2018年08月17日

回復がもたつく米住宅市場 -米経済は好調も、住宅供給不足や、金利・住宅価格上昇が住宅市場回復の重石に

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

米国経済は、18年4-6月期の実質GDP成長率(前期比年率)が+4.1%と、高成長となった。しかしながら、GDPにおける住宅投資は同▲1.1%と2期連続のマイナス成長となっており、経済全般が好調な中にあっても、回復がもたついている(前掲図表1)。また、住宅着工件数の先行指標である着工許可件数は足元で減少しているため、7-9月期も住宅投資が弱い可能性を示唆している。

雇用不安の後退などを背景に住宅需要は依然として強いものの、従前からの住宅価格上昇に加え、16年後半以降は住宅ローン金利が上昇に転じたこともあって、住宅ローン返済額の増加に伴う住宅取得能力の低下が続いており、住宅市場を取り巻く環境は厳しさを増している。

本稿では、米住宅市場の現状を確認するとともに、今後の見通しについて論じている。結論から言えば、米経済の回復が持続する中でも、住宅市場の回復は今後ももたつく可能性が高いというものだ。
 

2.米住宅市場の動向

2. 米住宅市場の動向

(図表2)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び (住宅着工・許可件数):許可件数の減少は7-9月期の住宅投資回復のもたつきを示唆
住宅着工件数は(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は7月が年率▲22.3%となり、17年12月の同+33.5%をピークに低下基調に転じている(図表2)。

さらに、住宅着工件数の先行指標である着工許可件数も7月が同▲14.8%と2桁の減少となった。許可件数も17年12月の同+19.5%をピークに低下基調となっているほか、2ヵ月連続で2桁のマイナスとなっていることから、GDPにおける7-9月期の住宅投資も弱い可能性を示唆している。
 
(住宅販売):新築・中古住宅ともに足元で回復モメンタムは低下
新築住宅販売件数(3ヵ月移動平均)は18年6月が64.6万件となり、3ヵ月前比で年率▲6.0%と、18年2月(同▲6.9%)に次ぐ落込みとなった(図表3)。販売件数は18年に入ってから66万件で頭打ちしており、新築住宅販売件数の回復モメンタムは低下している。

なお、新築住宅販売のモメンタムは低下しているものの、新築住宅の在庫水準(3ヵ月移動平均)は6月が29.8万件となったほか、販売額と比べた在庫月数は5.5ヵ月と比較的安定的に推移しており、在庫に積み上がりはみられない。

一方、新築住宅販売に関する建設業者のセンチメントを示す住宅市場指数は、18年8月が67と高い水準は維持しているものの、こちらも17年12月につけた74をピークに低下基調となっており、センチメントは悪化している(図表4)。なお、同指数の項目別内訳をみると、住宅販売の現況指数が17年9月以来の水準に低下したほか、住宅販売の6ヵ月見通しは16年11月以来の水準に低下しており、販売見込みの落ち込みが大きくなっていることが注目される。
(図表3)新築住宅販売および在庫/(図表4)住宅市場指数
次に、新築住宅に比べて圧倒的に販売件数が大きい中古住宅販売件数(3ヵ月移動平均)は、18年6月が541.3万件と、こちらも新築住宅同様17年12月(559.3万件)をピークに低下基調となっている(図表5)。

一方、中古住宅在庫(3ヵ月移動平均)は6月が187.3万件と、18年2月(152.0万件)のボトムから増加、在庫月数も3.3ヵ月から4.2ヵ月に増加しており、足元では幾分改善がみられる。

しかしながら、中古住宅在庫の前回のピークであった14年夏場の230万件(在庫月数5.6ヵ月)を大幅に下回る状況が続いており、中古住宅在庫が不足している状況に変わりがない。住宅販売業者は、適正な在庫水準を在庫月数で6ヵ月程度としており、深刻な在庫不足が中古住宅販売に悪影響を与えていると指摘する声は強い。

実際、住宅在庫件数(前年同月比)は15年以降前年割れの状況が続いている(図表6)。また、中古住宅販売の価格階層別に14年の前回ピーク時点と直近(18年6月)の在庫水準を比較すると、価格上位が▲19.9%の減少幅に対し、中古住宅販売のボリュームゾーンとみられる中位が▲33.7%、下位が▲32.9%と中位、下位で落ち込みが顕著となっていることが分かる。
(図表5)中古住宅販売および在庫/(図表6)価格階層別住宅在庫件数
(住宅価格):住宅価格の上昇が持続、とくに中古住宅価格の上昇が顕著
住宅価格指数(前年同月)は、米国連邦住宅金融局(FHFA)が公表する住宅価格指数、ケース・シラー住宅価格指数ともに価格上昇の持続を示しており、18年6月に前者が+6.5%、後者が+6.4%となった(図表7)。これは、2%近辺の消費者物価や、2%台後半の賃金上昇率を大幅に上回るペースである。

