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人手不足に起因する物流コスト上昇が喚起する物流施設への需要
金融研究部 主任研究員 吉田 資
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1――はじめに
厚生労働省「職業安定業務統計」によれば、2017年12月時点の職業全体の有効求人倍率は、1.52倍であるのに対し、トラックドライバー等を含む「自動車運転手」の有効求人倍率は3.09倍と高い(図表-1)。上昇幅も、職業全体では0.53ポイントの上昇(対2014年1月時点)であるのに対し、「自動車運転者」は1.16ポイントの上昇となり、ドライバーの労働需給が非常に逼迫している状況がうかがえる。このような状況は物流実務の現場にも影響を及ぼしており、荷主企業および物流企業を調査対象としたアンケート調査1では、物流業務の課題として、物流企業の65%、荷主企業の41%が「トラックドライバーの確保」を挙げている。
また、トラックドライバー不足とともに、物流施設内作業を行うパート従業員の確保も重大な課題となっている。2017年12月時点の常用的パート全体の有効求人倍率は、1.65倍であるのに対し、物流施設内作業員を含む「運搬」に関するパートの求人倍率は2.75倍と高い(図表-2)。前述のアンケート調査でも、物流企業の33%、荷主企業の26%が「倉庫内作業人員の確保」を物流業務の課題に挙げている。
上記のような物流コスト上昇に対し、企業は有効なコスト削減策を講じなければならない。その際には、昨今の物流において重要な位置付けを担っている物流施設の立地や役割等を見直すことも必要となる。
本稿では、まず、人手不足下における物流コストの現状と今後の方向性について概観する。そして、物流コスト削減の取組みが物流施設への需要に与える影響について考察する。
1 吉田資『これからの物流不動産に求められる機能・役割~「物流不動産の活用戦略に関するアンケート調査」に基づく考察~』 三井住友トラスト基礎研究所Report、2017年4月21日
2――物流コストの動向
物流コストは、大きく「輸送費」、「荷役費」(流通加工、ピッキング、仕分などを行う費用)、「保管費」、「包装費」、「物流管理費2」で構成される。物流コストの内訳(全業種平均)をみると、「輸送費」の割合が56.0%で最も大きく、次いで「保管費」(17.2%)、「荷役費」(15.7%)となっている(図表-4)。
業種別にみると、「荷役費」の割合は、卸売業で28%、小売業で31%と比較的大きい値となっている。卸売業の物流施設は、メーカーから大量の商品を仕入れ、小売業から要請に応じ商品を小分けに配送を行っており、施設内で仕分け等の作業に携わる人が多い。また、小売業においては、ネット通販の存在感が高まっている。ネット通販の貨物を扱う流通型物流施設では、大量の商品を迅速に出入荷する必要があり、卸売業と同様に施設内で多くの人が仕分け等の作業に携わっている。
以下では、物流コストに占める割合が大きく、かつ人手不足の強い影響を受ける「輸送費」および「荷役費」の現状を概観した上で、物流コストの動向について考察する。
2 情報処理費などの物流施設の管理・運営に必要な費用。
2-1輸送費は、ドライバー不足等に伴い増加
輸送費(トラック輸送3)の原価構造を確認すると、「運転者人件費」の割合(45.9%)は5割弱で最も大きく、次いでガソリン等の「燃焼油脂費」(12.6%)が大きい(図表-5)。
「運転者人件費」に関して、トラック運送業界の労働需給を示す「労働力の不足感の判断指数」は、上昇傾向で推移している(図表-6)。2017年第4四半期の人手不足DIはプラス95.5となり、過去最高水準付近に達した。相対的に労働環境が厳しいトラックドライバーの雇用状況は、ネット通販市場の拡大等による多頻度小口輸送の増加(配送回数の増加)も相まって、非常に逼迫している。
輸送費の動向に関して、日本銀行「企業向けサービス価格指数」によれば、企業物流の中心である「貸切貨物」と「積合せ5貨物」の輸送指数は、消費増税の影響で大きく上昇した2014年以降、比較的安定的に推移してきた。しかし、足元では「積合せ貨物」の輸送指数の上昇が目立つ。(図表-8)。また、スポット輸送の運賃を表す「求荷求車情報ネットワーク(WebKIT)成約運賃指数」(公益財団法人日本トラック協会)も、2017年後半以降上昇している(図表-9)。
深刻なトラックドライバー不足とともに足元の燃料費の上昇が影響し、企業の輸送費は増加傾向にあると考えられる。
3 平成27年度のトラック貨物量は、約43億トン(国内貨物量の約9割)。
4 上野剛志『ここに注目!原油相場~原油相場の動向と見通し』ニッセイ基礎研究所、基礎研レター、2018年2月19日
5 一台の車両に複数の荷主の貨物を積合せて輸送すること。
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