | 
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