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DC制度の普及に向けた課題

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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1――企業年金等の加入状況

2――私的年金制度の普及・拡大策
広範にわたる議論を経て、これまでに施行された主な制度改正として、以下が挙げられる。
企業年金の導入割合が総じて低水準に留まるなか、特に企業年金を導入する割合が低い中小企業への対応が急務となっているが、こうした課題に対応する上では、追加的な掛金負担を迫られかねないDB制度よりも、拠出建て制度ゆえに掛金の追加負担を心配する必要のないDC制度の方が中小企業にとっては受け入れやすいとの判断がその一つである。また、離・転職を前提とした働き方が増え、ライフコースの多様化が進む中にあって、企業に依存せずに老後に備えることの重要性は着実に高まっているが、こうした環境変化に対応する上では、労働移動などにも対応できる制度として創設され、個人が任意で加入することができる仕組みも備えるDC制度の見直しが必要との認識もある。世界的にもDB制度からDC制度へシフトする動きが見られるなかで、日本においてもDC制度の相対的なポテンシャルの高さが意識されたことも勘案され、一連の私的年金制度の改正ではDC制度が中心となっている。
いずれにしても、一連の改正には、特にDC制度の利便性を高めることを通じて普及・拡大を図り、更には、DC制度加入者による運用を改善する仕組みの導入によって、高齢期に備えた効果的な資産形成を促す狙いが込められている。
施行のタイミングはそれぞれに異なっており、2018年5月に施行されたばかりという改正も含まれる。従って、上述の加入者数の推移には、これら一連の改正による効果が十分に反映されている訳ではなく、将来的には、普及・拡大が進む可能性もある。しかしながら、改正の目玉の一つである個人型DC制度の加入可能範囲の拡大が施行された昨年1月以降の個人型DC制度の加入者数の推移を見ると、それ以前に比べ増加ペースは速まっているとは言え、2018年4月時点の加入者数は89万人に留まっている。潜在的な加入可能者数の2%にも満たない水準であり、加入者数は必ずしも期待通りには増えていないというのが足元の状況だろう。
6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、DC制度について、「中小事業主掛金納付制度や簡易型DC制度の周知を行うとともに、個人型DCも含め、運営管理機関の営業職員による加入者等への運用商品の情報提供を可能とするなど、私的年金制度の普及・充実を図る」ことが盛り込まれた。また、「規制改革実施計画」でも、「確定拠出年金に関する規制改革」のなかで、金融機関の営業職員が加入者等に対して確定拠出年金の運用商品についての情報を提供することを可能にする、いわゆる「兼務規制の緩和」が盛り込まれたほか、「個人型DC制度の加入者資格喪失年齢の引上げ」、「私的年金普及・拡大のための更なる方策の検討」などが盛り込まれている。普及・拡大を阻む障害を取り除き、更なる普及・拡大に向けた検討が進められることになる。
3――DC制度の兼務規制の緩和
そもそも兼務規制とは、運営管理機関である金融機関で預金や投資信託などの金融商品の営業を担う職員が、運用関連業務を行うことを禁止する規制である。運用関連業務には、DC制度の運用商品ラインナップの選定、選定された運用商品リストの加入者等への提示、個別の運用商品の具体的な情報の提供が含まれるが、金融機関が運営管理機関の場合には、運用関連業務に際して利益相反の恐れがあるため、営業職員が運用関連業務を行うことが禁止され、当該業務は運用関連業務の専任者(以下、DC業務専任者)を通じて行うことが求められている。運営管理機関は、加入者等の利益が最大となるように運営管理業務を行う忠実義務が課せられており、その確実な遵守を担保するためである。

具体的には、運用商品の提示や運用商品の情報提供については、営業職員でも行えるように規制が緩和される方向である。一方、運用商品の選定については、自社商品を優先的に商品ラインナップに組み込む等により、利益相反の可能性が高いことから、緩和しない取扱いとされる方向である。ただし、運営管理機関は、各金融業法と異なる行為規制や禁止行為が課されており、加入者等の利益が最大となるよう法令を遵守して運用関連業務が行われる必要がある。このため、運用関連業務を行うこととなる役職員への研修の実施、運用関連業務の適正かつ確実な実施のための社内規則等の整備、社内における法令遵守状況の検証等が、運営管理機関には求められることになる。
なお、兼務規制は既にDC制度に加入している人への対応に関する規制である。従って、規制が緩和されるにしても、それによって直接的にDC制度の加入者増を期待することはできない。しかしながら、加入者が感じる不便さが緩和されれば、DC制度に対する世間の評価を高めることにも繋がり得る。その意味でも、兼務規制の緩和は大いに歓迎される。
(2018年06月29日「基礎研レポート」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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