一方、中古住宅と新築住宅の販売価格(中央値)は、18年6月の新築住宅価格(12ヵ月移動平均)が32.4万ドル、中古住宅価格(同)が25.2万ドルと7万ドル程度の開きがある(図表8)。また、販売価格比(新築/中古住宅)の推移をみると、15年以降は低下基調が持続しており、中古住宅価格の上昇スピードが新築住宅を上回っている。このため、中古住宅販売の在庫不足が、中古住宅価格を上昇させる要因となっていることが伺われる。
(図表7)住宅価格/(図表8)新築、中古住宅販売価格比較
(住宅ローン):金利上昇に伴い、住宅ローン申請件数は減少。一方、延滞率は改善が継続
住宅ローン金利(30年)は、16年夏場の3%台半ばから足元では5%台手前まで上昇している。米抵当銀行協会(MBA)が公表している借換えも含めた住宅ローン申請件数(90年3月を100とする指数)は同時期に600超から300台前半まで大幅に低下しており、住宅ローン金利の上昇が住宅ローン需要に影響している可能性が高い(図表9)。

もっとも、家計部門における住宅ローン残高自体は緩やかな増加基調が続いており、18年6月末残高は9兆ドルとなった(図表10)。これは家計部門の負債残高(13.3兆ドル)のおよそ7割弱を占めている。一方、住宅ローンの長期延滞率(90日以上)は、13年初の5%台前半から足元は1.1%となるなど低下基調が持続しており、住宅ローンにおけるクレジットの質に悪化はみられない。
(図表9)住宅価格/(図表10)新築、中古住宅販売価格比較
(図表11)住宅取得能力指数 (住宅取得能力):住宅価格や住宅ローン金利の上昇により、住宅取得能力は低下

中古住宅を取得する際の住宅ローン返済額と所得を比べた住宅取得能力指数は、18年6月が134.8と、依然として所得が住宅ローン返済額を3割程度上回る状況となっていることが分かる(図表11)。

一方、同指数の推移をみると13年の200超からは大幅に低下しているほか、18年以降は低下スピードが加速している。これは、住宅価格が上昇していることに加え、住宅ローン金利の上昇が住宅ローン返済額を増加させている影響が大きいと考えられる。

今後も住宅価格や住宅ローン金利の上昇は継続が見込まれており、所得が住宅ローン返済額の増加に追いつかない場合には、住宅取得能力の低下を通じて住宅需要に影響するため、動向が注目される。

3.住宅市場見通し

3. 住宅市場見通し

(住宅需要):住宅需要は依然として強いものの、頭打ち傾向
連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)が発表している住宅購入センチメント指数は、高い水準を維持しているものの、7月は86.5と統計開始以来最高となった18年5月の92.3からは2ヵ月連続で低下した(図表12)。
7月の結果について、ファニーメイのシニアエコノミストは、「住宅供給が緩やかな伸びに留まっているため、住宅売却を考えている者が売却後の購入物件を見つけるのが難しくなっていることや、住宅ローン金利の上昇見込み、住宅価格の大幅な上昇、などによって同指数が停滞期に到達したとみられる」と指摘1した。

米国では労働市場の回復が続いており、雇用不安が後退していることもあって、今後住宅需要が大幅に悪化する可能性は低いが、住宅取得能力が低下しているため、住宅需要は頭打ちとなる可能性が高いとみられる。
(図表12)住宅購入センチメント指数
(住宅供給):建材価格上昇、労働力不足が住宅供給の制約要因
一方、供給面では建材価格の上昇に伴う建設コストの増加や、建設業界の労働力不足が住宅供給の制約要因となる可能性が懸念される。生産者物価のうち、住宅建設で用いられる木材の価格は前年同月比で18年7月が+19.5%となったほか、構造パネルも同+30.2%と建設資材価格の上昇が非常に顕著となっている(図表13)。また、これらの価格上昇に伴い住宅建設の投入価格(財)も7月は同+9.0%と09年9月以来の水準となった。

さらに、建設業の雇用者数は増加基調が持続しているものの、求人労働移動調査(JOLT)調査で求人数(3ヵ月移動平均)は25.3万人、求人率も3.4%と、いずれも01年6月以来の水準となっており、建設業界における労働力不足が深刻化している(図表14)。

実際、全米建設業協会による戸建て建設業者に対する17年12月の調査*2でも、18年に予想される深刻な問題として「建材価格」の回答割合が84%と、「人手不足・労働コスト」の84%と併せて最も高くなっており、住宅建設業界でこれらの問題に対する懸念が強まっている。
 

2 http://eyeonhousing.org/2018/01/building-materials-prices-and-labor-access-top-challenges-for-2018/
(図表13)建築関連の生産者物価/(図表14)建築業の求人労働移動調査
(住宅供給):建材価格上昇、労働力不足が住宅供給の制約要因
これまでみたように、住宅着工件数や住宅販売などの主要な住宅関連指標は足元で住宅市場の回復モメンタムが低下していることを示している。また、住宅価格や住宅ローン金利は今後も上昇が見込まれるため、住宅取得能力は低下基調が持続する可能性が高い。

一方、住宅需要には頭打ちの兆しがみられているほか、建設資材価格の上昇に伴う建設コストの上昇や労働力不足が住宅供給の制約になる可能性が出ており、住宅市場を取り巻く環境は厳しさを増している。

このため、今後、米経済が好調を維持する中でも、上記の需給要因などによって回復はもたつく可能性が高いだろう
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年08月17日「Weekly エコノミスト・レター」)

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