2018年07月24日

介護職員不足への対応-「まんじゅう型」から「富士山型」への構造転換をどう進めるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4――「まんじゅう型」から「富士山型」への介護人材の変革

これまでに見たとおり、一口に介護職員といっても、人材は性別・年齢・養成ルートなど幅広い。従って、目指すキャリアの内容も多様なものとなろう。例えば、養成施設等を卒業して間もない若手人材は、介護業務のマネジメントや、社会福祉・社会保障のスペシャリストとしてのキャリア形成を重視し、賃金カーブの引き上げを求めることが想定される。一方、高齢の介護職員は、処遇の改善や働きやすさ向上のための環境整備を望み、現業での働き甲斐を追求するケースが多いとみられる。

この点を踏まえると、現在のように介護人材のキャリアパスに多様性が乏しいことは、2つの点で問題となろう。1つは、専門性を高めようとする職員の意欲向上に応えられない点。もう1つは、処遇が低い上に、人材基盤として新卒者ばかりを念頭に置いているために、中高年齢者などの人材取り込みが図りにくい点である。

厚生労働省の審議会では、現状を、裾野が狭く専門性や機能分化に乏しい「まんじゅう型」と位置づけ、これを広い裾野で高度な専門性や機能分化を実現する「富士山型」へと構造転換する必要があるとしている。そのために、人材の層に応じたきめ細かな方策を講じることが必要としている。
図表9. 介護人材の構造転換

5――介護の人材不足を解消するための取り組み

5――介護の人材不足を解消するための取り組み

介護人材構造の転換に向けて、すでにいくつかの取組みが進められている。

1介護報酬に、介護職員の処遇改善加算が導入されている
介護報酬において、キャリアパス要件や職場環境等要件の充足に応じて、介護職員処遇改善加算が行われている。この加算は2012年度に設けられ、2015年度、2017年度に拡充されてきた。
図表10. 介護職員処遇改善加算の拡充
厚生労働省が行った2017年9月分の給与の調査によると、加算(Ⅰ)が適用された介護施設では、常勤介護職員の平均月給が対前年13,660円増加した。2017年度に新設された加算(I)では、加算(II)よりも加算額が上乗せされたことの効果が現れているものとみられ、処遇改善加算効果がうかがえる7
 
7 なお、筆者の計算によると、加算(II)~(V) 適用の介護施設では、常勤の介護職員の平均月給が前年よりも6,907円増加している。このため、加算(I)の新設とは別に、ベースとなる処遇の改善も進んでいるものとみられる。
2介護職を目指す学生には学資貸付が行われており、介護業務に5年間継続従事すると返済免除となる
厚生労働省は、介護福祉士等修学資金貸付制度を創設した。介護福祉士養成施設校に進学した学生について、入学準備金20万円まで。学費 ひと月あたり最高5万円。就職準備金20万円までを貸与する。貸付利子は、無利子。卒業後、貸付を受けた都道府県内で、介護業務に5年間継続して従事すると、その返済は免除される。
3求職者を対象に職業訓練事業が行われている
2009年より、介護福祉士の資格取得を目指した職業訓練事業が実施されている。ハローワークで受講を申し込む求職者の訓練受講料を無料とし、介護福祉士養成施設校へ通わせる取り扱いとしている。
4介護職離職者の届出制度が開始されている
2015年度に、介護福祉士の資格取得者で介護職に従事している人の割合は56%にとどまっている8。この割合は、近年、6割弱で推移している。2017年度からは、介護から離職している資格取得者等の届出制度(離職介護福祉士等届出制度)が開始された。これは「看護師等の届出制度」(2015年10月より開始)と類似した制度で、潜在資格保持者を把握して、再就職を促そうとするものである。
 
8 2015年度の介護福祉士登録者は1,398,315人、従事者は782,930人で、従事率は56.0%にとどまっている。「介護人材の確保対策と外国人介護人材に関する動向」榎本芳人(医療介護福祉政策研究フォーラム, 第46回月例社会保障研究会(2017年4月20日))より。
5介護福祉士の上位資格が設けられている
介護職の専門性を高める取り組みとして、介護福祉士の上位資格として、「認定介護福祉士」が設けられている。2015年12月に一般社団法人 認定介護福祉士認証・認定機構が設立され、同機構が認証した研修を受講した人が資格を得る。資格取得には、600時間の研修の受講が必要であり、そのための時間確保が簡単ではないとの声が聞かれる。公益社団法人 日本介護福祉士会が2014年に公表した認定介護福祉士に関する報告書9では、「2025年には、介護福祉士の2~3%が認定介護福祉士になると想定する」とされている。2017年12月までに、28名が認定介護福祉士の資格を取得している。これは、162万人あまり10の介護福祉士資格保持者の0.0017%に相当するのみとなっている。
 
9「質の高い介護サービスの提供力、医療連係能力等を持つ介護福祉士(認定介護福祉士)の養成・技能認定等に関する調査研究事業報告書」(公益社団法人 日本介護福祉士会, 平成26年3月)より。
10 2018年2月末登録者155.4万人と2018年3月合格者6.6万人の合計。

5――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

現状では、介護のニーズは高まっている一方、介護の担い手は増えていない。団塊の世代(1947~49年生まれ)がすべて75歳以上となる2025年に向けて、介護のニーズはさらに高まるとみられる。介護人材の需給が逼迫すれば、必要な介護ケアが行えない事態も生じかねない。

介護職について、賃金カーブを含めた処遇の改善を図るとともに、社会的な評価の向上が求められる。広い裾野から介護人材を取り込むとともに、高度な専門性や機能分化を実現するために、「まんじゅう型」から「富士山型」への構造転換は不可欠といえるだろう。その具体策の進展に期待したい。

年齢層、介護の得意分野、これまでの業務経験、目標や働き甲斐などの面で、多様な介護人材の活躍に向けて、介護職制度の整備が求められよう。今後も、その動向に注目していくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2018年07月24日「保険・年金フォーカス」)

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