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介護職員不足への対応-「まんじゅう型」から「富士山型」への構造転換をどう進めるか?
                                                保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――「まんじゅう型」から「富士山型」への介護人材の変革
この点を踏まえると、現在のように介護人材のキャリアパスに多様性が乏しいことは、2つの点で問題となろう。1つは、専門性を高めようとする職員の意欲向上に応えられない点。もう1つは、処遇が低い上に、人材基盤として新卒者ばかりを念頭に置いているために、中高年齢者などの人材取り込みが図りにくい点である。
厚生労働省の審議会では、現状を、裾野が狭く専門性や機能分化に乏しい「まんじゅう型」と位置づけ、これを広い裾野で高度な専門性や機能分化を実現する「富士山型」へと構造転換する必要があるとしている。そのために、人材の層に応じたきめ細かな方策を講じることが必要としている。
5――介護の人材不足を解消するための取り組み
7 なお、筆者の計算によると、加算(II)~(V) 適用の介護施設では、常勤の介護職員の平均月給が前年よりも6,907円増加している。このため、加算(I)の新設とは別に、ベースとなる処遇の改善も進んでいるものとみられる。
厚生労働省は、介護福祉士等修学資金貸付制度を創設した。介護福祉士養成施設校に進学した学生について、入学準備金20万円まで。学費 ひと月あたり最高5万円。就職準備金20万円までを貸与する。貸付利子は、無利子。卒業後、貸付を受けた都道府県内で、介護業務に5年間継続して従事すると、その返済は免除される。
2009年より、介護福祉士の資格取得を目指した職業訓練事業が実施されている。ハローワークで受講を申し込む求職者の訓練受講料を無料とし、介護福祉士養成施設校へ通わせる取り扱いとしている。
2015年度に、介護福祉士の資格取得者で介護職に従事している人の割合は56%にとどまっている8。この割合は、近年、6割弱で推移している。2017年度からは、介護から離職している資格取得者等の届出制度(離職介護福祉士等届出制度)が開始された。これは「看護師等の届出制度」(2015年10月より開始)と類似した制度で、潜在資格保持者を把握して、再就職を促そうとするものである。
8 2015年度の介護福祉士登録者は1,398,315人、従事者は782,930人で、従事率は56.0%にとどまっている。「介護人材の確保対策と外国人介護人材に関する動向」榎本芳人(医療介護福祉政策研究フォーラム, 第46回月例社会保障研究会(2017年4月20日))より。
介護職の専門性を高める取り組みとして、介護福祉士の上位資格として、「認定介護福祉士」が設けられている。2015年12月に一般社団法人 認定介護福祉士認証・認定機構が設立され、同機構が認証した研修を受講した人が資格を得る。資格取得には、600時間の研修の受講が必要であり、そのための時間確保が簡単ではないとの声が聞かれる。公益社団法人 日本介護福祉士会が2014年に公表した認定介護福祉士に関する報告書9では、「2025年には、介護福祉士の2~3%が認定介護福祉士になると想定する」とされている。2017年12月までに、28名が認定介護福祉士の資格を取得している。これは、162万人あまり10の介護福祉士資格保持者の0.0017%に相当するのみとなっている。
9「質の高い介護サービスの提供力、医療連係能力等を持つ介護福祉士(認定介護福祉士)の養成・技能認定等に関する調査研究事業報告書」(公益社団法人 日本介護福祉士会, 平成26年3月)より。
6――おわりに (私見)
介護職について、賃金カーブを含めた処遇の改善を図るとともに、社会的な評価の向上が求められる。広い裾野から介護人材を取り込むとともに、高度な専門性や機能分化を実現するために、「まんじゅう型」から「富士山型」への構造転換は不可欠といえるだろう。その具体策の進展に期待したい。
年齢層、介護の得意分野、これまでの業務経験、目標や働き甲斐などの面で、多様な介護人材の活躍に向けて、介護職制度の整備が求められよう。今後も、その動向に注目していくこととしたい。
(2018年07月24日「保険・年金フォーカス」)
                                        保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
                                研究・専門分野
                                保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
                            
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員 
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